第1章 第11話 男の子の手

 「風香に触んなよ!!」


 なんで……。

 なんでいるの、雄志君!

 君なら心配して絶対助けてくれるからこそなにも言わなかったのに。

 君に迷惑かけたくなかったのに。

 ――――でも


 「雄志君……」


 小さく漏れ出た言葉とは対照的に大粒の涙が零れ落ちる。


 「「か、海原くん!?」」


 橘高さんと大本さんが後ずさりしている。さっきの私のように。


 「説明してくれるかな、二人とも」


 落ち着いた言葉とは裏腹に雄志君の怒りが伝わってくる。


 「えっとね、これ、松原さんが海原君の教科書取ってたから取り返そうと思ってね」

 「そうそう!」

 「男子まで呼んで?」

 「こいつらはかってについてきただけ」

 

 どう見ても苦し紛れの言い訳をしている。


 「ふーんそうなんだ。なら後ろの男子たちは何してるの」

 

 雄志君の目がさらに鋭くなる。

 

 「海原、お前に用事があんだよ。松原さんはおまけ」

 「俺に?お前としゃべったのは初めてだが?」

 「俺の顔覚えてないのか?いや、俺たちの顔を」

 「いやしらんて」

 「おまえ!俺たちの彼女奪っただろうが!」

 「いやいや、しらんて。まじで」

 「おい翔太、やろうぜ」

 「おう。俺もこいつは殴らねーと気が済まねぇよ」


 二人の男子が雄志君に迫る。

 運動神経は雄志君いいらしいけど喧嘩が強い方じゃないとは思うしなにより、雄志君に暴力をしてほしくない。


 「おいおいまてまて、俺なんにも知らんて。勝手に俺に惚れたんじゃねーの」

 「てめぇ。なめんてんのか」

 「そんなに大切ならほかを見る隙なんて与えるなよ」


 どうしようどうしよう。

 わたしにはこの男子たちをどうすることもできないし大声で叫んでもたぶんこの階にはほかに誰もいない。

 でも雄志君には傷ついてほしくない。


 「やめて!雄志君を傷つけるのはやめて!私にはなにしてもいいから……」

 「そっかそっかー。でもそういうわけにはいかねーんだよ」


 翔太と呼ばれていないほうの男子がおおきく振りかぶる。

 雄志君は逃げるそぶりもない。

 やめて……。

 私はぎゅっと目をつむる。たまっていた涙が再びこぼれだす。


 「はーい、そこまで~」


 え……?

 なんでここに、獅子原君と三木君が……?


 「おそいよ、獅子原君」

 「わりーな、海原。やっぱり証拠はちゃんと撮っとかないといけないだろ?」

 

 獅子原君と三木君が二人のスマホで私たちを撮っている。

 

 「おめーらどこにいたんだよ」

 「あぁ?俺たちか?横の教室だけど」

 「わらわせんな、横の教室からは録画できねーだろ?」

 「美術室の横の教室って何か知ってる?」


 三木君がクイっと眼鏡を上げながらにやりと笑てっいる。


 「準備室だろ」

 「そう美術準備室。知ってた?準備室から直接美術室につながるこのドア立て付けが悪くて横に隙間があるんだよ。まぁそっちからは陰で見えにくいと思うけどね」


 橘高さんたちの足が一歩引く。


 「どうする?これもって生徒指導いや、警察行こうか?」

 「ちっ」


 女子たちが逃げ出そうとした瞬間後ろのドアが開く。


 「ごめんごめん。間に合った?ほーい元カノさんたち」

 

 そう言いながら今度は篠原さんが女の子二人を連れてくる。


 「莉子!?」「萌香!?」

 

 男子たちの血の気が一気に引くのがわかる。


 「海原君は何も悪くないの。というか私たちが悪い」

 「ど、どういうことだ?」

 「だって最近あんまりデートとかしてくれなくなったじゃん!だから海原君の名前を利用したの」

 「は?いや俺たち試合が近いっていったじゃん。前に話したよな」

 「それでも相手してくれなかったら寂しいし、夜だって通話もしてくれないじゃん」

 「それは疲れてて……。あーもう!悪かった、ごめん」

 「私もわがままでごめん」

 「そういうことだ莉子、ごめん」

 「翔太……。わたしもごめん」


 なんかすっごい丸く収まってる?

 こんな丸く収まるの?

 さっき私を襲おうとしたけど?

 

 「いや、あんたたちは逃がさないよ」


 篠原さんが橘高さんと大本さんを捕まえている。


 「私たち、何もしてないじゃん!離して!」

 「そうだよ!なにもしてないじゃん!」

 「ふーん。証拠撮ってるって言ったよね?」


 二人ともほとんど泣きそうな顔な顔でわめいている。


 「どうする?松原さん。私らは何でもいいけど」

 「いいよ、離してあげて。でも今回の証拠は消さないし何かあったら使うから」

 「そっか」


 橘高さんたちが美術室を去って私はゆっくりと雄志君のそばに行く。


 「がんばったね、風香」


 雄志君の大きくて、男の子なゴツゴツな優しい手が頭をなでる。

 その瞬間ダムが決壊するかのように涙が溢れ出す。


 「こわかったよぉぉぉぉぉ」


 私は泣きつかれるまで雄志君の、助けに来てくれた男の子の胸に包まれた。

 

 






 




 

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