第54話 ノックバック効果、再来

「これで3回目!」


 気絶待ちで、ブラックボアが木に突撃するのを見送ること3回。魔物は自傷ダメージでかなりボロボロになっていた。

 それでもなお、敵である俺たちを倒そうと突進を続ける根性には感服する。ただ、すでにその攻撃には速さが乗っていない。今なら、真正面から盾で受けてもそこまでダメージは受けないだろう。


「もうほとんどHPは残ってなさそうだけど、気絶しないね」

「う~ん、どうしよう……ハイト、何かいい作戦ある?」


 作戦か……そういえば以前、レッドボアと戦ったときに意図せず気絶させたことがあったよね。あのときはたしか、相手が突進してきたからそれを真正面から受け止めようとしたんだっけ?

 同じことをすればテイムできる可能性もあるかもしれない。木にぶつけまくる作戦がダメだった今、他に気絶させる方法は思い浮かばないので、とりあえず試してみよう。


「俺が盾で真正面から止めてみるよ」

「それで気絶してくれるかな」

「絶対するとは言えないけど、レッドボアのときは偶然だけど気絶させられたし試す価値はあるんじゃない?」

「わかった。じゃあ、お願い」

「任せて」


 ついでにはなるが鉄の盾の性能を試せるのはラッキーだね。


「さぁ、こい!」


 俺が鉄の盾を前に構えて両足を踏みしめると、タイミングを見計らったかのようにブラックボアがこちらへと進路を向けた。出会った頃ほどの速さも威力もない突進。されど、彼の魔物の全身全霊の一撃。正々堂々、真正面から受けて立つ。


 衝撃は凄まじく、この身を浮かす。

 レッドボアの突進にもついていたノックバック効果だろう。


 だが、二度も同じような展開で吹き飛ばされるのはかっこ悪いだろう。何が何でも耐えきってやる――――。


「ハイト!?」


 がんばったと思う。体感では2、3秒は吹き飛ばされずにブラックボアと競り合った。だが、やはり根性だけではシステムの壁は越えられなかったらしい。

 結局、俺の体は突進の衝撃を受けて後方へと飛ばされた。


「うっ……」

「大丈夫?」

「ちょっと気持ち悪いかも」


 今回の戦場は山である。いくらブラックボアが木をなぎ倒し続けていたといっても、当然倒し漏らしも存在する。俺はそれが生えている方へ運悪く飛ばされ、背中を強打したのだ。

 その結果、突進では鉄の盾のおかげでほぼダメージを受けなかったにも関わらず、HPが4割ほど減少してしまった。


「えっ……それだったら1回ログアウトしよ! あとで何かあったら嫌だもん!!」


 妻は目尻に涙を浮かべる。


「大袈裟だなぁ。ちょっとすれば治ると思うし、そんなに心配しなくていいよ」

「で、でも……」

「もう少し様子をみて、気持ち悪いのが治らなかったらちゃんとログアウトするからさ。ほら、そこでのびてるブラックボアが目を覚ますのを待たなきゃいけないんだし、丁度いいでしょ。だからお願い」


 正直、そんなに心配するほどのものでもない。おそらくだが、後頭部を打ったことによる大ダメージをわざわざステータスで確認しなくても体感で分かるようにする処置みたいなものだと思うから。気持ち悪いと言ったって、ちょっと食べ過ぎたかなってくらいの感覚だし。

 それに妻と話しているうちに、気持ち悪さはどんどん薄れていく。


「ちょっとでもヤバそうだったら、絶対ログアウトさせるから」


 なんとか妻を説得した俺は数メートル先で倒れている黒い巨体を見る。完全に意識を失っており、まだまだ動き出す気配はない。俺は吹き飛ばされるわ、後頭部を強打するわでちゃんと見ていなかったが、気絶させることに成功したらしい。


 やることもないし、今のうちに盾の耐久値でも確認しておこうか。




鉄の盾

レア度:2 品質:中 耐久値:145/150

要求値:力(25) 上昇値:耐+15

特殊効果:なし

アイテム説明:鉄製の盾。装備するにはそれなりの力が必要。




 全然、大丈夫そうだね。

 威力が下がっていたとはいえ、突進を真正面から受け止めても耐久値が5しか減っていない。これなら怨嗟の大将兎のような魔物と戦っても、すぐには破壊されないだろう。本当にいい買い物をしたものだ。こうやって実践でその性能の高さを見ると、鉄の武器も早く欲しくなるなぁ。


「あっ、もぞもぞしてる!」


 俺がまだ見ぬ鉄武器に思いをはせていると、妻が大きな声をあげた。


 プ、プゴッ。


 続いて豚が鼻を鳴らしたような音がする。

 発生源は言うまでもない。


 妻の傍に行って、俺がテイムしたと判定されると困るのでこの場で待とう。


「ハイトー、テイムできたよ! ステータスを見せてあげるって言いたいけど。その前に……気持ち悪いの治った?」

「完全に。HPが減っている以外はなんともないよ」


 俺は立ち上がって両腕をブンブン回したり、その場で飛び跳ねる。精一杯の大丈夫アピールだ。


「そこまでやるなら、大丈夫……かな? じゃあ、はいっ。新しい仲間のステータスを見てあげて!」




ぶーちゃん(ブラックボア)

Lv.1

HP:120/120 MP:20/20

力:22

耐:12

魔:4

速:17

運:11

スキル:突進

称号:―




 力はLv.1の時点で20超えか。それに速さも高い。代わりに魔力とMPがほとんどないね。

 これは分かりやすい物理特化タイプだ。


 俺が散々、やられてきた突進のスキル詳細も気になるが、今は他に触れるべきところがあるだろう。


「この名前は……間違ってつけちゃったの?」

「え? 違うよ。かわいい名前をつけてあげたくて、ぶーちゃんにしたの」


 すらっちのときから薄々分かっていたが、妻の従魔に対するネーミングセンスはあまりよくないらしい。


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