第124話 フェザースライム

 エルーニ山で新たな魔物と出会うべく。従魔たちを連れて彷徨っていた。ファイヤーボールを撃ちまくった後なのでMPは少ない。本来なら残りのMPは気配察知を常時発動するために置いておくべきなのだが、ついさっき覚えた火魔法の試運転をしたいため、今は気配察知を切っている。


 現在、索敵役はマモルとバガードが受け持っていた。

 マモルは俺と同じく気配察知持ち。

 そしてバガードは俺たちよりも高い位置から周囲を見渡すことができるからだ。ただ、山の中では木々が邪魔になりその強みもなかなか生かしづらいようだが。


 とにかく俺は今、索敵役から外れている。完全に気を抜くわけにはいかないが、多少別のことに意識を割いても大丈夫だろう。


「ウォームだっけ? 一応どんな魔法なのか、くらいは見ておくか」


 何も調べずにぶっつけ本番で使うのは少しリスクがある。一旦、スキル欄で詳細を確認しよう。


 ――――なるほど。

 新魔法は僅かなMPを消費して選択した物を一定時間温めることができるもののようだ。これは名前通りあくまでも温めるという効果なので燃やしたりすることはできない。おそらく敵を火傷の状態異常にすることもできないと思う。


 戦闘で使うなら、どうする?

 …………思いつかない。氷のフィールドとかだったら、敵の足元を溶かして落とし穴。敵自体が氷でできているのなら体を溶かす。など特定の条件ならかなり役に立ちそうだけど、今いるような山のフィールドでは使い道はなさそうだ。試すのは経営地に戻ってからにしよう。


 この魔法はどう考えても生活を楽にするため使うためのものだ。水魔法のクリエイトウォーターと似たもの。なくても暮らせるがあると便利。そういう用途を想定して作られたからこそ消費MPが低く設定されているのかもしれない。

 これを風呂に使うということは、湯船に水を貯めて温めるって感じかな。でもシャワーはどうするのだろう。そこが気になる。夏なら別に水でも大丈夫だけど、冬に水シャワーは凍え死んでしまう。


 アネットさんがド忘れしているとは思えないし。何かしらシャワーから出る水を温める方法もあるのだろう。


 カーカー!!


 突然、バガードが鳴いた。意味は敵発見。


 続いて相手が気配察知の範囲に入ったのか、マモルから知らせが届く。

 敵はレッサーコング。


 これはスルーしてもいいかもね。レッサーコングって、そんなに強くないから経験値が美味しくない。それに自分から攻撃を仕掛けてくるタイプでもないので、素通りすれば何事もなく終えることができる。


「みんな、ここは戦わずに進もう。どうせやるなら、もっと強い奴がいいでしょ?」


 カー。


 バガードは短く、了解。バク丸は俺の頭の上で震えた。

 そしてマモルは早く戦いたいのか、次の敵を探して動き始めた。ちなみにさっきまでより移動速度が上がりました。


 そこから30分ほど山を歩いていると、再度魔物の気配が引っかかった。今は俺も気配察知を発動しているので、従魔たちから知らされるまでもなく気づける。


「この感じは……複数いるね。たぶん4体だと思う」


 複数体で群れて現れた敵は、これまでマーマンジュニアのみ。奴らが山に現れるとは思えないので、おそらく新種の魔物だと予想する。


「みんな気合入れてね。たぶん初めて戦う相手だから」


 マモルは言われるまでもまくやる気満々。これはバガードとバク丸への言葉だ。2体からはすぐに返事がきた。


「目の前の茂みの向こうにもう敵はいるから。また全員でタイミング合わせて襲おう。いくよ? いっせーのーで!」


 茂みを踏み越えた先。そこにいたのは――――。




スライム

様々な進化の可能性を持った魔法生物。

しずく型の体で跳ねて移動している姿が平原などでよく見かけられる。稀に山などに住み着く場合もある。


フェザースライム

翼を持ち、空を飛ぶスライム。体色は黄緑、翼は白。

主な攻撃手段は風魔法。




 スライムが3体に新種のフェザースライムが1体。とりあえず既にどんな魔物なのか分かっているスライムの方から倒してしまおう。

 俺はMPが少ないので魔法は使わない。相手のレベルが5を超えていた場合、碌にダメージが通らないが剣で叩く。


「なんだ。効くのか」


 攻撃が当たったスライムはまだ物理耐性を習得する前の個体だったようだ。ステータスが低いこともあり、通常攻撃1発で倒すことができた。


 チラッと周りを見るとマモルとバガードがそれぞれ1体ずつスライムを屠っていた。


 そしてバク丸はというと――――新種に向かって溶解液をぶっ放しています。攻撃の速さは俺のスラッシュやファイヤーボールより遅い。

 ただ、フェザースライムの飛ぶ速度が非常に遅くフラフラとしているため簡単にヒットしそうだ。


「ん!?」


 予想は簡単に外されてしまった。

 なんとフェザースライムは風魔法を唱えていたのか、溶解液を真正面から吹き飛ばした。そして飛び散った溶解液の一部が俺の方へ。


「まずっ」


 回避は間に合わない。盾の耐久値が大きく削られることを覚悟し、目の前に構える。


 …………。


 流石に1発で鉄の盾が壊れるということはなかった。

 だが、確実に耐久値が削られている。ミミちゃんに売ってもらった大事な盾が、こんなもらい事故みたいな形で。


 ちょっとイラッときたかも。


「みんな相手は今、魔法のクールタイム中のはず。容赦はいらない。全力で叩こう」


 このフェザースライムに、目にもの見せてくれる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る