第7話改 警察の介入と萌葱が人になるきっかけ

終わりの会の後5人は担任に連れ出された。

教育相談室に入ると見知らぬ男女が待ち構えていて、爺さんの事を根掘り葉掘り聞かれる。


君達の知り合いか?

どこに住んでいるのか?

何の仕事をしているのか

君達は何をしているのか?

いかがわしい事をされていないのか?


「萌葱ちゃん、もう一度聞くわね。本当に何もされていないの?

不用意に体を触られたりしていない?」

萌葱は自分を見る女刑事の目がギラギラしている事に少し恐怖を感じた。


「私達は爺さんに変な事されてねーよ!

つか何なんだよアンタ達!そっちの女の方が気持ちわりーぞ!」

茜が食って掛かると夜花子が押さえ黙らせると経緯を話し始めた。


「私達は上町中学校の男子生徒に暴行されました。

彼らは私達を暴力で屈服させ全裸にして写メをしました。

そしてレイプされそうになりました。

お爺さんは危ないところで私達を助けてくれました。

これが暴力の証拠です。」

夜花子は服を脱ぎ捨てると下着姿になり体のアザを見せつける。

夜花子に倣い皆が下着姿になる。


男は顔をしかめて、後ろを向くと電話をし始めた。

女は今にも泣きそうな顔で口元を押さえている。

そして、いきなり萌葱に抱きついて号泣しはじめた。


「ごめんなさい!守れなかった!ごめんなさい!」

子供達は唖然として、女刑事を見る。

しばらくすると婦人警官が5名入室してきた。


「君達はこれから病院に行き診察を受けてもらう。

色々と聞かれるだろうが正直に答えて欲しい。

君達は必ず私達が守るから安心してくれ。」

男は警察手帳を取り出すと子供達を説得する。

5人は黙って頷き婦人警官に付き添われて出て行った。


「どうしたんだ急に取り乱して。あの子は知り合いなのか?」

「いいえ、私も分からないんです。なんであんな事を言ったのか。」

女刑事は狼狽しながらも、萌葱の事を思うと居ても立っても居られなかった。


校舎を出ると5台のパトカーが見える。

5人は目配せをして頷きあった。


「あの、トイレに行きたいです。」

「私も!」

5人は婦人警官に訴えた。


「いいですよ、そこにトイレがありましたね。」

一度校舎に戻ろうとする、婦人警官を制して自分達だけで大丈夫と伝えると校舎内に走って戻る。


「待ちなさい!」と声が聞こえるが、来客用トイレに駆け込みドアにつっかえ棒をする。


「開けなさい!」

子供達は窓の隙間から外に這いだすと、フェンスをよじ登って外へ逃げ出した。


「子供達が逃げ出しました。」

一報を聞いた女刑事は同僚の静止を聞かず後を追いかけた。


「爺さんに隠れるように教えなきゃ!」

「でもでも、警察が来たんじゃ直ぐに見つかるよ!」

「爺さんが逮捕されてもいいの!珊瑚!」

「茜、落ち着け精々任意同行だ。逮捕はない。」

「そうだよ、夜花子の言う通りだよ。

とりあえず口裏合わせをして、お爺さんが不利な状況にならないようにしよう。」

「蒼の考えに賛成。

私達は爺さんの事は何も知らないで押し通すの。

分かった茜?何も知らないよ。」

「分かったよ、萌葱。」

5人は河川敷に向かって全力で走った。


「待ちなさーい!」

女刑事がとんでもないスピードで追ってくる。


「何?!やばい!追い付かれる!」

「二手に分かれましょう!あの人、萌葱を追いかけると思う!

