暴王に楽土無し~Nero can't reach Heaven~

@D-S-L

オープニング

とある王様の物語

「お願い!やめてよ!」


 聞き飽きた言葉、

 見飽きた反応。

 つまらない。

 欲しいのはそんなモノではない。


「な、なんで?オレ、なかよくしてて…」

 

 盲目

 目暗メクラ

 暗愚

 愚盲ぐもう

 何故自分が例外だと?

 何時だって、今この時の悦だけを求めて来ただろうに。


「あなた、最低よ。いつか、バチが当たるわ」


 一辺倒で、

 見掛け倒し、

 最後は折れて、

 灰になる。

 ありもしない抑止力を掲げ、

 先にくたばりゃ世話も無い。

 

 嫌いだ。

 面白くもなんともないものが、嫌いだ。

 振り返るから、飽きてしまう。

 見通しているから、怯えてしまう。

 だけどそれらは全て、形を持たない無力な幻。

 確たる現実とは、今この瞬間以外の他に無い。

 手を伸ばして触れる物事、その外側は存在し得ない。


 愛とは財。まこととは物質。正義とは娯楽。


 “今”を“楽”で埋め立てる、

 何を思わずともそれが続く、

 それ以上があるものか。

 どいつもこいつも偽に騙される。


 見なくていい事を頼まれてもいないのに覗こうとする、それが馬鹿だと言うのだ。

 それが、弱さだ。


 正義だの一貫性だのに左右されず、ただ目の前の快楽だけに全力を注げる。

 それが、強さだ。


 そして世の中には、生まれながらにしてその座に就ける勝者が居る。

 それこそが——


「そんなの、よくない」


 やめろ


「本当に、ごめん」


 うるさい


「大丈夫?」


 見たくない


「君は」


 こいつ


 こいつは


 お前は


 どうして


 見えるのに


 触れるのに


 何処に居る


 居る筈が無いのに


 そこに居るのか


 何故見ている


 ああ


 お願いだ




「まって……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る