第11話 ビショップ検査官
検査室に戻ると、イーファがユタカに声をかけた。
「おつかれさま。何か分かりましたか?」
ユタカは、勇者と魔王の戦いの場を見て思ったことを報告した。
「なるほど、そうでしたか」
イーファが顎に手を置いて唸っていると、二人のところに赤い目を持つ中年男が近づいてきた。
ヨレヨレのスーツ姿にボサボサ頭で冴えない様子だ。
「お、新人さんか。ちゃんと働いてる?」
「他人事じゃないですよ、ビショップ検査官。でも、ちょうど良かったです。声をかけようと思っていました」
ビショップと呼ばれた男は、フンと鼻息で返事をした。
「やることが無くてヒマだったから、俺にとってもちょうど良いですな。で?」
「ええ。こちら、新人のキサラギさんです」
紹介され、ユタカはどうもと頭を下げた。
「こちらは、ビショップ検査官です。見てきたことを、彼に話してもらえますか?こう見えて、優秀な人ですので、彼なら分かることもあると思います」
紹介されたビショップの目線がユタカに向いた。
「なるほど」
値踏みされるように見られたユタカは、かつての世界でもこういうことが良くあったなと思い出していた。
「それで、どんな感じだったの?キサラギさんよ」
「魔王は人に近い存在で、強さもそれほどでもなかった様子でした」
「弱めのアンデッドってだけだろ。勇者もポンコツ野郎だったし、そういうこともあるだろうよ」
フン、とビショップは面白くない様子で答えた。
「あの魔王の目的は何だったのでしょう?」
「逆に俺に質問?世界を滅ぼすとか手に入れるとか、人の苦しむ様を見たいとか、そんなんだろ。知らんよ」
「ビショップさんはご存知無いのですか?」
「必要ないからね」
「スミノフさんから、魔王が現れたから勇者を召喚したというのは違うんじゃないか、と聞きました」
「あぁ、こいつらは皆そう言ってるね」
「私もそう思いました。あれは魔王などではなく、ただのモンスターだった。それを魔王だと言って偽って、大げさにして今回の事件が起きたんじゃないでしょうか?」
「要するに、魔王にしては弱すぎるってことだろ?」
「ビショップさんはそう思わないのですか?」
ビショップは、はぁ、とわざとらしくため息をついた。
「強いとか弱いとかさぁ、そういうのは大事じゃないよ。そこはみんな間違ってると思うよ」
ビショップが言うみんなにイーファも含まれているのか、とユタカはイーファの方を見やった。
「いいんだぜ、気にしなくて。それに、俺はこういうキャラだからな。みんな分かってるよ」
「・・・」
そう言っているが、失礼な態度にユタカは辟易とした。
「そんな事を突き詰めたところで、世界のレベルが低かったって言われたら終わりだよ。それでどんな指摘ができる?じゃぁ、どれくらいの強さだったら勇者呼んで良いの?」
「そういうことでは無いと思いますが・・・」
「それに実際、俺が見た限りじゃ、この世界の野郎どもはみんなビビってたし、魔王が居なくなってホッとしてたぜ」
「では、あの魔王は本物ということですか?」
そこでビショップはまた、はぁ、とわざとらしくため息をついた。
「イーファさんがさぁ、お前の話を聞けっていうからお前の話を聞いてる訳だけど、なんで俺が質問攻めにあってるわけ?」
「それは、否定ばかりされるからですよ」
「否定してないよ。ホントのこと言ってるだけだよ。それよりも、お前も検査官になったのなら、仕事しろよ」
「してますよ」
「いや、してないね。お前が新人だから丁寧に説明するが、イーファさんがお前にしてほしいことは、お前だけが気づいてることを、俺に話すことだよ。お前が報告して、俺が考える、それが仕事だよ。考えるんじゃないんだよ、話すんだよ」
ユタカは頭に来たが、ビショップが言っていることも分かったので、言われた通り話すことにした。
「私が気になったのは、召喚術の魔法陣のようなものが残されていた点です」
「なんだと?」
ビショップの表情が変わった。
「以前、私が勇者として召喚された時に使われたのと似たものに感じる、魔法陣のかけらが落ちていました」
「玉座に?異世界召喚のか?」
「おそらくは。しかも、比較的新しいものに見えました」
それを聞いたビショップは頭をボリボリと掻きながら、何かを考えはじめた。
しらばく考えてから、ビショップはイーファに言った。
「異世界召喚の痕跡が玉座にあったのなら、マズいことになる」
「あの魔王が別の何かを呼び出そうとしていた?」
ユタカが口を挟んだが、ビショップは首を横に振った。
「違うよ。というか、そうだったら問題はない」
「問題ないんですか?」
「あぁ。まだ危機が去ってない可能性があるだけで、それなら異世界債の発行は正しい。たとえ何かがいまどこかに潜んでしたとしても、俺たちには関係ないしな。問題は別のパターンだ」
「関係ないって、、それで、問題があるのはどういうケースなのですか?」
「決まってるだろ」
そういって、ビショップはイーファを見た。
「魔王が、召喚されてたケースだよ」
「黒幕が居るということですか?」
ユタカが驚いて聞いた。
「黒幕とも違う気がするが、まぁそんなところだよ」
「どういうことですか?」
「いま平和になってるだろ。黒幕っていうなら、そいつは世界をどうにかしたいやつなんだろ、お前らの考えでは」
「そうですね」
「だったら違うよ。いまは間違いなく平和だよ、全部確認したからな。とにかく細かいことは、話を聞きにいかないと分からんな。イーファさん、ちょっとこいつ連れていって良い?」
「ええ、お願いします」
「おし。じゃ、行こうか」
ユタカに言って、ビショップは部屋を出ようとする
「あの、どこに行くのですか?」
「王のところだよ。あ、そうだ、イーファさん、法王だっけ?聖女だっけ?そういうのも居る?」
「はい、王と一緒に居ると思います」
「なら大丈夫だな。善は急げ、だ」
そう言って急ぐビショップの後をユタカは追いかけた。
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