萌葱と茜、わっちと珊瑚、蒼で!お爺さんの家の前で合流!」

5人は二手に分かれる。

夜花子の読み通り女刑事は萌葱の後を追う。

しかし、足の早い二人なら追跡を振り切る事が可能だろう。


「少し遠回りになるけど、陸橋から行こう。」

その時、三人を呼ぶ声が聞こえた。

後ろを振り返ると患者衣の桔梗が追いかけてくる。


「桔梗?!どうしたの?怪我はいいの?」

「退屈だから逃げてきたでち。

わたち、みんなに会わないと寂しくて死んじゃう病みたいでち!」

4人はがっしりと抱き合うと再会を喜んだ。


「何?!保護していた少女が逃げ出した!」

電話を受けた男刑事は駆け付けた応援と共に河川敷に向かった。


その頃、女刑事に追跡を振り切ろうとして萌葱と茜はひたすら駆け回っていた。


「ダメだ!振り切れないよ!どうしよう萌葱!」

「茜、あそこのフェンスを飛び越えよう!」

少し先に高さが低いフェンスが見える。

それでも2m近くある。


「よじ登ってたら捕まるよ!」

「ガードレールを足場にして飛び越える!できるよ茜!」

弱気な茜にハッパをかける。


「いくよ!それっ!」

二人は掛け声と共に、ガードレールを踏み台にして宙に飛んだ。


「ええっ!」

女刑事はフェンスを飛び越える二人を見て驚愕した。

そして、心の声を聞いた。

(流石、お嬢さま!)


一方、夜花子達4人は続々と集まる制服警官達に行く手をは阻まれ、立ち往生していた。


「チッ!反対側のフェンスをよじ登るしかないかぁ!」

夜花子は穴の空いたフェンス前にパトカーが止まっているのを見て舌打ちをした。


「ねえ夜花子ちゃん、洞窟通るでちか?」

鳥に威嚇され大泣きした桔梗が嫌そうな顔をする。


「あそこしか抜け道ないしね。がんばれ桔梗!」

珊瑚が桔梗の背中をパンパンと叩き勇気づける。


「私背が伸びたからなぁ、頭ぶつけそう。」

4人は反対側のフェンスをよじ登ると警官の目を搔い潜り、ハシゴを登りメンテ用の作業通路から河川敷を目指した。


萌葱と茜は身の丈より高い草をかき分けて河川敷を走る。

女刑事の姿は見えない。

陸橋の下の空き地に辿り着くと上町中男子生徒達と鉢合わせした。


「おい待てよ!貧乏人!」

15人の男子生徒達が二人を取り囲んだ。


「お前らの写メ見せたらさ、みんなお前らとヤリたいってよ。

今日は兄ちゃんも来てもらったからよ。

爺さんが来てもぶっ飛ばすから助け待っても無駄だぜ。」

下卑た笑い顔を浮かべる男子の後ろに体格のよい男が5人立っていた。


「おいおい、可愛いじゃねーか!楽しみだな!」

男達の声に慈悲の欠片も感じられない。

二人は背合わせになり襲撃に備えた。


「私達は負けない!私達は強い!」

互いに鼓舞して心に戦いの火を灯す。

呼吸は整えたチャクラがギュルギュルと回るのを感じる。

男子がにやけながら近づいてくる。

拳を作ると腹の底から吠えた。


「ウォオオオオ!」

萌葱の気迫に押された男子が怯むのを見て、足を一歩踏み出し突きをにやけた鼻面に叩きこむ。


男子は鼻血を吹き出し地面をのたうち回る。

続いて脇にいた男子の頭に回し蹴りを放つ。

まともに喰らった男子は頭を抱えて崩れ落ちる。


茜が扇風機キックを繰り出すと、顔面を強打した男子3人が痛みで泣き叫ぶ。

あっという間に男子全員の戦意を喪失させると構えたまま5人の男を睨みつけた。


「お前ら強いな!でもよ、お前らは素手だ!これを見ても、いきがっていられるんかよ!」

男のひとりがナイフを取り出す。

刃渡り20cmのサバイバルナイフだった。


刃物のギラリとした輝きに萌葱の体が硬直する。

幼い頃の恐ろしい記憶が蘇る。

痛みと恐怖の記憶に支配され心に灯っていた戦いの火がかき消された。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


