第10話
「今からレクリエーションをします。四人班を作って下さい」
クラス総勢40人が自己紹介をし終えたあと、三島先生はそう言いった。
そういえば後ろの黒板に書いてある時間割にもレクリエーションと書いてある。気づかなかった。
生徒は先生の指示を聞きスピーディーな動作で班を作り始める。
多少の恥じらいはあるものの小学、中学と続けてきただけあってみんな小慣れている。
……でもなー。
僕、班全員の名前知っているんだよなー。
説明がいらないんだよなー。
「鹿島、まさかお前もこのクラスだったとはな」
「俺はずっと知ってたけどよ。気づくのが遅すぎるんだよ」
「なんかすまん」
僕は向かって斜め前の男に声をかける。
鹿島雄吉。僕の小学校からの友である。
ほぼ腐れ縁状態の明日香を除くと僕と最も付き合いの長い男だ。
ちなみに、小4の時にこいつが転校してきたおかげで火板町の顔面偏差値が高いこととその理由に気づいたのだ。
夏休みの自由研究で共同合作して色々な意味で話題になったのはいい思い出である。
「いいねぇ。火板町産の人間は。従姉妹までかわいいじゃん」
「産ゆーな」
「俺、この町に来てよかったよ」
「本来もっとちゃんとした動機で言う言葉なんだよなぁ」
とまあ、こんな関係だ。
軽く言い合える仲である。
「う?秀人、こやつと知り合いなのか?」
僕が鹿島と話しているとコトハが鹿島に興味を持つ。
「ん、まあね。小学校からの友達だ」
「鹿島雄吉、十五歳、得意なことはたこ焼きを作ること。あと──」
「まあ覚えてなくていいよ。こいつ、女子にはめんどくさい性格だから」
「う、うむ。確かに求めてもいない自己紹介をしてきたしの」
「紹介がひでえ!?」
可愛い娘には目がないのがこいつだ。
とりあえずロックオンされる前に引き離す。
それが鹿島の正しい対処法である。
「なんか……面白い人ですね……」
その姿を見た烏間がドン引きする。
甘いな、烏間。
こいつのめんどくささは今の比じゃない。
鹿島を視界から外したコトハは、今度は烏間に興味をもった。
「で、烏間美月……とか言ったの。秀人とは会ったことがあるような口ぶりじゃがどうなのじゃ?」
「小中学校にはいなかったな。相浦……お前まさかナン──」
「ナンパじゃねえよ!お前じゃあるまいし!」
「俺がナンパできるハートを持っていると思うか?」
「泣きながら言うなよ……」
見てるこっちも悲しくなってくる。
少年よ、大志を抱け。
さすればナンパも成功せん。
「さ、最近あそこにあるデパートがいっぱいあるところで助けてもらったんですよ。あの……言いにくいですが」
「なんじゃなんじゃ!?この儂に言ってみい。気になるではないか!」
おずおずと理由を口にした烏間にグイグイとコトハが言い寄る。
席を立って前のめりになるな。
「はしたないからやめなさい。ただ道を教えただけだよ。な、烏間」
「え、ええ。ちょっと道に迷いまして」
僕のフォローに烏間がのっかる。
その答えにコトハと鹿島は残念な顔をした。
鹿島、なぜお前もなんだ。
「ちぇ、カブキ者からの熱烈なお誘いから助けてあげたとかそういう熱い展開を期待しておったのに」
「「!?」」
せっかく嘘ついたのに結構核心をついてくるなぁ!
馬鹿正直に言わなくてよかった!
烏間はコトハの不意打ちにアガリ症が発動し、金魚鉢の中の金魚のごとく口をパクパクさせる。
「む?どうかしたのか?」
「い、いえ!何でも!そんなお守りを理由にナンパから助けてもらいお礼をしただなんて!」
「何をいっておるのじゃ?」
「え!?わ、私何か言ってました!?」
うん、全部言ったねぇ!
一から十まで全部要約したねえ!
あまりにも早口でコトハと鹿島は聞き取れなかったようだが全部言った。
こいつのアガリ症も考えものである。
僕たちも含め、ガヤガヤとしている教室を見かねてか先生がパンパンと手を打って
「はいはーい。それでは皆さん。今から出席番号の若い人、つまり右前の人から時計回りに自分の事を話してもらおうと思います。私がお題を決めますのでそれに沿った話をしてもらいます」
先生は用意していたクジが入っているであろう箱をもって教室に聞こえるように話す。
ああ、そう言う感じのヤツか。
「それでは早速一発目。ホイッ」
先生は箱のなかに手を突っ込み一枚の紙を取り出す。
「……はい。決まりました。一番目の人は『ビックリしたこと』です!」
コトハの話題は『ビックリしたこと』だ。
なんかこういうテレビ番組を見たことがあるような気がする。
「ビックリしたことか……コホン。では話そう」
コトハはわざとらしく咳払いすると背筋を伸ばしまるで落語家のように話し始める。
「あれは儂がここに来て二日目のことじゃ。引っ越しの途中で着る服を忘れての。買い出しにいくために秀人と一緒に階段を下っておったのじゃ。──あ、いい忘れておったが儂らの家は神社なのじゃ。意外じゃろう?まあそんなことはおいておいて話を進めるぞ。──そしたら階段を一人で上がってくる女子がいての」
「南沢だろ」
コトハの話を鹿島が先行する。
明日香のルーティーンは有名なのだ。
「うむ。その通り。明日香が上がって来たのじゃ。──む?美月は知らぬか。ほれ、お主の後ろで頬杖をついておる
コトハは身振りも交えながら出来事を話す。
あれ?
