第35話 スキルの穴

 1人で再び湖の中へと飛び込んだ俺は、ある程度の深さまで潜る。すると視界に5、6匹のニジマスを捉えた。早速、その中からターゲットを1匹に絞る。


「スラッシュ!!」


 叫びながら、水中で剣を抜き、全力で縦に振り下ろした。放たれた斬撃は狙っていたニジマスへと真っ直ぐに進む。そして周囲にいた別個体もろとも、その刃の餌食とした。


「簡単に片付いたね。目つぶしさえ警戒していれば、問題ない魔物ってことか」


 マモルも生け捕りにしなければ楽勝だっただろう。ニジマスがトラウマになっていなければ、二度とやられることはなさそうだ。


「解体するか」




ニジマス

レア度:1 品質:低

身から鱗まで、活かすも殺すも使用者次第。

湖や川でよく獲れるため、安価で流通している。

絞め方によって品質が変わる。




 どうやらニジマスは倒せば、そのまま本体が手に入るらしい。説明を信じるなら、品質が低なのは俺がぶった切ったからだと思われる。

 次から傷などは極力つけないように仕留めよう。流石に生け捕りは目つぶしのリスクがあるのでやらないが。


 さてさて、次はどの魔物を狩ってやろうかと水中でプカプカしていると離れたところで爆速遊泳している気配をスキルで感知した。

 これは討伐リストにある魔物だと、どう考えても爆速ヤマメしかいないだろう。だって、名前に爆速ってついてるんだから。もし違ったら一種の詐欺だと思う。


 早速、戦いを挑みたいところだが……今の俺の速さではどう考えても追いつけない。どうにかして奴の泳ぎを止めなければ。

 ステータスを呼び出して自分のスキル構成を改めて眺めてみるが、現状を打破できるようなものはないように思える。

 ならば、未取得のスキルでどうにかできそうなものはないのかと探してみるも成果はいまいち。可能性があるとすれば、以前取得に必要なSPが大きいからとスルーした身体強化くらいだろう。しかし、これの効果は10秒間ステータスを1.5倍にするというものなので、超短期決戦を強いられるのでけっこうな博打に思える。そもそも俺の17という速さが26(四捨五入)になったところであの爆速ヤマメに追いつけるとは思えないしなぁ。


 これはお手上げだ。

 一旦、あの元気なお魚のことは後回しにしよう。


 そうなると次に狙うのは必然的にラニットアユか人食いウナギになる。

 人食いウナギだけやけに強そうな名前をしているし、もしかしたらエリアボスのような立ち位置なのかもしれない。そう考えるとラニットアユを先に狩りたいね。


 しかし、肝心のラニットアユの気配だけは未だに察知できていない。正体不明の大きな気配が湖底でどっしりと構えているが、これはどう考えても人食いウナギ。他に気配察知できているのはもう発見済みの魔物ばかりだ。

 スキルの範囲は縦5m、横10mくらいなのでこの大きな湖全てをカバーすることなど到底できない。なので、気配が見つからなくともおかしいわけではない。ただ、ボス的立ち位置で湖底にいる人食いウナギ以外の魚はだいたい少し移動すれば、その場所その場所で新たな個体を感知できる。それを前提とすると何かあると疑いたくなる。


 下は湖底まで感知範囲に捉えている。そして多少左右に移動したところでラニットアユは見つからない。


「もしかして上?」


 そういえば、湖畔に立っていたときに蓮に隠れている魚影を見たはずだ。あれは水中で感知しているどの魔物とも違う種類のものな気がする。

 俺はラニットアユが居てくれることを願いながら頭上の蓮に向かって泳ぐ。少しずつ距離が縮まり、ついにスキルの感知範囲に蓮が入った。しかし……反応はない。俺が湖畔から見た魚影は気のせいだったのだろうか。そんな思いが浮かぶが、他に手がかりがないので蓮の真下まで移動する。


 ん? やっぱり蓮の裏に魚がいるじゃないか!

 俺の気配察知が反応しなかったのはどういうことなんだ?

 これまで信用していたスキルに裏切られたような気持ちになりながらも魚に鑑定をかける。




ラニットアユ

ラニット地方に生息する魚の魔物。体長10~30cmほどと小柄な上、気配を消すことからなかなか見つからない。夜は水生植物の影で寝ているので狙い目。




 どうやら索敵スキル潰しな魔物らしい。そんなやつ、気配察知を頼りに行動している俺が見つけられるわけがない。湖畔に辿り着いた際に、魚影を見ていなければずっと発見できずにいただろう。


 運が良いのか悪いのか。なんとも言えない気持ちになりながら、俺はゆっくりと剣を抜く。起きられてはめんどうなのでできれば、このまま仕留めたいから。

 いや、待てよ。この状態なら手掴みでもいけるのでは?

 そうすれば、切れ味の悪い頑丈な石の剣で斬るよりも良い状態のラニットアユをゲットできる。


「頼むから起きるなよ」


 小声でラニットアユへ語りかけながら、そ~っと両手を伸ばす。そして……捕まえた!!!


 俺の手の中で目覚めたラニットアユが暴れる感触があるが逃がしてなるものか。お前は陸へあがるんだよ!


 全力で陸へ向かう俺と逃げようとするラニットアユ。勝利したのは――――。


「よっしゃあ!」


 湖畔へとあがった俺は手の中の獲物を見る。さっきまで大暴れしていたのに、今は大人しくなっていた。

 これは勝ったなと思いながら、解体してから鑑定をかけた。




ラニットアユ

レア度:3 品質:中

塩焼きが人気の魚。手に入りづらいため、小型の魚の割に高価でやり取りされる。

絞め方によって品質が変わる。




 よしっ!

 品質が低じゃない。レア度も予想以上に高いし、これは妻に良い土産ができたね。


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