第2話
「文字通り、"銀行屋"は普通の銀行と同じく生徒からその資産を預かる業務を行っているわ。預けられた金は必ず保証するし、なんなら利息までつけているの。」
「この高校の風紀はあまりよろしくないわ。仕送りの現金をそのまま持っておくことはとても危険だから、こうやってわたしたちに預けることを勧めているの。」
「ま、待ってや。普通の銀行と同じようにしとるっても融資先がないやんけ。利息つけるいうんならあんたらは赤字やないか。なんでそんなことすんねん。」
お、なかなか鋭い指摘だ。
「見事に本質をついた質問ね。でも心配しなくていいの、"転売屋"に融資しているから。」
「"転売屋"ってなんや?」
またも現れた聞きなれない単語に
「さっき話したでしょ、食料を買い占めていく人たちのことを。」
「か、完全なマッチポンプやないか! なんやそれ!」
その通りである。財産の保証とわずかな利息を餌にして生徒からお金をかき集め、それを"転売屋"に融資して食料の独占を可能にし、生徒を苦しめて得た利益で儲ける。
これを思いついた時点で実に性格が悪いが、実行に移すなどまさに悪の権化である。
「あら、そこの
「
僕を見つめてくる
「あ、それは僕の名前ね。初めまして、同じ教室の
「そうか、
「はい、なんでしょう。」
そこはかとなく伝わってくる
「もしかして、初めからうちをここに連れてくために学校の案内を申し出てくれたん?」
実に申し訳ないことであるが、正解である。僕が
「……その通りです。」
「ああ、せっかく友達できた思たのに!」
途端、
「でも、これ"銀行屋"に金預けたほうがええんやろ。」
「うん、それは間違いないね。この高校に倫理はあってないようなものだから。」
「……嘘ついとったら、全力の飛び膝蹴りをくらわすからな。」
結局、
「責任とってもらうで、あんたは明日からうちの友達第一号や。」
「はい。」
「話しかけてくれた時、ほんま嬉しかったんやからな。」
「すみません。」
もう一生
「まあ、ええわ。ところで寮ってどこにあるん?」
気を取り直したかのように
「その、すごい致命的な思い違いをしているみたいだけどこの高校に寮なんてないよ。」
「は?」
裁判長に死罪を言い渡された瞬間の罪人にも匹敵するほどのすさまじい絶望をこめた声が、
「この高校にそんなお金のかかる設備なんてないよ。」
「じゃ、じゃあ
狼狽した様子の
「生徒はみんな徒党を組んで空き教室とかを勝手に占拠して雑魚寝するんだ。不安な人はお金を払って見張り番をたててもらうこともあるね。」
「あ、ありえんやろ……。ここはほんまに日本の高校なんか?」
実に残念なことに、これが
「その、泊ってく?」
僕の提案に、
僕が目を覚ますと、すでに朝日が窓から覗きこんでいた。寝ぼけまなこで起きあがると、
「ちょうどいいわ、喉が渇いたの。紅茶を淹れてほしいわ。」
僕はむっとした。いつのまにか、僕ばかりが朝に紅茶を用意するようになっている。どうも
「断る、たまには自分でお湯を沸かしてみたらどうだ?」
度重なる僕の抗議にようやく
「わたしは、あなたが準備した紅茶が飲みたいの。理解できるかしら?」
深淵へとひきずりこまれそうな瞳から臆病な僕は目をそらす。天才であることの弊害なのだろうか、
しかたがない、僕は諦めるほかなかった。こういった時の
横になっていた固い木の椅子から立ち上がると、体中がバキボキと音をたてた。
身体の節々が痛い。やはり、旧図書館備え付けのこの椅子はなにをどう頑張っても人の寝るものではないらしい。
「むにゃむにゃ、うへへへへ……。」
ちょうどそのとき、実にだらしのない寝言が聞こえる。そういえば、昨晩から
その気の抜けた寝顔をみて、イラっときた僕は
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