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「書類、レナート様の、黒引き出しの中に入れました」

「ああ分かった。ありがとう」


 夜もけた、タウンハウスにて。

 皆でダイニングに集まっていたので、軽い夜食のスープを用意する前に、大事な書類を安全な場所に置いてきた。


「え、キーラあのさ」

 ロランが目を丸くしている。

「はい」

「レナートの部屋、良く分かってる感じ……?」

「? はい」


 スープを皿に入れてそれぞれの前に起きながら言うとりロランとヤンが、ぽかんとした。

 

「えっと……自分、いま、もんのすごいアレな想像しちゃったんすけど」

「ぐうぜん! ぼくも!」

 

  二人とも、言葉がおかしいよ?

 とりあえず、スープどうぞ?


「あの……レナート様のお部屋で一緒に寝てるだけですよ」

「一緒に……?」

 ロランが唖然として、

「寝てる……?」

 ヤンも同じ顔をした。

「うおっほん。念のため言っておくが、二人が思うようなことは、一切何も無い」


 レナートが上品な仕草で、スープを飲み終えてから発言しても、ロランとヤンは動かない。

 

「キーラ……ヤンに言って良かったのか?」

「? はい」

「そ……か」


 あ、レナートの眉間、少し緩んだ。

 

「変なレナート様。あ! 今日のナイトティーはですね、ハーブの香りの……」


 忘れないうちに伝えたかったのに、ロランが遮る。

 

「ちょおー! まってまって。置いてかないで。え? 待って。ふたり、一緒に寝てるの?」

「私がお願いしただけです――夜が、怖くて」


 しばらくの沈黙。そして。

 

「なっ、るほど、つまりは警護上でという理解で良いですか?」


 ヤンがようやく呼吸できた、みたいな顔をして言った。

 でも、警護上だけというわけでもないから。

 

「私のワガママです。レナート様の隣が安心するので」

「ごほん。つまりキーラの安心のためだ」

「いや、あのさあレナート、そんなエッヘンみたいな顔してるけど……理性すごいね。尊敬した」

「うぐ」

「ほんとっすよ! 自分なら確実に無理っす! とっくにやっ」

「ヤン!」

「やべっ! さーせんっ!」


 ちょっと男性陣が、何を話しているのかわからない。

 

「あの……?」

「見ろ、この目だぞ!」

「「うわ、辛い」」

「そうだろう」


 はああ~、とレナートの溜息が深い。


「お疲れ様」

「すげーっす! 尊敬します!」

「ありがとう」

「えっあの?」


 ロランがニコニコしている。

 

「男の話だから、気にしなくて良いよキーラ。今日は、僕かヤンでどう?」

「はあ……え?」

「一緒に寝るの」


 ロランの言葉に、レナートもヤンも目を見開いている。

 

「嫌ですけど」

「うわ、即答! 二人して一瞬で振られた!」

「勝手に巻き込むのやめてくださいよぉ~」

「だってさあ」

「おい、いい加減本題に」

「またまたー! レナート嬉しい? 嬉しいでしょ? ね? ね?」

「うぐ」


 なんか、楽しそうですね? でも、止めます。

 パンッ! と大きく手を叩きます。

 

「相談! ちゃんとしましょう!」

「「「はい」」」

 

 アーチーが見つからないまま四日が過ぎ、帝国要人が来る日まで、三日を切っていた。


「もし大掛かりなことを計画しているのなら、そろそろだと思うのです」


 ロランが、いつものように即座に化けの皮をかぶった。――毎回器用だなあ。

 

「僕もそう思う。お偉いさんはもうメレランド国内を移動中だからね」


 レナートが、無言で心配そうな目をロランに向けた。

 それに応えるように、ロランは続ける。


「僕にはまだ言えない情報がある。キーラ。どうか、僕を恨まないで」

「え?」


 ヤンが、なぜかびくりと肩を波打たせた。


「いつだったかの、機密文書を覚えている?」

「あ! はい。外交上の、と仰っていましたね」

「うんそう。あれはブルザーク帝国から来た通知なんだ。中身については、言えないけど」

「私はただの事務官ですから。知らなくても」

「……うん。でもこれだけは信じて欲しい。レナートも僕もヤンも、キーラを大切に思っている」

「急に、何を? あの、大事な情報を全て言って欲しいわけではないですよ? ただ、備えたくて」

「分かっているよ。でも、忘れないで。僕たちは、が好きなんだ。ね?」

「? はい、ありがとうございます」

「良かった。それだけは、絶対に覚えておいてね」


 そう言って微笑むロランの顔にどこか憂いを感じて、とても美しいと思った。


「さーて。じゃあ、この半年で僕が掴んだ情報を暴露する! 覚悟は良い?」

「ひえっ!」

「あ、自分もわずかですが」

「ヤンまで?」

「俺が持っている情報と合わせると、見えてきそうだな。この際全部吐き出して整理して、対策を練ろう」

「はい、レナート様! さすがです!」

「んん。ありがとう」

「「イチャイチャ」」

「してませんし!」

 


 ――私は、とりあえずお皿を片付けて、お茶の用意をしにキッチンへと向かった。

 長い話に備えて、焼き菓子も出して、それから冷えるからブランケットも持っていこうかな。


 

「キーラ、一人になるな。危ない」

「レナート様、ありがとうございます」


 ここ、家の中なのに。過保護だなあ。


「ごほん。心配なのだ」

「ふふ。はい」


 ――あなたに出会えて、本当によかった。

 

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