第86話 従魔の紅一点
妻からリアルの晩御飯のリクエストを受けた俺は、後で買い物に行くことが決定した。
パスタを作って欲しいと言われてオッケーしたものの、よくよく考えたら材料のほとんどを切らしているということに気づいたからだ。
買い出しの時間を計算に入れると当初の予定より早めにログアウトする必要があるが、それでもまだ晩御飯を作り始める時間まで余裕がある。なので今日は次のフィールドの観察まではしておきたいな。
でも、まずは毎回恒例のドロップアイテムチェックからしないと。
スライムゼリー
レア度:1 品質:低
スライムを倒すと手に入ることがあるゼリー。淡い水色で清涼感のある見た目をしている。味はほんのり甘い。
獣の遺骨
レア度:1 品質:低
スライムに捕食されて体内で溶かされた獣の成れの果て。
溶解液
レア度:2 品質:低
触れたものをじわじわと溶かしていく液体。
取り扱いには非常に注意が必要となるが、錬金術の素材としての利用価値が高く需要がある。
スライム系の魔物を倒すと稀にドロップする。
解体を使用してドロップアイテムを回収すると初めて見るものが手に入った。内容を確認してみると、どうやらスライムたちがスキルで攻撃する際に使用している溶解液がそのままアイテムとなったらしい。取り扱い注意らしいが、錬金術の素材として使えるみたいだし、後で見習い錬金本にこれを使ったレシピが載っていないか知らべてみよう。
「ハイト、ドロップアイテムはどうだった?」
「前回とそこまで代わり映えないかな。唯一、レア度2のドロップアイテムだけが変わった感じ」
「そっか~。じゃあ、今回はビッグスライムの魔核は落ちなかったんだね」
「うん。その代わりに溶解液が手に入ったよ。錬金術の素材になるらしいから、俺が使ってもいい? 他のボスドロップを何かしら譲るからさ」
「もちろん! それなら私はビッグスライムの魔核が欲しいかな」
「魔核は俺はいらないし、普通に譲るけど……何に使うの?」
この前、アネットさんに聞いた話だと魔核の用途は武器の製作や魔物の進化素材って……もしかしてスラミンに取り込ませてビッグスライムに進化できないかどうか試すつもりかな?
「アネットさんから魔核が進化素材になるってこの前聞いたでしょ? だからスラミンが進化するときに与えてみてどうなるのか確かめたいの」
予想した通りの使い方をするつもりのようだ。それなら俺もどうなるのか興味があるので、喜んで譲ろう。
「わかった。なら溶解液は俺、ビッグスライムの魔核はリーナのものってことで」
「やった! スラミン、これで強いスライムに進化できるよっ! 楽しみだね~」
妻は頭の上にいたスラミンを両手に移らせると目線の高さを合わせてそう語りかけた。言われたことを感じ取ったスラミンは体を小刻みに揺らして返事をする。
「スラミンはなんて?」
「私も楽しみ! だって」
「本人も喜んでるならよかったね。ていうか、スラミンってメスだったんだ?」
一人称が私のオスパターンの可能性もあるけど。
「そうだよ? 私の従魔の紅一点なんだから!」
そういえば俺の従魔も全てオスだし、うちのクランの従魔の性別は相当偏ってるんだね。メスがスラミンだけというのも可哀想だし、次テイムする子はオスじゃないことを願っておこう。
「知らなかったよ。でも、メスなのにビッグスライムになるの嫌じゃないんだ。体積がかなり増えるから普通のスライムと比べるとだいぶ太ってるみたいに見えるのに」
「…………ハイト? それはちょっとデリカシーのない発言だと思わない???」
急に妻の声のトーンが2段階くらい落ちた。
まずい。明らかな地雷を踏んでしまった。すぐにでも謝らないとこれは大変なことになってしまう。
「スラミン、ごめん。従魔相手でも女の子には言っちゃダメなことだった」
俺の謝罪を受けて、スラミンはぽよんっと1回跳ねた。
「別に気にしてないからいいよー! ってスラミンは言ってる。今回はすぐに謝ったし、私もこれ以上は何も言わないでおくね」
スラミン自身が全く怒っていなかったので、妻からのお叱りもないようだ。器の大きいスラミンに感謝しよう。
「よしっ! じゃあ、通せんぼしてたエリアボスも倒したんだし……そろそろ次のフィールドに向かおっか」
切り替えた妻はいつものようなテンションに戻る。
「そうだね。この先の情報はあまり知らないから、警戒しながら進もう」
激流の大河を渡るためにかけられた橋。向こう岸にたどり着くまで1kmといったところだろうか。石製だし、かなり大きな橋なので揺れたりはしないだろうがここはファンタジーな世界だ。何が起こるかわからないので慎重になって損することはないだろう。
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