第12話 聞き取り調査で明らかになった事情

堅牢な石壁で守られた城の中を、ユタカとビショップはならんで歩いていた。

黙ってついていくのも感じが悪いなと思い、ユタカは気を使って声をかけた。

「なんだか薄暗いですね。さっき見てきた魔王の城と雰囲気が変わらないですね」

たしかに、城の中は明かりが少ないせいか、薄暗い印象だった。

「まぁ、しょうがないわな。この世界では火が貴重みたいだからな」

「そうなんですか?」

「お前さん達の世界でいう化石燃料のたぐいが採れないみたいだぜ」

なるほど、石油やらがとれないのか、とユタカは新鮮に思った。世界によって燃料事情は異なるらしい。

「魔石とか木材とか、動物の死がいとかも枯渇しがちだと聞いたし、けっこうしんどい世界だよな」

「そう考えると、弱い魔王でも脅威だったでしょうね」

「そうかもな」

あまりそう思ってなさそうに、ビショップは言った。


「ところで、王に話を聞くって、どんなことを聞くのですか?」

「そりゃ、魔王のことだよ」

当然だ、というようにビショップは答えた。

「魔王の何を聞くのですか?」

「知ってること全てだよ。あと、勇者召喚のことも聞きたい」

「そういえば、勇者召喚が行われたのですよね」

「そのために、異世界債を発行して金や資源を集めたんだからな」

そこで、ユタカは一つの可能性に思い至った。

「魔王を召喚した可能性があるとおっしゃっていましたが、お金を集めるために魔王を召喚したのでしょうか?」

「それだと辻褄が合わない。その魔王を召喚するための金が必要だからな」

なるほどと思い、ユタカは別の可能性を考えた。


「もしかして、魔王として呼ばれた者は、元々勇者として呼ばれたのではないですか?」

「じゃぁ、そいつは何と戦ってたんだよ」

「たしかに、そうですね。うーん、分かりませんね」

「だから、話を聞きに行くんだよ。ほら、もう着いたぜ」

二人の前には大きな扉があった。ビショップはためらうこと無くそれを押し開けた。


そこは魔王の居城の玉座よりも広い空間で、明り取りの窓が大きく取られており、威厳に満ちていた。

そして、正面の少し高いところに玉座があり、壮年の男性が座っている。また、傍らには尼服に身を包んだ女性がいた。

ビショップは礼一つせず王の近くまで歩いていくので、ユタカも仕方なくついていった。

壇上に上がることはしなかったが、それでも一番近いところまで進み、王に話しかけた。

「はじめまして、おうさま。話を聞きに来た。さっそくで申し訳ないが、少し質問させてくれ」

ビショップは誰に対しても態度を変えないらしい。その様子に辟易としたユタカは、ビショップを無視して目礼した。


「はじめまして、検査官の方。この国の王を務めております、レオナルドと申します。隣にいるのは、娘のフィーナです。それで、どんな話をすればよろしいか?」

レオナルド王は気を悪くした様子もなく、低く落ち着きのある声で応えた。

「あぁ、話が早くてありがたい。魔王について教えてくれ。いつ頃現れたんだ?」

「私どもが気づいたのは数年前になります。そのさらに少し前から世界中で瘴気による汚染が発生していましたが、その頃から魔王の配下を名乗る四将軍という魔物が現れ、各地で破壊活動を始めました」

「なるほど、四将軍というのがいたんだな」

「はい。そして同時に、各地で魔王の声が頭の中に聞こえ、廃人になるものが現れはじめました。その内容は共通していて、この世界を恐怖で支配するというものです」

「その恐怖というのが、四将軍が起こしている事件とも言えるわけだな」

「そうです。我々の力では四将軍ですら、どうにもならないのが実情でした」

資源に乏しく、貧しい世界にそんなものが現れたら堪らないだろう、とユタカは同情した。


「なるほど。ここは、住める地域も少ないようだし、実質この国が世界を統治しているなら、ここで対処できないならどうしようも無いでしょうね。そこで勇者召喚となったわけだ」

「そうです」

「勇者召喚は、この国では知られたものなのか?」

「いいえ、違います」

それに答えたのは、娘のフィーナだった。

「勇者召喚は、私が初めて行いました」

そこでビショップの目つきが鋭くなった。


「この世界の歴史で、一度もなかったと?」

「はい、確実とは言えませんが、残った歴史書などには記載はありません。口伝もありません」

「じゃ、どうやったんだ?」

「それは、預言です」

「もらうほうの言葉だな」

「はい。私はこの世界で、大精霊様を祀る司祭を務めさせていただいています。そして、世界を救う手立てが無いか祈りを捧げていると、ある日、勇者召喚術についての啓示を賜りました」

「そいつが、お前さんにやり方を教えたってことか?」

「簡単に言えば、そうなります」

「なるほど」


ビショップは何かを考えながら、ユタカに言った。

「お前も何か聞いたら?」

突然言われて、ユタカは戸惑ったが、ビショップがそう促したのは考える時間稼ぎをしたいからのように見えた。

場をつなぐ役目を与えられたユタカは、仕事をすることにした。

「えっと、あの、キサラギと申します。私は魔王の玉座に行って見たのですが、あそこに異世界召喚らしき形跡が残っていました。何か思い当たることがあったりしますか?」

そうきくと、二人は驚いた様子だった。そして、フィーナが答えた。

「異世界召喚ですか。勇者召喚と同じようなものでしょうか?」

「おそらくは」

「申し訳ございません、私どもには分からないことです」

「そうでしたか」

「本当に、そんな形跡があったのでしょうか?」

「はい。ちょっととある事情で最近見たことがあって、同じようなものがあったものですから」

「そうだったんですね」

ユタカが見る限りは、二人とも嘘をついているようには見えなかった。


「およそ、わかった。おふたりとも、忙しいところ悪かったな」

ビショップは納得したのか、軽く頭を下げた。切り上げることにしたようだ。

「最後に、ひとつだけ教えてくれ、フィーナさん」

「はい、どのようなことでしょうか?」

「大精霊様の啓示ってのは、どこか決まった場所で受けるのか?」

「はい、この城の隣に、大精霊様を祀った世界で唯一の神殿がございます。いつもそこで祈りを捧げております」

「ありがとう。あとでまた来るよ。神殿に案内してもらいたいからよろしくな」

そういって、ビショップはその場を後にした。


検査室に戻りながら、ユタカは聞かずには居られなかった。

「ビショップさん、何か分かったのですか?」

「およその事情がな。ただまぁ、ちょっと面倒なことになったなぁ」

「面倒ですか?」

「ああ。どうやら、俺らの手に負えない事件みたいだぜ、これは」

「手に負えない?」

「まぁあとで分かるよ」

検査室に戻ると、ビショップは真っ先にイーリンのところに向かった。

「黒だった。悪いが呼んでくれ」

ビショップの真剣な言葉を受けて、イーリンの表情が変わった。

「そうでしたか。どなたを呼びますか?」

「精霊術に詳しいやつと、、」

ビショップはそこで少しためらってから、言った。

「腕っぷしが強い次長様を頼む」

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