転移者支援クラン トゥ・アース運営日誌補足

NEO

Prologue


「元気でね。まあ、元いた世界に戻ったら、こちらの記憶は消えていると思うけどね」

こちらの世界で入口を作る役目のリアムが声をかけると、帰還希望者者が万が一迷った際の救出役を担当しているリーダーのただしも別れの言葉をかける。

「君が元いた世界にラーシュがいるから、ヤツの魔力をしっかりトレースするんだぞ、いいな。それじゃ、さよならだ」

「はい、皆さんもお元気で…アハハ、戻りたい気持ちのほうが強かったけど…いざ戻るとなると寂しいものですね。皆さん、今まで本当にありがとうございました」

一瞬、寂しげな表情になるも、すぐに晴れ晴れとした表情に戻り、別れの言葉を残し元の世界へと向かい消えていくと、少しの時間差で入れ替わるかのように帰還確認役のラーシュが転移して戻ってくる。

「ラーシュ、おかえり」

「ただいまぁ。リアム、タイミングばっちりだねぇ。無事に帰還したのを確認できたし、試しに声もかけたけど、ちゃんと記憶なくしてて僕のことわからなかったから大丈夫でしょぉ」

「さて…これで、帰還希望者は終わりだな、龍」

「おお、あいつで最後だぜ。けどよ…なんだろうな…雅、この取り残されたような寂しい気持ちに毎回なるのはよ…」

もう一人の救出役の龍がいつもの態度とは違い、珍しく寂しげにしている。

「全く…、何度も言うけど私たちだってあの時…ウィル…いえリアムに取り残されたときはこんな気持ちになったのよ…」

「ああ、あの時だよね…」


時は、5世代前に遡る。

とはいっても、4人が転移先のファレーンという異界から地球の日本へ帰還をした往生したのが最初の人生であり、その後四度も、同一時間軸での人生を経験したというのが実情である。

帰還者を見送るたびに、そのファレーンから帰還した時の事をなぜか皆が思い出してしまうのだ。

「なんかよ。長いようで短かった気もすんな…」

この地で勇者と呼ばれたあおいりゅうが呟いた。

普段から最も言葉遣いが乱暴な彼だが、自身は神職の家系であり八百萬大神だけでなく八大龍王大神をはじめとする龍神大神の加護を受けているため、神気に加え、龍気を自在に操り、また義理人情を重んじる仲間思いの人物である。

龍の言葉に、聖者と呼ばれ聖皇国せいこうこくという人族の国の元皇王だったひじりただしが答える。

「何が魔族や魔王を打倒せよ、だよな。蓋を開けてみたら、異種族間双方の勘違いからくるただの壮大な大喧嘩だったよな」

先述したとおり。彼らのリーダー的存在である雅が聖者と呼ばれた所以は、彼が高野山真言宗に属する僧侶の家系であり自身も一度僧侶を目指したことがあろ。

転移時に御仏の加護を一身に受けていたためファレーンにおいて魔力ではなく法術に長け、魔物の駆逐から身体回復までにその有り余る法力を活かしていたからである。

「そもそも、自分達で片付けなきゃいけない問題をさぁ。外様の僕たちに、任せようとすること自体が、間違ってるよねぇ。若返りも、皆にスキル付与も済ませたし、さっさと帰還しようよぉ。聖武器と魔剣もコピーしたしさぁ、そこらへんにぶっ刺しときゃいいでしょ?」

この間延びした話し方をするのがラーシュ・アンダーソン、かつて賢者と呼ばれた男である。

彼はスウェーデン系アメリカ人ではあるが生まれも育ちも日本であり、雅や龍とは物心のつく以前より親しい間柄、世間でいうところの幼馴染だ。

彼が賢者と言われる所以は、転移時に魔力覚醒を起こした結果、魔力量、質ともに当時ファレーン世界随一と言われた魔術師を凌駕し、なお且つ世界記憶概念アカシックレコードを駆使し膨大に有する魔力で不可能を可能にしてしまう奇跡とも呼べるような事象を幾度も起こしてきたからである。

