第2話 ご褒美転生じゃなかった件
おいおいウソだろ? まさかの本当に転生? さっきの『ラノベだと……』の下りフラグだったのかよ……?!
自分で言うのも何だが、俺は絶対に主人公体質じゃねぇのに。だって、なんか問題が起きたとか、魔王が来たとかなっても、めんどくさいからなんもしねぇもん。話進まねぇじゃんか。
神様さ、転生させるやつ間違えてねぇ? 小説にしたとしても、こうして勇吾はずっと寝て過ごしました、チャンチャン、で終わりだぞこれ。
もっとなんかこう……活気に溢れたやつ転生させろよ。あぁでも最近は、普通の社畜が転生して、どんどんみんなの人気者になるみたいのが流行ってるんだっけ? だとしても、主人公は少なくとも心がキレイなやつだろ普通……。俺みたいな荒んだやつがみんなに愛されるわけねーじゃん……。
っていうか! 転生がショックすぎて気になんなかったけど、そもそも勇者でも魔法使いでもエルフで魔王でも幼女でも美女でもイケメンでもない……なんなら生き物ですらないただの剣に転生ってどー言うことだよ?! めんどくさがり屋の俺じゃ無かったとしても、動くことすらできねぇじゃん!!
意味分かんねぇっ! 転生って、なんかしらの意味あんだろ? 神様テキトーなのか?! とりあえず転生させとくか、ぽいっ☆みたいな感じかよっ?!
そもそも!俺はっ!死んでねぇぇぇっ!!!
ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。
一通り文句を並べると、少しずつ落ち着いてきた。
そして、落ち着いて思ったことは……。
「これ、幸せすぎね?」
である。
だって、仕事も家のこともなーんも考える必要ないんだぜ。しかも、『動けない=動かなくていい』ってことだろ?
ずっと寝てていいなんて……神かよ!!!
これはご褒美転生ってやつか? 今まで苦労してきたからここでゆっくりしてろってことなのか?
だったらもうちょっと寝心地良くして欲しかった……。ま、そんな贅沢は言わねぇよ。アパート生活が長くて硬い布団も慣れたしな。
んじゃ、おやすみっ!
そう言って目を閉じた、そのとき。
どぉぉぉんっ!!!!
ものすごい地響きのようなものが辺りに響き、パラパラと小石が上から落ちてくる。
なんだなんだなんだなんだ?!
俺の眠りを妨げようってのか? ふざけんじゃねぇ! 俺は寝る!
かつん、こつん、かつん……と、足音が響く。
目を開けるな、寝るんだ、俺!!
「これが……伝説の
涼やかで、それでいて柔らかな声がした。
は、誰だよ? さっきの音、この人物がやったのか……?!
てか伝説の剣って……俺のこと?
ただのボロい剣じゃねぇのかよ?!
あぁ~、気になる。
……ちょっとだけ、見てみよ。
目を開けると、一人のスラリとした少年の姿が目に飛び込んできた。
無造作に伸ばした、だけどサラッサラな青みがかった髪。顔は長い前髪のせいであんま見えねぇな。恰好は、ラフな白いTシャツと茶色いズボン。腰に付けた短剣、そして胸に光る現色の甲冑から察するに、冒険者かなんかか?
って俺、冒険者ってなんだよ! 世界観ラノベかっ? この年で中二病かよ?! でも伝説の剣って言ってたしな……やっぱこの世界はラノベの中みたいなもんなのか?
ぐるぐると考えていると、少年が驚いたように頭を揺らした。
「……は、剣に目?」
その拍子にさらりと前髪が流れ、少年の瞳が見えるようになった。
――思わず、息をのむ。
あまりに、カレがきれいな顔立ちだったから。
夜空を閉じ込めたような、紫にも見える藍色の瞳。長いまつ毛。薄い唇。
……はい、ラノベ説確定! こんなイケメン、ラノベじゃねぇと出てこねぇってぇぇぇ!
「よくわかんないけど……この変な剣を抜かなきゃってわけ? これで魔王討伐しなきゃなんだよねぇ」
は、魔王討伐ぅ?! お決まり設定かよ?! え、この弱そうな少年勇者なの? 俺で魔王討伐すんの……? 寝てられねぇじゃん、全然楽じゃねぇじゃんっ! めんどくさっ! え、ご褒美転生じゃねぇのかよ……。
頭の中で暴言を並べていた矢先、少年が放った一言で、俺は凍り付いた。
「はぁ、めんどくさ。抜くのやめよっかなぁ」
……は?
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