ルビコン川の途上

とある王様の物語Ⅴ

 王様は、少年から“愛”を奪いました。

 愛の実在を奪いました。

 愛を信じる余地を奪いました。

 

 恋慕の人を、奪うことで。


 それを、いつ突きつけるか。それが王様の楽しみでした。


 少年が、

 あの頑冥がんめいだからこそ曲がらぬ弱者が、この惨状を知ったらどういう顔をするのか。

 目を開いた時にそれがあったら、逃げる場所も無く出会ったならば、一体どんなにえてくれるのか。


 想像するだに笑いが止まりません。

 その予想だけで、退屈な日中が飛んで行きます。


 王様がやられても、どうってことのない仕打ち。

 それを辛いと人はいいますが、王様は正直ピンときていません。

 だからこそ王様は、それをやられた少年の反応が、どのようになるのか考えきれません。


 泣くのだろうか、

 止まるのだろうか、

 笑い出すのか、

 怒りを表すか、


 どれにしろ、こんなに面白いことはないでしょう?

 

 不完全な悟入ごにゅうが現実を前に敗れ去る、なんて痛快で気持ちのいいおはなしなのでしょう。


 王様はその日を待ちわびました。

 それを明かすに最適な日を。


 ああはやく、


 明日にならないかなあ?


 寝る前にそう呟き、起きてからまた少年を甚振り、


 ある時遂に、


 「その日」がやってきたのでした。


 王様の予定とは違ったものの、


 確かに少年は、


 変えられてしまいました。

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