第153話 酔っ払い
「先程は悪かった。同胞の死で気が立っていたとはいえ、いきなり威圧する必要はなかった。本当に申し訳ない」
獣人たちと和解した俺たちは共に夕食を取ることになった。猿頭の案内でファーレンのとある酒場を訪れた。そこで席に着くと、早々に獣人たちが頭を下げてきたのである。
こちらとしてはあの場での謝罪ですでに許している。隣にいるイッテツさんも同じようで、困惑した顔をしていた。
「俺たちはもう気にしてないですから。頭を上げてください」
「そうですよ。さっき威圧されたときは本気で死ぬかと思いましたけど……今はもうなんともないので、気にしないでください」
2人でそう言うとようやく獣人たちは頭を上げる。するとすぐに店員が俺たちのテーブルにきて注文を聞いてきた。おそらく割り込むタイミングを見計らっていたのだろう。
この酒場は獣人たちの紹介できた場所なので、頼むメニューは彼等に任せてみた。飲み物は全員ビール。俺はそれなりに飲めるがイッテツさんは得意ではないらしいので、ゲーム内とはいえ様子を見ながらちょびちょび飲むつもりらしい。
それぞれが自分のペースでビールを飲んでいく。猿は1杯で顔を真っ赤にしてふらつき始める。先程までの威厳ある姿はいったいどこへいったのか。ただのダメリーマンにしか見えない。一方で、犬と鳥は弱くはないようで俺と同じペースでおかわりをしている。そしてイッテツさんだが……どうやらゲーム内だと現実より酒の回りが遅いらしい。それが嬉しかったのか、後々のことなど考えずガバガバ飲みまくっている。
ちなみにマモルは酒を飲んで騒いでいる人間に対して、ダメだこいつらといった感じの視線を送りつつ、自身は渡された獣の骨を静かにしゃぶっていた。
「いや~、楽しいな烏丸よ! 犯人捜しから始まった我らの1日の最後が楽しい宴になるとは……人生何があるか分からないものよ!! はっ、はっ、はっあああ」
「同志、猿飛。飲み過ぎだ。酒に弱いくせにどうして毎回ペースを考えないのか……普段は俺たちの良きリーダーなのだが、こうなっては最早役に立たん」
猿が鳥に絡みウザがられている。犬の方はというと、知らんぷりをしながらラビットステーキを追加注文しようとしていた。
「あっ、犬さん。俺の分も同じの頼んでもらっていいですか?」
「構わないが、その呼び方はどうにかならんか? 確かに俺は犬の獣人だが、戌亥という名前があるのだ」
そういえば獣人たちはそれぞれ名前で呼び合ってたっけ?
戌亥さん以外の2人は確か、猿飛と烏丸だったはず。
「すみません。では戌亥さんお願いしてもいいですか?」
「あぁ。それとこの際、堅苦しい話し方もやめていい。我々は上下の関係ではないだろう?」
「そうですね。いや、そうだね。じゃあ、戌亥一緒に注文してもらっていい?」
「ふむ、頼まれた」
戌亥が2人分のラビットステーキを注文。俺はその際、追加のビールを頼んだ。
「ちょっと~ハイトさ~ん」
誰かが肩に寄り掛かったので、そちらを見るとイッテツさんがべろんべろんになっていた。
「獣人さんにはもうタメ口なの~? 俺とは今でも敬語なのにー」
これは完全に悪酔いしている。
「別にイッテツさんもため口で話してくれてもいいですけど。それはお酒が抜けてから考えましょうか」
こりゃあ、シラフになったときに本人は頭を抱えて恥ずかしがるやつだろうな。だからあんまり酷いことにならないように上手く会話は誘導しないと。
「そんなこと言ってぇ、距離取って! 実は俺とあんまり遊びたくないんじゃないんですかぁ?」
ダメだ、こりゃ。
ていうか、これリアルの方に影響出ないだろうな? いや、これまでそういった話は掲示板とかにも載ってなかったので問題ないはずだが……今のイッテツさんを見ていると心配になる。
「はいはい。そんなことないですから。とにかくイッテツさんはこれ飲んでください」
水の入ったグラスを差し出す。
無言でそれを受け取ったイッテツさんは、水をぐびっと一気飲みした。そしてグラスをテーブルに置いたかと思うと、爆睡。
その様子を見ていた俺と戌亥は互いに顔を見合わせた。
「皆、寝てしまったな」
「どうする? 俺はまだ飲めるけど」
「なかなか強いな。だが、こちらは明日からも仇探しをせねばならん。猿飛と烏丸をさっさと休ませねば明日に支障が出るだろうし帰ることにする」
「わかった。それじゃあ、お会計しようか」
お会計はひとまず俺と戌亥が割り勘することに。残りのメンバーからは後で取り立てるという話になった。その後、また何かあれば連絡を取れるようにと戌亥とフレンドになる。
「では、またなハイト」
戌亥は2人の獣人をズルズルと引っ張って夜の闇に消えていった。
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