二杯目のフラペチーノ

「どこに行ってたんですか?」


 悠里は奢られた二杯目のフラペチーノを飲みながらそうやって質問する。


「全部回った。甘いものがある店…はぁ、はぁ」


 歩き回ってヘトヘトだった。

 恋はとりあえずコーヒーを買って悠里にフラペチーノをもう一杯。


「ん〜」


 疲れてはいたものの甘い物を美味しそうに飲む悠里を勝ち誇った顔で見つめる。


「知らないと思ったら大間違い」

「え?」

「こっちの話、あのね」


 恋は悠里が甘い物がなによりも好きなことを知らないはず。


 そう思って夕夏は悠里を甘いもので釣って別の場所に匿ってた。

 だけど恋は悠里の好きな物を知っていたから考えつく限りの甘いものが食べれるお店をしらみつぶしに探した。


「まさか駅前までなんて」


「そうですよね。夕夏ちゃんもわたしも電車使わないのに」


 夕夏も恋も悠里も高校まで電車を使わない。

 この三人は同じ地元で高校まで絶妙に交わることのない三人だった。

 夕夏はそれも知っていた。


 だからあえて使わない駅の方面に待ち合わせたのに。


「私もよ、本当によく調べたものだわ」

「そうなんですね!あ、そういえば敬語だめでしたっけ」

「もういいわよ。それにしても、会えてよかった」


 敬語がどうだってことももうどうでもよくなり恋は安心して息を漏らす


「そうですか?」


 それに対して悠里は思いの外気持ちがフラットだった。


「三日も会ってないのよ!?」

「そうですね」

「ちょっと!」


 悠里は甘いものを口に入れると全てが話半分になってしまうのかと恋は少し焦る。

 どうしたものかどうしたものかと慌てふためく恋を見て悠里は思わず笑ってしまう


「恋先輩、どうしたんですか?」

「え?あ、いや」

「はい、奢ってくれてありがとうございます。飲んでください」


 目を泳がす恋に笑って悠里はストローを向ける。


 まだ恋の目を見れないのに悠里はそういうことをする。


 なんとなく勘違いする中学生男子の気持ちに恋は共感する。


「…」

「はい、どうぞ」


 ナチュラルにやっているのか意識しているのか恋には全くわからない。

 ただ悠里にとっては自然体なだけだった。


 悠里は夕夏と恋と一緒にいるときだけ自然になれる。


 昔の話をして以来少し気が楽になって、自然になれる。


 それが悠里には嬉しくて、安心できる。


「ん、美味しい」


 恋の口の中に甘い味が広がる。

 キャラメルの感じがさっき飲んだコーヒーの香りに混ざって良い塩梅に気分が良くなる。

 喫茶店でコーヒーしか飲まない恋にはこの感覚は凄い不思議な感じだった


「甘いですよね」


「うん、甘いね…っ!」


 とても、とても甘い気分になる。

 恋はつい顔がほころぶ。


 ただ悠里はその後とても苦い気分になることは想像してなかった。

 ふんわりと甘い口当たりから、キリキリと苦い光景を目の当たりにする。


 そんなことを想像していない。


 それは、誰しもが想像していなかった。


「なに、しているの」


 その震えた声はガラス越しでも聞こえた。


 その声が


「なんで…」

 

 首を振って目の前の光景を否定しようとする。

 

 そんな夕夏の姿が悠里の目に入った

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