剣城雪奈編
第30話 3ヶ月前と比べてだいぶ顔色も良くなってきてるし安心したよ
「快斗、おはよう。今日の調子はどうだ?」
「うん、今日は調子が良い気がするよ。ありがとう雪姉」
そう声をかけてきたのは従姉妹の
ちなみに俺の初恋の相手でもあり、実は小学生の頃に思い切って告白した事もある。まあ、その時は結局振られてしまったが。だが振られた後も特にギクシャクする事はなく、俺と雪姉は仲が良いままだった。
「そうか、それは良かった。3ヶ月前と比べてだいぶ顔色も良くなってきてるし安心したよ」
「……あの時は心配かけて本当にごめん」
「別に謝らなくてもいい。体調を崩すなんて誰にでもある事だからな」
俺が学校で倒れたあの日からちょうど今日で3ヶ月だ。あの後緊急搬送された病院で紆余曲折あった結果、俺は統合失調症と診断されて精神科に強制入院させられる事となった。それにより学校もしばらく休まなければならなくなったため本当に大変だった事を思い出す。
今でこそ無事に退院もして回復傾向にあるが当時はヒカルに裏切られたショックで自殺願望や幻聴、幻覚などの症状があり、とてもじゃないがまともに日常生活を送れるような状態では無かったため、それらの措置は致し方なかったと言える。
俺の症状が良くなり始めたのはエレンと雪姉のおかげだ。2人は統合失調症で苦しんでいた俺を献身的にサポートしてくれた。
特に雪姉はうちからは少し距離のある横浜市に住んでいて、その上大学の授業があってかなり忙しいにも関わらずほぼ毎日顔を見せてくれたのだ。
だから雪姉に対しては本当に感謝しかない。もっと元気になったらそのうち何かしらの恩返しをしなければならないだろう。そんな事を思っているとスマホの画面を見て何かに気付いたらしい雪姉は口を開く。
「……おっと、もうこんな時間か。そろそろ出ないと2時間目の授業に遅刻するから私はそろそろ行くな」
「ああ、今日も来てくれてありがとう」
「そう言ってくれると素直に嬉しいぞ、また来るからな」
俺は感謝の言葉を述べながら雪姉を玄関まで見送った。それから俺はいつも通り自分の好きな事をして過ごし始める。一応退院はしているがまだしばらく自宅で療養するように指示されているため学校には行っていないのだ。
最初の頃は学校にも行かず家で過ごすことに強い罪悪感があったが、治療のためだと割り切っているうちにだいぶ慣れた。今では少し長い夏休みのような気分で過ごしているのはここだけの秘密だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼食を挟みながら勉強やゲーム、ネットサーフィンなどをして過ごしているうちに気付けば放課後の時間帯となっていた。もうそろそろエレンが家にやってくるわけだが、正直今から待ちきれない。
「……早くエレンに会いたいな」
統合失調症の症状が一番酷かった頃、エレンは学校を休んでまで俺の看病をしてくれたのだ。エレンの優しさに触れた俺は感謝するとともに、彼女の優しさを自分だけに向けて欲しいという歪んだ感情が心の中で渦巻くようになっていた。
前まではこんなドス黒い独占欲のような感情をエレンに対して抱いていなかったはずなのだが。それに俺がエレンの事を好きだったのは中学1年生までの話だ。
高嶺の花となり手が届かない存在になったエレンに対して恋愛感情を失ってしまったからこそ、俺は中学3年生の時に川崎千束と付き合った。そもそも美人で性格の良いエレンと学力以外平凡的な能力しかない俺なんかでは釣り合うはずがないのだ。
まあ、その学力に関しても長期間学校を休んだせいで大きく低下しているため余計に釣り合いが取れなくなっているのは言うまでもない。そんな事を考えているうちに家のインターホンがなり、制服姿のエレンが俺の部屋までやってくる。
「快斗君、こんにちは。元気そうで良かったよ」
「ありがとう、だいぶ症状もマシになってきたからまた普通に学校へ行けるようになる日も近いかも」
「早くそうなると良いね。私は快斗君が元気になって学校に来るのを待ってるから」
優しく微笑みながらそう話すエレンの姿は本当に天使のようだった。そんなエレンの優しさを自分だけの物にして独占したいなどと思っている俺はきっとクズに違いない。自分の醜悪さを感じて嫌気がさしてしまう俺だったが、その思いは収まりそうになかった。
「じゃあ私はこの後用事あるし、そろそろ帰るね」
「……またな」
「うん、またね」
エレンが帰ってしまうと聞いた俺は名残惜しい気持ちになってしまう。どうやら2人で楽しく話していた間に結構長い時間が経ってしまっていたらしい。正直もっと一緒に居たいと思う俺だったが、エレンに迷惑をかけてしまうためそれは流石に言い出せなかった。
この後エレンに一体何の用事があって、どこで誰と会って何をするのかがとにかく気になってしまう。最近はそんな事ばかりを考えてしまうため俺はどこか変になっているのかもしれない。
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