「好き」は神経を逆撫でる
あの驚きの日から何日か経つ。
あの日からわたしは毎日のように勉強を教えてもらっている。
今日も恐ろしいくらい可愛くて、恐ろしいくらい唐突な人が隣にいる。
夕夏ちゃんにあの日のことを話すと血相変えて「気をつけてね」って顔を見て背中を叩いてた。本当は自分も付き添って何かしないか見張りたいけど部活のせいで無理だからってなんども念を押されちゃった。
そんな夕夏ちゃんの心配とは裏腹に先輩は思いの外強引って訳でもなかった
彼女は勉強を教えるのがとても上手で、苦手なタイプの問題とか、ここをこう解くんだという答えを教えるんじゃなくて導いてくれるから次から間違える気がしない。
「ほら!ここはこうなの!こうすると簡単でしょ?」
けど、ただ彼女はわたしにとってはすごい苦手なタイプの人みたいです。
たじろいで見せても口で言わないと分からないみたい、多分あえてやってるのかも
「...っ」
「ん?どうかした?」
「あの、近いんですけど」
「あー!ごめんね」
そう言ってやっと先輩は半身分距離を取る。
やっと正常な距離を取ってくれた。いくら勉強を教えると言っても完全に身体を密着させる必要も髪の毛がほっぺに触れるくらい顔を近づける必要もないとわたしは思う。
多分それは先輩もわかってる。
「これでいいですかね?」
わたしは言われたところを直して問題集の1ページ分の答えをまた見せる
「うん!全部合ってる!やっぱ悠里すごいね!天才だね!」
天才に天才と褒められると嫌味なようにも聞こえちゃうけどきっと嫌味じゃない。
まるで自分を褒めるように先輩は喜んでいる。
先輩は今まで国数英理社は全部満点で一問も間違えたことがないらしい。順位も特進クラスでずっと一位。ただこう色々道筋を教えてもらうともしかしたら相当な努力家なのかもしれない。
「せ、先輩すごいですね。いつもこうやって、勉強してるんですか?」
「勉強なんかしないよ。教科書一回読んだら覚えるでしょ?普通」
ごめんなさい天才でした。わたしには一回教科書読んだだけで満点は不可能です
「わ、分かりやすいです。せ、先輩の教え方」
「そんなことないよ。悠里がしっかり私の話を聞いてくれるから。他の人に教えても結局100吸収しないからね。特に私と同じ特進の生徒は自己中で自分が一番だとおもってるから」
そうやって先輩はわたしのノートを見つめて話す。
普通科のわたしにとっては特進の話なんて雲の上で実感が湧かない、もしかしてこんな人ばっかりなのかな?
「その点悠里はしっかり私の話を聞いて受け入れてる」
それは話を聞いてくれるのは先輩の方なのに、声が小さくてボソボソと喋るようになったわたしの言うことを聞き漏らさないように耳を傾けてくれてる先輩へのお返しみたいなもの。
それに特進の人の言うことを話半分で聞く理由もないし。
「優しいね」
「そ、そんなこと...」
「悠里はさ」
否定しようとすると先輩は割って入る
「人と話すこと、好きでしょ?」
先輩の一言に心がざわつく。
まただ…
またこの感覚…わたしの心の中の爆弾を爆破させる…
イライラが全身を虫のように駆け回る。
「なんで」
なんでこの人はわたしの触れて欲しくない部分に触れてくるのだろう。
それがとても腹立たしくて、寂しくて、こそばゆくて、とても不快だった。
「なんで、わたしにばっかり構うんですか。わたし、仲良くない人と話すの苦手だし、き、嫌いだし...なんでわたしなんですか、なんで、なんで!」
つい語気を強めてしまう。
ただ先輩はそんなことをものともせず見つめる。なぜかとてもイライラしてしまう
気持ちが凪いでいてなにも感じてないような。その視線がとても…
言葉にするのも憚れるくらい醜い感情がわたしから湧き出てしまう
「その目も! わたしの心を見透かしてるみたいで...! なにも知らないくせに...」
「知らないよ?だから知りたい。だからあなたのことを聞いてる。自分のことは自分が一番よく知っているでしょ?」
先輩はシンプルに反論をする。
無機質に淡々と。
それがまたわたしの神経を逆撫でしていることになんで気付かないんだろう
「なんで、なんで!」
「好きだから」
また「好き」… やめてほしい。
辛い。
歯を噛みしめる。
「そうか、悠里は自分で自分が分からないのね。本当のあなたがどれか」
「っ!」
先輩が顔に手を当てようとしたその瞬間、とても、とても、今までにないくらいイライラして
〈パァン!〉
つい、手が出てしまいました
その音でわたしは目が醒める
「あっ!わ、わたし!」
手に残るひりひりとした感覚、そして先輩の顔の真っ白だった頬がじんわり赤くなるのをみてさらに焦る
「謝らなくていいよ。悪いのは私だから。触れてはいけない部分だったのね。いやというかその、あなたの本当の顔を探そうとして、つい...」
珍しく言葉に詰まる先輩。本当の顔っていうのがなんのこと分からなかったけど、悪気がなかったことは分かった。
「ご、ごめんなさい!で、でも!あ、あの、もう一回聞きますけど、なんでわたしに構うんですか? い、いきなり好きとか、からかってるようにしか、思えないんですけど」
たどたどしい。
家族と夕夏ちゃん以外にこんな長く喋ることが久しぶりでどこで言葉を切るのが正しいのか分からない。
「へぇ好きってそういう風に捉えるんだ」
「…っ!」
あんな風に迫られたらそう考えるしかないじゃん!そういう風に言いたかったけど言えなかった
「私ね、人の仮面が見えるんだ」
先輩は唐突に、わたしのトーンに合わせるようにゆっくりと静かに話し出した
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