第31話 そうか、という事は私にもまだまだチャンスはあるという事だな

「エレン、こんにちは。待ってたよ」


「快斗君、こんにちは……それと今日は雪奈さんもいるんですね」


 放課後になったためいつものように快斗君の部屋を訪れた私だったが、今日は珍しく先客がいた。いつものこの曜日なら剣城雪奈はいない時間帯だったはずなので、なぜここにいるのか疑問に思い始める。そんな私の様子に気付いたらしい剣城雪奈は話し始める。


「ああ、4時間目にあったフランス語の講義が突然休講になってしまってな」


「だから雪姉は家に帰る前に時間ができたから俺の部屋に寄ったんだって」


「なるほど、大学生も色々とあるんですね」


 正直私は虫酸が走るほど剣城雪奈の事が嫌いなため一分一秒同じ空間にいたくない。だが快斗君の前で剣城雪奈を邪険に扱う事などできそうになかったため、私は頑張って友好的な態度で接している。

 私が剣城雪奈の事を嫌っている理由だが、それはあの女が私の快斗君の初恋相手だからだ。快斗君の初恋は絶対私だと思っていたため、偶然その事を知ってしまった日はめちゃくちゃに荒れてしまった。

 だが剣城雪奈という存在は快斗君にとどめをさす事ができる唯一無二の最強カードであるため、私の前に現れてくれた事は本当に幸運だったと言える。初恋相手であるあの女を上手く利用すれば快斗君の精神を完全に破壊できるに違いない。いよいよ長かった私の計画も大詰めだ。

 それから仲良さそうなふりをして3人でしばらく話していたわけだが、左腕につけている腕時計を見ていつの間にか結構長い時間が経過していた事に気付く。そろそろ夕食の時間が近づいて来ているため私は荷物をまとめて帰る準備を始める。


「じゃあ、私はそろそろ帰るね。またね、快斗君」


「……またな、外もだいぶ暗くなってるし帰り道には気をつけてくれよ」


 最近快斗君は私が家に帰ろうとすると独占欲のような負の感情が入り混じった視線を向けてくるようになった。そのため少しずつだが私に対して依存し始めていると言えるだろう。精神を壊した後に私の深い愛で上書きをすれば、完全に私に依存するようになるはずだ。

 玄関で快斗君と別れた私は家に帰り始めたわけだが、薄暗い道を歩いていると突然背後に誰かの気配を感じた。変質者の可能性があるため鞄の中からいつでもスタンガンが取り出せる事を確認して、それから後ろを振り向く。するとそこには剣城雪奈が立っていた。


「……なんだ、雪奈さんだったんだ。どうしたんですか?」


「驚かせしまってすまない、実は如月さんにちょっと聞きたい事があってな。さっきは快斗君の前だったから聞けなかったから如月さんが帰るのを待ってたんだ」


 どうやら剣城雪奈はわざわざ私の事を追いかけてきたらしい。それにしても一体私に何を聞きたいというのだろうか。そんな事を考えつつも私はすぐに笑顔を浮かべながら口を開く。


「私が答えられるような事であれば何でも答えますよ」


「じゃあ単刀直入に聞かせてもらうが……如月さんは快斗と付き合ってるのか? 如月さんが学校を休んで快斗の看病していた話を聞くと2人がただの幼馴染とは思えなくてな」


 なるほど、確かに私の行動は普通の幼馴染の範囲を大きく逸脱しているためその疑問が生まれてくるのは当然と言えるだろう。私はその疑問に対してすぐさま答える。


「快斗君とは付き合ってません」


「そうか、という事は私にもまだまだチャンスはあるという事だな」


 私の言葉を聞いた剣城雪奈はあからさまに安心したような顔となりぼそっとそうつぶやいた。その様子を見て少し苛立つ私だったが当然態度には出さない。


「……ちなみにという事は如月さんも快斗の事が好きなのか?」


「はい、私は快斗君の事を心の底から本気で愛してますから」


「なるほど、やはり快斗はモテモテだな……多分もう気付いているとは思うが実は私も快斗の事が好きなんだ」


 予想はしていたがやはりこの女も私の快斗君を狙っているらしい。だがここで新たな疑問が生まれてくる。それはなぜ私の前でわざわざ快斗君の事が好きであると宣言してきたのかだ。もしかして私に対する宣戦布告なのだろうか。思いっきり罵詈雑言を浴びせたい気持ちになる私だったが、それを我慢して無難な返事をする。


「じゃあ私達は快斗君という同じ男の子を狙っているライバル同士って事になりますね」


「そうだな、私は抜け駆けや横取りするような事だけはしたくないと思ってるから如月さんに自分の気持ちを打ち明けた。だから恨みっこなしで正々堂々と勝負しよう」


 正々堂々勝負したいなんてはっきり言って馬鹿らしい。どんな卑劣な手を使っても勝てれば良いと思っている私には全く理解できない考えだった。だがそんな事は口が裂けても言えないため、先程と同じように無難な言葉を返す。


「分かりました。でも雪奈さんに負けるつもりはありませんよ」


「それは私も同じだ。如月さんに負ける気は絶対に無いからな」


 私達は道の真ん中で火花を散らしあった。

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