第2話 元の世界に戻る前に
うねるような闇に満たされた空間で、ユタカは意識を取り戻した。
あたりを見回すと、その空間に都市公園ほどの大きさの島々が、ふわふわと浮かんでいる。
ユタカがいる島だけが少し大きく、周囲に並んだ街灯が電気とは異なるやさしい光であたりを照らしている。
島の中央には石造りの大きな建物があった。壁面にはガラス窓があり、中で忙しく働く人々が見えた。
正面の大きな入口には駅にあるような時計が設置されていて、ちょうど12時をさすところだった。
すると、時を知らせる鐘の音があたりに響き渡り、建物からたくさんの人が出てきた。
いや、人と表現したが二足歩行しているだけで、様々な種族の生き物がまざっている。
不思議なのは、それらの種族が日本にいた頃に自分がしていたようなサラリーマン風の格好をしていることだ。
「今日はひどかったね」
「この分だと、まだしばらく荒れそうだね」
わいわいと話しながら各々ここから散るように歩いていく。それらの人々が島の端に差し掛かると、等身大の光る扉が現れる。
「昼飯、昼飯」
そして、みんなその中に吸い込まれていった。
「いったいここは・・・」
異世界召喚され魔王とも戦ったユタカは大抵のことでは驚かなくなっていたが、この様子には驚かされた。
(とにかく、あそこに行ってみよう)
ユタカは、目の前にある大きな建物に入った。
そこは吹き抜けの大きな空間になっていて、階段がまっすぐのびている。
階段は正面の壁で左右に折り返し、両脇に通路伸びていた。
階段の手前には、大きな矢印が書かれたボードが立てられている。
文字は無いが、たぶんこの矢印に従えばよいという案内だろう。
ユタカは矢印に従い階段から右に折れ、目前にあった大きな部屋に入った。
そこには受付カウンターがあり、向こう側に2足で立つスーツ姿の猫が待ち構えている。
「これはこれは、お客様ですかニャ?」
そういって、猫はお辞儀をした。ユタカが呆気にとられていると猫が言った。
「その様子だと、ここのことが分かりではないご様子ですニャ。まぁまずは、こちらにお座りくださいニャ」
ユタカはカウンター横の低くなったカウンターの席に案内された。
「はぁ」
訳が分からないユタカは、できることもなかったため言われるがまま席に座った。
「まずいきなりですが、今日いらっしゃった理由をお聞かせ願えますかニャ」
「理由ですか、、」
「どちらの世界に召喚されましたかニャ?」
どうやら、この猫はユタカが異世界召喚された人間である事が分かっているらしい。
ユタカは素直に話し始めた。
「サウザンドワールド、で分かりますかね?そこのティアズリーンという国です。出身は地球って言ってわかりますでしょうか。そこの日本に住んでました。キサラギユタカと言います」
「ほほう!なるほどなるほど!」
猫丸の丸い目が細くなった。
「すごいですにゃ!あの魔王、とても強かったでしょう。我々もニュースである程度は知っておりますニャ。本当にお疲れさまでしたニャ」
「えっと、サウザンドワールドを知ってるんですか?」
「もちろんですニャ。取引所の加盟世界のことは全て存じ上げておりますニャ。もちろん、全ての事情を知っている訳ではないですニャ」
猫はニャッニャッニャッと笑った。
ちょっと待てよ、とユタカはある言葉に引っかかった。
「えっと、取引所、とおっしゃいましたか?」
「そうですニャ。まぁそれはさておき、お持ちになったものをみせていただけますかニャ?」
事情が良く分からないが、とりあえずこの猫に従うしかなさそうだ。
おそらく、あのもらった封筒のことを言っているのだろう。
「えっとですね、それが何か紙でして」
ユタカはポケットから王にもらった封筒を取り出し、中身の紙を取り出した。
「ニャフゥッ!!!」
そういって、猫はのけぞった。しっぽの毛が総立ちになっている。
「こ、これは、凄い金額ですニャ!」
猫は震えている。
「これはすごい。それで、どうなさいますニャ」
「どうって、どうにかできるんでしょうか?」
「はっきり言ってしまうと、地球では何のやくにも立たないですニャ」
「え?どういうことですか?」
「地球にそのまま持って行ってもただの紙でしかない、ということですニャ」
「でもさっき、すごいって、驚いてたじゃないですか」
「えぇ、そうなんですニャ。そのために、この取引所はあるのですニャ」
猫はまたニャッニャッニャッと笑った。
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