……なんか嫌な予感がするなぁ。
この落ちってラッキースケベだったよな?
「そしたら明日香は『秀人と服を買いにいくですって!?させないわ!こいつのファッションセンスは壊滅的なんだから!私も行く!』とか言い出しての」
「ダブルデートか。けしからん。場所が服屋なのもさらにけしからん」
「なあ鹿島、今からお前を東京湾に沈めていいか?」
何を言ってるんだお前は。
マジで殺意がわくぞ。
「で、どうなったんですか?」
「うむ、ここからが本題じゃ。実を言うと明日香の実家は呉服屋なのじゃ。つまり儂らの目的地でもある。たまたま行くあてが合致したのじゃ。明日香は儂らと一緒に行きたいがために、階段をかけ上って参拝して降りる、そして儂らに追い付こうとした」
ここでコトハのニマニマが最高潮に。
あかん!この話はラッキースケベが落ちだ!
僕の好感度が底辺に落ちる!
「コトハ!やめ」
「まあ結果的にものすごいスピードで階段を降りる訳じゃ。階段を降りるのは危ないじゃろ?」
「あー!あー!あー!」
僕は気をまぎらわせようとしたが二人ともコトハの話に真剣である。
クソッ。コトハの話が上手なばかりに!
このままじゃ僕の好感度が──!
「そし……」
コトハが落ちを言おうとした瞬間コトハの動きが蛇に睨まれた蛙のように固まる。
気になって僕もコトハの視線の先を見た。
あ……
僕達の視線の先では明日香が首だけを後ろに向け肉食獣の眼光で僕たちを凝視していた。
鹿島と烏間の二人は位置的にその視線に気づいていない。
明日香は一切の瞬きをせずに小さく口を開く。
『シャベッタラァ、コロスゥ。イマ、ココデェ。』
カトコトデスヨ!?アスカサン!?
クチパクナノニカタコトデスヨ!?
「コトハさん。どうしたんですか?」
「い、いや何もない!その階段を下る速さに驚いただけじゃ!うん!それがビックリしたことじゃな!」
「ま、まあそうだよな!明日香は足が速いんだよ!全国レベルで!」
「な、なぜそんなに必死?」
「「そんなことない!断じて!」」
僕たちは怪しむ二人に訴えかける。
見てる見てる!
明日香が見てるよぉ!
「お、おう」
「そ、そうなんですか……」
僕達の勢いに流され、二人はなんとか納得してくれたようだ。
それを見て明日香は中身のない笑顔を僕たちに見せて首を戻し自分の班の話を聞きに戻っていく。
……僕たちは明日香の深淵に潜むナニカを垣間見たのかもしれない。
「はい、しゅーりょー。皆さん、班員のことは知れましたか?」
つ、疲れたぁ。
寿命が十年縮んだ気がする。
コトハの時から恐怖を感じていたのにあのあと鹿島が『楽しかった話』で僕が中学の修学旅行で女の子のパンツをホテルの廊下で拾った話をするもんだからもうへとへとだ。
僕はなにも悪くないのに……
「終始くだらない話をしていた気がする」
「いや、なかなか俺は面白かったぜ。特にお前のコトハちゃんが巫女服を着ていたらコスプレイヤーの撮影大会になった話とかな。けしからん。俺もその場にいたかった。のじゃ口調で巫女服とか、萌えるしかねえだろ」
「や、やめるのじゃぁ……」
僕は仕返しにコトハのトラウマを話してやった。
おかげでコトハは撃沈している。
ざまあみやがれ。
「私もとっても面白かったですよ」
「そのノートを取り出してなかったらとっても嬉しいんだけど?」
「貴重なネタです」
烏間のシャーペンが走る。
……書かれてしまった。
これは絶対次の巻は荒れる。間違いない。
「今日はこれで終わりです。明日は学級の係決めと一部の教科の授業があると思います。皆さん初日ですから忘れずに持ってきてくださいね」
先生の号令で1日の終わりが告げられる。
起立、気をつけ、礼、さよーならー。
「コトハ、帰るぞ」
「うぃ~」
「おら、立ちやがれ」
僕は精気のないコトハの腕をつかんで立ち上がらせる。
ガキかこいつは。
「ひ、秀人さん。約束」
「あ、そうだそうだ。IDな」
完全に忘れていた烏間のIDもゲットした。
僕のスマホの画面烏間のアイコンが表示される。
「今日の8時位空いてます?」
「空いてるよ」
「多分その時にメッセージを送りますので気に止めておいてください」
「りょーかい」
そう言うと烏間は忙しそうに教室を出ていった。
売れっ子だもんなあ。
登下校の時間も惜しいのだろう。
僕は完全にだらけきって僕に全体重を預けているコトハを見る。
それを部活鞄を背負いながら向けられる明日香の白い目。
……僕、まともな青春送れるかな?
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