第4話 日常その2
そんなわけで俺達は市内の図書館へ来ている。 長くて綺麗な足を組んで閲覧フロアで読書に励んでいる彼女は、地味めな服装でも明らかに浮いていた。
周りの男達はその姿に二度見ならぬ三度見し、中にはガン見して鼻の下を伸ばしている奴もいる。 男として気持ちはわかるが、嫁をジロジロ見られるのはなんか落ち着かない。
図書館に来てかれこれ二時間。 ペルさんは飲み物も飲まずトイレに行くこともなく、辞書のようなぶ厚い本に夢中だ。
まさかギリシャ神話にこんなに食いつくとは思わず、暇を持て余した俺は適当に選んだ小説を開き、彼女と並んで座っていた。 チラっと彼女の様子を見ると険しい顔をしたり、時には吹き出したり。 本を読むより彼女の表情を見ている方が楽しい。
「うん? 私の顔に何かついているか? 」
バレた!?
「そーー そういえば日本語読めるんだね ? 」
暇だったので素朴な疑問を投げ掛けてみた。
「…… そういえば苦労したことはないな。 まあ、無意識に翻訳の力を使っていると考えていい。 お前との会話もその力のお陰だ 」
そう言えば違和感が無さすぎて気付かなかった…… さすが神様。
「それにしてもこのギリシャ神話というもの、かなり過剰ではあるがよく調べてある 」
「そうなの? 」
「フフ…… しかも表現が面白い。 もしかしたらこのギリシャという地方は、私らと深い繋がりがあったやも知れんな。 興味深い…… 」
まだまだ読み足りないといった感じだ。
「なんなら貸し出しにしようか? 」
「貸し出し? こちらでは書物庫から書物を持ち出して構わないのか? 」
彼女は真ん丸な目をして驚いていた。
「手続きさえ済ませれば一週間持ち出しできるよ 」
「そうか! 是非そうしてくれ。 ここの椅子は固くてお尻が痛い 」
彼女はパタンと辞書のような本を閉じ、ニコリと笑って俺の前に差し出したのだった。
家に帰ってくるなり、彼女は再びギリシャ神話の分厚い本を開いて没頭している。 先に風呂を済ませた俺は彼女にコーヒーの差し入れをしてあげた。
「ご苦労…… ではなかったな、ありがとう 」
ゆったりとソファで読書していた彼女は俺に微笑んでくれる。 夫婦らしいことはしてないけど、結婚生活っていいな!
「お風呂空いたよ 」
微笑んだまま彼女は目をパチパチさせている。 なんのことを言っているのかわからない様子だ。
「風呂は入らないの? うーん、湯浴みと言った方がわかりやすいかな? 」
「もちろんするが、お前はこれから何か儀式をするのか? 」
「…… ん? 何も儀式なんてしないけど 」
彼女は怪訝な顔。 風呂にしてもあちらとこちらではなにやら意味合いが違うらしい。
「いや、一日の汗を洗い流しただけなんだけど 」
「そういうことか。 こちらの習慣なのだな? 試してみよう 」
女神は汗などかかないと豪語していた友人の話を思い出し、それは本当だったと一人で納得する。 彼女をバスルームに連れていき、シャワーの使い方やシャンプー、コンディショナー、ボディソープのボトルを説明したが。
「ふむ…… 」
顎に手を添えてボトルと睨めっこしたペルさんは、一つ唸ってパチンと指を鳴らす。 すると突然彼女の服が弾け、 俺はまたまじまじと彼女の一糸纏わぬ姿を見てしまった。
「ちょっ、ちょっ! 」
「説明されたところでよくわからん。 やって見せてくれた方が…… おや、どうした? 真っ赤な顔をして 」
彼女は照れもせずに細くくびれた腰に手を当てて言う。 真正面から見る彼女の全裸は芸術そのものだが、生身の女性に免疫がない俺には刺激が強すぎる。 俺は堪らず彼女の両肩を掴みクルリと反転させてバスルームに押し込む。 髪は洗ってあげられるが体は無理っす!!
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