第132話 パルムのスキルと称号

 屋内に入り、窓のカーテンを閉める。

 日照ダメージを気にする必要がなくなったため、ほっと一息つく。


「ん? どうしたんだ、マモル」


 クランハウス1階の共有スペース。その一角に腰を下ろした俺の元へマモルが歩み寄る。視線の先は俺の足元付近。どうやらパルムのことを見ているようだ。

 パルムもそのことに気づき、どうしたのだろうと首を傾ける。


 俺たちの目の前で止まったマモルは全身を覆う影の一部を手のように伸ばす。


「受け取れってことは、何か持ってるのか」

 

 影の手から渡されたのは、獣の遺骨だった。

 これはマモルのお気に入りのアイテムだったはず。手に入った際ものは全て渡していたのだが、どうして返してきたのか…………もしかして同系統かつ同じ骨身であるパルムもこれが好きということか?


「おっ、パルム欲しいのか」


 予想は当たったようだ。

 2頭身の小さな骨龍人は、その短い腕をばたつかせて必死に俺が持つ獣の遺骨を取ろうとしている。このアイテムは元々使い道のなかったものなのであげることに抵抗はない。そもそもマモルに譲ったものだしね。そのマモルがパルムにあげると決めたのだから俺が止めるのも変な話だ。


「落とさないようにね。マモルがくれたものだから、ちゃんと感謝しなよ?」


 俺の手から獣の遺骨を受け取ったパルムは、マモルの方を向くとぺこりと頭を下げて感謝を示した。

 良い子だ。それにかわいい。


「ねぇ、ハイト。そろそろよしよししてもいい?」

「本人がいいなら」


 俺の返答を聞いた妻はすぐに両手を開き、パルムの受け入れ態勢へ入る。


 ぽてぽてぽて。ぱふっ。


 パルムは何の警戒もなく妻の方へと歩いていったかと思うとすぐに抱きついた。


「かっ! かわいいいいいいいいいいいい――――――」


 さてと、この間に俺はパルムが覚えているスキルの詳細でも確認しておこうか。


 まず武器生成というスキルだが、これは名称そのままで自分の肉体から武器を生み出すというものらしい。武器の性能は魔物のステータスやこのスキルの熟練度によって左右されるとのこと。

 これはパルムの場合は骨の武器を作るということでいいのかな。二足歩行だから武器は扱えると思うけど、今のよちよち歩き状態を見ているととても不安になる。幼体じゃなくなれば大丈夫なのだろうけど、成体のイメージがあまり湧かない。


 次に竜骨というスキル。これは称号<龍の血族>を持つことが習得条件なもののようだ。

 これはパッシブスキルで骨の強度が上がるというもの。パーセンテージなどは記載されていないため、どれほどの上昇しているのかは確認できないがあっても損はしないスキルなので良しとしよう。字面的にも強そうだしね。


 続いて再生だが、これは既に知っているスキルになる。妻の従魔であるすらっちやファス平原のエリアボスであるビッグスライムが持っているからね。

 効果は破損した肉体を徐々に再生していくというもの。少量だがHPの回復効果もある。武器生成で骨の一部を使用することを考えると、かなり有用なスキルだと言えるだろう。


 最後は怨嗟の叫び。

 うん、これがユニークボス怨嗟の大将兎から受け継いだスキルだね。名称だけでわかったよ。

 肝心の効果はというと、使用者から放たれる怨嗟に囚われし亡者に捕まった敵に様々な状態異常を一定確率で付与するというもの。もちろん耐性スキルを持っていればレジストされるが、恐怖、混乱、拘束、気絶、呪いの状態異常それぞれが別々に判定されるため、全ての耐性でもない限り1つは状態異常を受けることになりそうだ。

 マモルのように亡者から逃げ続けることで状態異常を回避するという方法もなくはないが、かなりの速さが必要だし、戦闘中にそんな隙を晒せば他のパーティーメンバーから滅多打ちにされるだろう。

 説明を読んだところ、怨嗟の大将兎が終盤に使ったスキルだと思われる。見た感じ俺があのとき受けた状態異常は拘束と呪いっぽいね。状態異常の説明によると拘束はその場から移動できなくなり、呪いは受けた者をかなり不快にさせるかつ力を15%低下されるらしい。最後は防御しかしていないので、力の低下はあまり実感しなかったが。


 うん。とても厄介。怨嗟の叫びはユニークボスから受け継いだ良スキルだと言えるだろう。ただ、パルムは今のところマモルと同じく声を発さないので叫びとついたスキルを使用できるのだろうかという一抹の不安はあるのだが……気にし過ぎか。


 あっ、あと称号の<龍の血族>についてだが、偉大なる龍の遺伝子を受け継ぐ者にのみ現れるものらしい。たしかにうちの子はドラゴニュートではあるが、種族名の頭にスカルとついているし、正式には不死系統のはず。どうしてこれを持っているのだろうか。何かスカルドラゴニュートという魔物の生い立ちが特殊だったりするのかな?

 まぁ、今のところ龍についての情報はこの称号以外にないので考えたところで答えはでないか。


「どう、リーナ。満足した?」


 情報を一通り把握し終えたので、未だにパルムに抱き着いている妻へ問う。


「う~ん、もうちょっと!」


 この後、30分は同じ状態が続く。なお、その間パルムは一切嫌そうな素振りを見せなかった。



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