第2話 契約その2
世界がどうのなんてスケールのデカイことには正直興味がないし、お金や社会的な地位は欲しいがそんなものにこのチャンスは勿体無い。 うーん、決めかねる。
「…… まだなのか? 」
彼女は壁に寄りかかったり、俺の目の前で右往左往したり、テーブルに腰かけてみたり。 手持無沙汰なのか、今度は本棚の雑誌を手に取り始めた。 望みを叶えないと帰れないらしい。
「そろそろ飽きてきた…… 優柔不断だなお前は。 それとも本当に望みはないのか? 」
拗ねた顔で俺を怨めしく見るペルセポネ。 人間離れした―― 神と言うのだから当然だが、これぞまさに絶世の美女だ。 こんな人が彼女ならビックリだろうな……
ん? 彼女? 彼女…… 奥さん…… いいなそれ。
「決めた。 ペルセポネ、俺の嫁さんになってくれ 」
「いいだろう! 」
即座に答えた彼女の藍色の瞳が輝きを増す。 その輝きに耐えられず俺は腕で目を覆い目を瞑るが、まぶたを閉じても眩い光は止まることはない。 ふと光は消えて真っ暗な闇が支配する…… 俺はゆっくりと目を開けた。
目の前には変わらず彼女がいるが、なぜか冷や汗をかいていた。
「散々焦らされたせいで勢い余ってよく聞かなかったが…… お前の嫁だと? 」
「…… そうだけど 」
「他になかったのか? もっとこう…… 何かになりたいとか、叶えてハイ終わりとかそういうの 」
「なんでも良いって言ったじゃん 」
「いや、なんでも良いのだが。 何故私の夫なんだ? 」
「だってペルさん超絶美人だから。 彼女と言わず、いっそのこと奥さんになってくれたらいいなと思って 」
彼女は呆気に取られてしばらくその場で固まっていたが、突然クスクスと笑い出した。
「…… まあいいだろう。 では、私はこれから何をすればいい? 嫁と言われても何をしていいのかわからないぞ 」
「そうだな…… とりあえず一緒に暮らしてもらおうかな 」
そんなわけでペルさんはめでたく俺の奥さんになった。 『私にこんな望みを言う者は初めてだ』と彼女に大笑いされたが、神だろうが何だろうが彼女が俺の奥さんになった事には変わるまい。
「人間の嫁とはどういうものだ? 」
神話の世界ではペルセポネは冥王ハーデスの嫁の筈だけど、そういう暮らしをしたことがないのか、奥さんや彼女とはどういうものなのかを聞かれた。 それを俺の価値観で説明するのに丸1日。 いい加減説明するのも疲れたので少し人間界の奥様方の様子を見ておいでと外に出して丸1日。 今日に至っては覚えてきたことを片っ端から実践している。
「この洗濯という作業が気に入ったぞ。 特にこの柔軟剤という液体の香り…… 好き 」
彼女は真っ白なシーツに顔を埋めて大きく深呼吸する。 女王の品格と言うべきか、その姿はとても綺麗で……
「へ…… ふぇっくしょん! 」
あ、結構豪快なんですね…… 前言撤回です。
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