わたしを嫌いにならないで

 わたしに好きって言って付き合ってくれって言った男の子は野球部やサッカー部、運動部の子が多かったの。


 放課後、帰ろうとしたら入山さんに呼ばれてね。謝りたいって言われたの。

 入山さんがじゃなくて、わたしが振った男の子が今までのいじめについて謝りたいから来てって。


 あなたはさ、そう言われたらどう思う?信じる?


「「信じない」」


 だよね。多分今ならわたしも信じない。

 けどさ、いじめられる側ってね?許してほしいって気持ちがすごい大きいの。

 だから、これでみんなが許してくれるならってついて行った。

 むしろこっちの謝るチャンスをくれたんだって思ったよ




 悠里の話を聞いた時夕夏と恋は言葉に詰まっていた。

 びっくりしないわけがない。

 いじめの内容とか、二股とか、そんなことじゃない。

 悠里が許してあげる立場なのに、まだ罪悪感を抱いているってことにびっくりしたんだ。

 正しいのは悠里だって言ってあげたくなる。


 でもそんな簡単な言葉じゃこんなことを話している悠里には響かない。

 それだけは分かっていたからこの話を聞く時、夕夏と恋、二人とも黙って耳を傾けてる





「謝りたいんだって、でもさ、その前に話がしたいんだって」

「え?」


 入山さんに外の部活の道具とか用具室に案内された。


「誰にも見られたくないんだってさ。本当に誰も見てない空間で、片桐さんとゆっくり話したいんだってさ」

「なんで」

「そんなの知らないよ。早く入んなよ」

「でも!」

「早く入れよ!せっかく人が謝りたいって言ってんのに、サッカー部の悠人とか野球部の純哉とか、わざわざ部活抜けて待ってるのに!」


 そうやって顔を叩かれた。

 わたしは用具室に入ったよ。

 中には八人くらいかな。わたしに付き合ってほしいっていってくれた外の運動部の男の子が待ってた。

 入山さんはわたしが入ると鍵を閉めた。中で響くガチャンって音が怖かった。


「片桐さん」


 するとすぐね、一人の男の子が話し始めたの。

 最初の一言は


「ごめんなさい!」


 全員頭を下げてわたしに謝ってくれた。

 正直本当に嬉しいかった。

 やっと解放されると思った。許してくれたんだって。


「俺たち、昨日考えたんだよ。やっぱり謝らないとって。だってさ、俺たちまだ片桐さんが好きなんだ!」


 「好き」、許してくれた安心感とその言葉で、本当にわたしは嬉しくなった。今まで頑張って耐えた甲斐はあったんだって、自分で自分を褒めたくなった。

 だけど


「いや、そんな、わたしも…」

「だからさ...」

「ふふっ」


 わたしの言葉を遮って話は続いたの。

 それで用具室の外から少し漏れる笑い声に少し身体が震えた。


「だからさ!許してね...」


 その一言と一緒にわたしは手を掴まれた。

 傷がつく。一生ものの傷がつく。本当に怖かった。

 すぐわかったよ。何をされるか、本能みたいなものなのかな

 

「やめて!」


 振り払って何度も何度もそう言ってやめてほしくて大きな声を出したよ。

 沢山の手が本当に怖かった。


「おいそこ塞げ」

「なんか口に入れる?騒がれてもあれだろ」


「動画みてえだな...可愛い」


 そんなことを言ってたの覚えてるよ。


「やめて!やめてよ!っぐ!」

「あははははは!!!人の男に手を出すから!!」


 ジャージの袖口を口に詰められた。

 外からは入山さんの笑い声が聞こえた。

 あーそういうことなんだって理解した。

 全部、全部、わたしを傷つけるためのものなんだって。


「好意は人を傷つける」


 意味が分かったよ。どんなに好きって言われてもこんなことじゃ傷しかつかないもん。

 「好き」は痛かった。


 とてつもなくわたしをズタズタにした。

 その気持ちがとても大切だったから。

 わたしは上着を吐き出して、力一杯狭い倉庫の中を走って逃げた。

 そうやって用具室のものバラまいたり暴れたりしたおかげでさなんとか先生が間に合った。


 先生はすごい怒ってたけど、野球部の男の子が使う物を一緒に探してもらってたって言い分が通っちゃってさ、おとがめはなし。

 わたしも強引に服を脱がされるまでいってなかったからそうなったんだろうね。

 疲れちゃって襲われそうになったなんて言う気も起きなかったし、わたしもそういうことでもういいやって納得して。

 入山さんも逃げちゃったらしくていなかった。

 

 ただ、いじめの件もあって先生はわたしをすぐ家に帰るように言ってくれたよ。


 他の男の子とかと会わないように教師用の昇降口に連れてってくれた。


 でもさ、凄いもうなんか、心が疲れちゃってさ。


 その時は何度も靴をトントンしてかかと確認したり脱いで小石がないかチェックしたり、色々と不安になってたよ。


 そんなときに入山さんに会った。


 入山さんは何もなかったようにわたしに笑ってね。

 そのあとわたしに翔くんと帰るところを見せつけてわたしの元まで歩いてきたの。


「あなたの大好きな男に相手してもらってよかった?」


 嫌味っぽく、わたしの顔をゆっくりと撫でて耳元で囁いた。


「あなたが悪いんだよ?あいつらは振られて傷ついただろうね。ちょっと好きって言われたくらいで調子に乗るからだよ」


 そうやって囁いたあと、彼女は翔くんと帰ってった。

 その言葉を聞いてわたしは息ができなくなった。

 苦しくて、息を吸おうにも吐こうにも、体が強張って動かない。

 頭の中がねじれて、ひっくり返ったみたいに痛くて、苦しくて、どうしたらいいか分からなかった

 人の目が怖い、見られると怖い、踏み込まれると思っちゃう。


 その時、「好き」は「嫌い」なんだって思った。

 はっきりと好きの反対は無関心なんだって分かった。

 わたしに向ける思いがネガティブかポジティブかの違い。


 すぐ「好き」は「嫌い」になる。


 わたしは調子に乗ってたんだ。嫌われる辛さを知らなかった。

 だから、だから...こうなっちゃった。

 人に嫌われないために、好かれないためにって人を避ける。

 友達とも連絡を取らなくなって、「好き」ってお互い言い合うのが凄い幸せだったのにね?

 ある日多分わたしを心配して友達が「好き」って送ってくれたけどそれすらもすごい怖かった。

 あのメッセージ、いまだに返せてないよ。わたし。

 学校にも行かなくなって、あの人たちが絶対来ないようなこの高校を一生懸命勉強して受験したの。



 それで、あなたに出会った。

 あなたに出会って少し心を許してる自分がいる。

 好きになりかけちゃってる自分がいる

 「好き」が怖い、「好き」が「嫌い」になっちゃうのが怖い


 だから、お願い。


 わたしを、嫌いにならないで…

 そうすれば、わたしはあなたを「好き」で言られるから

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