ただ、当の本人はどこ吹く風だと言わんばかりにふざけており、自由奔放でいつも金儲けのネタを探しているような人物だ。

そのラーシュが早いところ4人のいた日本へ、それも中学卒業式の前日に戻ろうと皆を急がせる。

すると、今までを振り返ったのか人族から魔王と呼ばれた魔人族の元王ウィル・ヴァイン・イオーノが苦々しく呟く。

「だけどさ、両国同時クーデターを起こしてから35年も経ってるんだよ。養子探して、生前退位が成功してもさ。ウィルでいる時間が長すぎて、なんか素直に喜べなかった人生かな」

魔王ウィルのその正体はウィルと瓜二つの外見を持っていたため、今際の際にあったウィルの身体にまかり間違って転移してしまったリアム・クロニスであり、長い期間彼を演じていたのだった。

魔族といった種族はファレーンにおいて、人種の敵対関係にあった魔力に長けた人種で正式には魔人まびと種というだけであり、ラーシュが転移するまでの最高位魔術師といえばウィルのことであり、ラーシュに匹敵するほどの魔力量と質をその身に有していたのは間違いなく、ウィルのも身体にリアムの基礎身体能力が加算される形になったために身体能力もファレーン界の種族よりも遥かに高かった。

また、このリアム・クロニスもラーシュと同様に幼馴染であり、柔軟な思考と楽天的な性格で世渡り上手な性格だからこそウィルを演じ続けてこられたところもある。

また、当時ではリアムだけが有していたスキル・複製レプリケーションとスキル・付与アサインを3人と再会した際に文字通り付与アサインした代わりにラーシュの持つ世界記憶概念アカシックレコードを借受け、それを即理解したうえで複製レプリケーションしているという頭脳明晰でちゃっかりした面を持つ外見だけなら典型的なイケメン白人だ。

 そして、好みの女性に踏まれることを至高の喜びと言って憚らない典型的なМである。

「リアム、アイツ等に言わなくてもいいのか? おっと、せっかくだからよ、聖武器と魔剣、持っていっちまおうか?」

一振の剣に愛着があったのか、勇者の男が問いかける。

「ローラやミーナが知ったら、絶対引き留めてくるかついてきそうだから、言わなくていいんだ。後のことは、彼女達が上手くやってくれるよ。さあ、さっさと帰ろう。中学の卒業式が終わったらアメリカ行く予定だったけど、その前にユウさんが筆下ろししてくれるって言ってたんだからさ」

「マジかよ?!」

「あ、ヤベ。あれ、コピーの方だったぁ」

三振の聖武器と一振の魔剣を乱雑に残し、4人は消えていった。

 4人は感慨に耽るも、結果的にファーレンに置き去りにされたミーナ・シュワル・ルーセンバルはいつものように憤慨した。

「あの後、4人の所在や聖魔武器の事を誤魔化すのに私たちがどれだけ苦労したと思っているのよ、雄豚!」

彼女は。ヴァンパイアロードを祖とする吸血鬼系魔人族のルーセンバル公爵家の三女であり、ウィルとしてのリアムの正体をいち早く見抜いた人物であると同時にリアム一個人を心から愛している女性である。

また、吸血鬼系種族ではあるものの吸血鬼から連想される弱点など皆無であり、血液を欲することもない単に能力だけが先祖返りを起こしている状態で、貴族らしい振舞や付き合い方が嫌いで魔術研究が何より好きだという女性だ。

「本当ですよ…全く! ハルロさんまで巻き込んで大変だったんですよ…でも、今は幸せですけどね」

ミーナの憤慨に同調したのはローラ・シュスル・アユール。

彼女は女淫魔サキュバスの血が薄く流れており、ウィルの筆頭侍女として働き、リアムの帰還後はミーナに仕え、彼女の転移魔術研究に公私ともに協力してきた経緯を持つ。その身に女淫魔サキュバスの血のせいで無意識下でも男性を惹き付けてしまうことが多いアユール伯爵家の長女である。

