第134話 忘れられていたアイテム
「リーナ、勝敗はついた?」
錬金術部屋でおいしいポーションを作製したことでサブ職のレベルアップを果たした頃。すらっちとスラミンが共有スペースでの妻とパルムの戯れが終わったからと呼びにきてくれた。
タイミングもよかったので、錬金術はやめて1階へと足を運んだところ……嬉しそうな妻の顔が見えたので声をかけた。
「もちろん私の勝利だよ! 目の前に1本ずつ獣の遺骨を追加してみたんだけど、6本目でギブアップしたから」
「それはよかったね」
勝ち誇ったように言う彼女の足元には、獣の遺骨の小山に頭を突っ込んではしゃいでいるパルムの姿があった。
楽しそうで何より。
ただ、はしゃぎ過ぎて獣の遺骨が周囲に飛び散っていた。それがバク丸に当たって睡眠の妨げとなり、かなり機嫌が悪くなっている。
バク丸の気持ちも分からなくはないが、兄貴分なんだからそのくらい我慢してあげて欲しい。
「あっ、そうだ。さっき錬金術をするついでにアイテムボックスの中を整理していたら、存在を忘れてたレアアイテムが見つかったんだよね」
俺のアイテムボックス内は錬金術でよく使う薬草、それによって生み出された低級ポーションと味を改良したおいしいポーションがほとんどを占める。あとは倒した魔物のドロップアイテムやイベントポイント交換したアイテムだったりが入っている。
初期設定のままだとアイテムは新たに入手したものが上にくるように収納される。そのため初期に手に入れたものはほとんど存在を忘れていたのだが……その中にとんでもない代物が残っていた。
「忘れていたアイテム……もしかして???の原石のこと?」
「ハズレだね。それもアイテムボックス入っていることを忘れていたものの1つではあるけど、俺が見つけたのはもっとレア度が高いものかな」
「違うんだ。じゃあ、なんだろ? え~と…………あ! 怨嗟の大将兎のドロップアイテム!! 何が落ちたのかもう忘れちゃったけど。魔核はパルムに使ったけど、他のはほとんど触れてなかったよね?」
「正解! ちなみに残ってるのは黒兎の大毛皮だよ。まさかレア度:4のアイテムの存在を忘れてるとは思わなかったよ」
怨嗟の大将兎討伐後は初討伐系の報酬の方に意識を取られていたので忘れてしまったのも仕方ない。でも、この前魔核を取り出したタイミングで他のドロップアイテムのことを思い出さなかったのは、もうただただ俺の記憶力が悪いとしか言いようがない。
「そっか、毛皮系なんだ。だったら私の防具を受け取るときにミミちゃんに渡してみる?」
「いいね。新しい素材、というか唯一無二の素材だからきっと喜んでくれるよ」
問題は誰の防具を作ってもらうかだね。
戦闘のことを考えれば前に出る俺のものの方がいいんだけど、魔核の方をうちの子の孵化に使ったということを考慮すると妻に譲るべきだと思う。それと妻は紙耐久なので良い防具を装備してもらっておけば、ソロで遊んでいるときの死亡する確率がグッと減るはず。俺が安心できるという意味ではとても大きな効果がある。
「魔核は俺が使ったから、防具はリーナのものを作ってもらおう」
「えっ、別にいいって。ハイトの防具作ってもらいなよ。私、後ろで魔法撃つだけのことが多いから」
「そんなの攻略ガチ勢でもないんだし気にしなくてもいいよ」
どのみちこれからしばらくは経営地でゆっくりすることになると思うから。そもそもこのゲームを始めた理由がペットと戯れて癒されたいっていうものだからね。景観の綺麗な住む場所とかわいい従魔たち。それが揃ったのだから本来の目的も果たせるというものだ。
もちろん全く遠出をしないわけでもないし、せっかくゲームをしているわけだからスローペースでも攻略はするとは思うけど、それなら今の防具でもしばらく大丈夫だろう。
「……ほんとにいいの?」
「もちろん。もしまたユニークモンスターと遭遇して素材が手に入ったら、そのときは俺の防具を作るから。気にしなくていいよ」
「わかった。ありがとう、ハイト!」
妻も納得してくれたので、黒兎の大毛皮は彼女の防具素材となることが決まった。
「あっ、でもミミちゃんが今作ってくれてる防具……ほとんど使うことなく終わっちゃうね。ちょっと申し訳ないなぁ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うけどね。むしろ初めての素材が持ち込まれたことへの喜びの方が大きそうだし」
「ならいいんだけど。でも、一応お願いするときに謝っとこうかな」
「そうだね。一緒に謝ろう」
ユニークボスの素材がいったいどんな防具になるのか。今からとても楽しみだ。
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