萌葱は怖いモノ知らずの街で生きる野生動物のような娘だった。


例えば、恐怖心を知らない。

団地の雨どいをよじ登り屋上まで登りきる。

屋上に到達するとわずかな突起に手足を掛け貯水槽によじ登る。

5階自室のベランダの先の僅かな出っ張りに身を乗り出すと、手を離して空中散歩を楽しむ事もあった。

踏み外せば20mの高さから地面に叩きつけられるとしても。


例えば、羞恥心を知らない。

母親に連れられてスーパー銭湯に訪れると、男湯にひとりで入り込む。

男達の視線が集まるのが楽しく、隠さずわざと開けっ広げにして歩き回る。

湯舟の縁に大股開きで座ると、割れ目を広げて男達の反応を楽しんでいた。


夏の盛り公園の噴水で全裸になり、男達の視線を感じては官能的なポーズを取り写メされることも厭わない。


施設のゴミ捨て場でエロ本を見つけ、物陰に隠れて自慰をする事を覚え繰り返す。

いつ他人に見つかるか分からないスリルに異常に興奮した。


万引き常習犯で施設内のスーパーで何度も繰り返す。

一度、捕まったことがあったが、パンツの中に隠していたこともありバレなかった。

それ以後万引きをしなくなった。


萌葱の異常とも言える行動の原因は母親の放任であった。


母親は萌葱が物心がつく以前に離婚している。

原因は不倫と托卵であった。


母親はニンフォマニアックである。

夫は結婚当初、濃密な夜の営みに喜びもしたがやがて手に負えなくなる。

残業や出張で母親を遠ざけた事が原因で、出会い系アプリに嵌まり男漁りを始めるようになる。

夫の不在の時間を不貞に費やしやがて妊娠をする。

不特定多数と関係を持っていた為父親は分からない。

母親はアリバイSEXをして夫の子として萌葱を産んだ。


萌葱を出産した後、失敗を繰り返さないようにピルを飲み男を遊びを続ける母親だった。


萌葱が4才の時、全く自分と身体的特徴が無い娘に疑問を持った夫がDNA検査を行ったところ、99%血縁関係無しの結果が出た。

その後、興信所で調査を行い妻の不貞行為が明るみに出たことで離婚、多額の慰謝料とこれまでの養育費返還を求められた。


母親は離婚と慰謝料、養育費の返還に応じ母子家庭となり、多額の借金返済のためソープランドに勤め始める。

ニンフォマニアックである事が幸いし、NO1指名嬢になると2年で借金を返済した。


私生活でも男遊びが続き、度々金回りの良い客を家に連れ込み店外活動をおこなっていた。


萌葱は男が来ると、ミニのワンピースにノーパンでわざと恥部を見せつけ反応を楽しんでいた。


そして、萌葱の生き方を変える事件が起きた。


その男は母親を愛していた。

病的に心の底から愛していた。

そして母親を今の環境から救い出したいと願っていた。


男は自分の貯金通帳と1カラットダイヤモンドの指輪を持って、結婚を申し込んできた。


母親は鼻で笑って拒絶した。

そして男に非情な現実を突きつけた。

「誰があんたみたいなデブでハゲで不細工な男と結婚するものか。」

「あんたは金だけで繋がっているただの客だ勘違いするな。」

「その小さいチンポで満足した事がない。論外。」


男は逆上して、大振りなナイフを取り出す。

そして、萌葱を抱きかかえると顎の下にナイフの刃先を突き刺す。

萌葱は恐怖と痛みで失禁した。


「お前らを殺して俺も死ぬ!」

男が絶叫すると、母親は萌葱を置いて逃げ出した。


子供を置いて逃げ出した母親のいないリビングで男は唖然とした。

こんな酷い母親がいる事に信じられない気持ちになった。


男は冷静になり、ナイフをテーブルに置くと萌葱の傷口にハンカチを押し当て、タオルで固定して病院へ連れて行く。

結果、10針縫い傷口は今も残っている。

男は警察に自首して執行猶予付きの実刑判決を受けた。


この日以来、萌葱は男を挑発する行為や命を危険に晒す行為をしなくなる。

人の心を弄ぶという行為が、生命に危険に関わるという事を身をもって知った。


そして、母親が最低な人間いや雌である事を確信した。


私はあんな雌になりたくない。

萌葱は人の女に成る為に、考えて行動をするようになった。

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