「ああ、それはごめんって謝ってるじゃんよ。さ、たまっている仕事をさっさと片付けちゃおうよ、ハルロ」

「承知です、リアムさま。この後の予定が詰まっておりますからね、キヨ様やソウジ様たちも収穫のお待ちでしょうし…。ビヴォール様の打ち初め式もございますからね」

リアムたちを急かしたこの男はハルロ・ヴァイコルという40代半ばに見える吸血鬼ヴァンパイア系魔人族でファレーンでのリアムの執事として傍に仕えていた。

その性格は理知的であり躾に厳しく勤勉。

その勤勉さが災いしてか昼夜関係なく働けるようにと吸血鬼の弱点を克服してしまうというストイックな一面も持っており、一度仕えた主は余程のことがない限り変えないという忠誠心を持ち、リアムの執事として再度働けることを切望してミーナに協力してきた熱い男でもある。

「そういえば…、私たちは雄豚の魔力残滓を辿ってこの世界に来られたわけだけど、雄豚たちがどうやってこの世界に来たのか詳しく聞いたことなかったわよね。何がきっかけだったの?」

「ああ、それはな…」

雅たち4人はこの世界に転移し、降下した事をつい先ほどの事かというように鮮明に思い出す。

「進宙式と編成式、お疲れ様でした聖中将閣下。こうして四人揃うのは、何年ぶりですかね?」

「龍、もうログの記録してないから、口調崩して大丈夫だ。覚えてねえな。リアム、何年ぶりだよ?」

「何年ぶりだっけ? 200年くらい? 僕もよく覚えてないよ。ラーシュはわかるでしょ?」

「202年と36日ぶりだねぇ」

宙軍士官学校卒業後、四人が一同に介したのは、これが久々だった。

「それより龍、君んとこのAI。メギーみたいなクッソ美人じゃん! 踏まれたいから、貸してくれよ!」

かつて魔王と呼ばれた自他ともに認めるマゾヒスト、リアムが懇願した。

龍は、かつては勇者と呼ばれたおっぱい星人だ。

「バッカ、リアムんとこのはアテナっつったな、お前んとこのAI? 原石さとみみたいで可愛いし泣きぼくろはエロいわ、胸だってデケえじゃねえか! やることやってんだから充分だろうがよ?」

「うん? まあね、最近はよく縛ってもらってるよ、へへ。あ、ラーシュは尻フェチだったよね?」

ラーシュは、かつては賢者と呼ばれた尻フェチのサブリーダー的な存在だ。

「全く、会ったそばから猿みたいな会話だよねぇ。でもさぁ、そそるのはやっぱりお尻だよぉ、普通。雅は、まだ足フェチだったりするのぉ?」

四人のリーダー的な存在の雅は、かつては聖皇国元皇王であり、足フェチであるとともに黒ストッキングフェチでもある。

雅の副官であり、第三〇二空母打撃群旗艦である航宙母艦AIのソフィアが下品な会話を窘めた。

「聖中将閣下、そろそろワープドライブに入ります。そろそろ、そう言った下世話な通信は、お控えください」

「いいじゃないかソフィア中佐。各艦、これより当艦隊は第十一太陽系アルバ星へとワープドライブする。御託宣によれば、恐らく転移がある。注意のしようがないけど警戒は怠らないように頼むよ」

雅と龍が受けた御神託の通りなら、四人が揃った時点であるこのワープドライブをきっかけに、自分たちは転移するはずだと雅と龍は確信していた。

「龍、マジで転移すんのぉ?」

「多分な、ラーシュ。リアムも心の準備をしておいてくれ」

「わかった…。また行くのか…どんな世界なんだろね」

「まぁ、成るようにしか成らないよねぇ…」

二人が口にした瞬間、旧世紀の女優ソフィア・マルソーを彷彿とさせるソフィアが告げる。

「各艦に通達。通信回線を一旦閉じます。回線遮断と同時にワープドライブ・エンゲージ」

歪曲する空間にソフィア・アテナ・あさひ・みゆきの4隻が吸い込まれるように前進すると予め仕組まれた転位に挑むかのように消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る