アルとパティ 学園に通う①

(前半、少し説明があります)


 各国の王を巡り、信頼できる仲間と出会った、メイクール国王子アルタイアことアルと、元天使の少女パティ。


 地上へ現れた魔のものらとの戦いを経て、メイクール国で、二人は平穏に暮らしていた。

 その戦いの最中、様々なことがあり、パティは翼と記憶を失くしたが、アルの保護のもと、パティは本来ののほほんとした明るさを取り戻し、日々を送っていた。


 その後、数か月が経った。


 パティは十五歳に、アルは十六歳になっていた。


 ちなみにパティは、記憶を失くしてから四か月ほどは城で暮らしていたが、その後、カイル・ディグラス――、メイクール国警護部隊長の養子となり、彼の妻と共に彼の屋敷で暮らしている。

 アルはパティにずっと城にいてもらいたかったが、色々な事情があり、そういう訳にもいかなかった。


 パティは、養子の話を聞いた時、カイルに面倒をかけるならば、修道院で過ごした方が良いのでは?、と思ったが、カイルもアルも、アルの気持ちを知っているマディウス王もそれを反対した。

 将来、アルと結婚をするには、修道院上がりでは体裁が悪いからだ。

 カイルは、いつか、二人が夫婦になるためならば――、と、それに、パティなら、と、彼女を養子にすることを決意した。



 カイルは普段、朝早く出掛け、夜も遅くに帰ってくるので、ほとんど会うことができないが、カイルの妻ロクサーヌは優しい人で、パティはディグラス家に養子になれたことを心から感謝した。

 ロクサーヌは記憶のないパティの面倒を見ることを、快く引き受けた。



 いつしかパティとアルは、揃って西大陸グリーンビュー国の王立学園に通うことになった。



 メイクール国には王族や貴族が通う学園がないので、二人は、入学から卒業までの間、グリーンビュー国に留学することとなった。

 始めはアルだけの予定だったが、パティも、と、アルの提案で、彼女を誘った。

 勉学にも興味があったパティは、アルと一緒にその学校に通うことに、二つ返事で了承した。


 主に王族や貴族等、一般常識、帝王学や政治経済、数学等教え、親の跡を継ぐ名家の子息、息女が通う学校だった。アルはパティと結婚したいと思っているので、パティが賛成してくれた時は、手放しで喜んだ。

 王妃になるには、やはり、相応の教育を受ける必要があるからだ。


 一般常識だけではなく、ほぼ勉学に対する知識のないパティに、学校が始まるまでの間に、自宅でカイルがパティに教師を付け、みっちり勉強をした。

 ダンスレッスンやマナー等は、城でアルが練習したり、専門の講師を付けたりし、どうにかパティは学園に入学することができた。


 パティは一年生に、アルは二年生として入学をした。

 

 入学をして数か月は、パティは勉強についていくのがやっとで、アルはアルで、二年生代表に選ばれ様々な仕事をこなしていたので、忙しかった。

 二人は学生寮も離れているので、前ほど会えずにいた。

 それでもアルは、時間を見つけてはパティの元を訪れ、困ったことや不便はないかと気を遣い、時には一緒に昼食を食べたり、学園での様々なことを話したりしていた。



 そうこうするうちに、更に月日が流れ、アルは十七歳に、パティは十六歳になっていた。



 その頃にはアルは背丈が随分と伸び、顔立ちも大人びて、すっかり青年の姿になり、貴族の令嬢たちからは益々憧れの存在となっていた。


 

「――ねえ、パティ。あなた、本当にアルとは恋人ではないの?」


 パティにそう訊ねたのは、藍色の髪と瞳をした、大人びた顔の少女だ。彼女はグリーンビュー国王女、セトラ・ローリー・グリーンビュー。

 十七歳のセトラがパティと同じ一年生なのは、崩御ほうぎょした父に代わって女王となった母を手伝っていたので、入学が一年遅れたのだ。

 セトラとパティは同じクラスで、意外と仲も良かった。


 以前のセトラは大国の王女として奔放に贅沢な暮らしをしていたが、父王が亡くなってからは母を支え、その苦労を経た彼女は、逞しくしっかりとした女性へと成長をした。

 以前のようにパティに冷たくすることもなく、アルから事情を聞き、記憶のないパティに余計なことをいうこともなかった。


 パティは席に座ったまま顔を上向け、少し考える。


 アルとの関係――、と言っても、一時期は城に住まわせてもらっていたが、特別な仲ではない。

 アルは真面目で、綺麗な顔をしていて、頭も良いし、人当りもいい。

 色々と気遣ってくれて、とても優しい。

 けれどアルは誰にでも優しいので、きっとそれは特別ではない――、とパティは思っていた。



「セトラ……。あ、はい。アルはわたしの記憶がなくなってしまったから色々と親切にしてくれていますけど、それだけです」

 

 パティがにこっと微笑んだので、セトラは、何て鈍感な子なの、と呆れる。


 

 ――あんなに素敵で優しいアルに思われておいて、それに気づきもしないなんて。



「いいわ、もう私は。アルのことは諦めたのよ。だけどねパティ、そんなんじゃ、アルを誰かに取られてしまうわよ」


 セトラは腕を交差させて互いの腕を摩り、ため息をつく。

 アルと再会したセトラは、アルの口から、パティへの思いを聞いている。アルの気持ちは何となく知っていたが、それなりにショックは受けた。 

 しかしそれももう、過去のことだ。

 初恋だったアルには、幸せになって欲しい。

 それがセトラの今の思いだ。


「まあ、そうなのですね、それなら、アル様のパートナーに誘われているのではないのね?」


 傍で聞いていたクラスメイトの女生徒が、いつの間にか話しに入って来て、目を輝かせて言った。





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