第30話 山で遭遇(下)

 黒い翼をはためかせ、大柄な烏は空からフライドラビットの元へと舞い降りた。最初は警戒するように嘴で突いては観察、突いては観察となかなか口に入れそうになかった。しかし、何度もその行動を繰り返すうちに毒などはないと納得したようで少しずつ食べ始めた。


「体が大きいわりに、食べ方はかわいいんだね」


 俺たちは警戒されないように魔物から距離を置いたまま観察している。少しずつ啄む姿に妻はご満悦のようだ。


 しばらく待っていると、魔物は食事を終えたにも関わらず飛び去ろうとはしない。それどころか、物欲しそうな瞳でこちらを見ていた。


「もしかして、まだくれって訴えてる?」

「たぶん」

「もう1回あげてみるか。また俺があげてもいい?」

「うん。さっきもハイトがあげたんだし、その方が警戒もされないでしょ」


 アイテムボックスから新しいフライドラビットを取り出すと烏は体をピクっと反応させるが、自ら近づいてきそうにはない。食欲は刺激されるが野生動物の本能、いや魔物の本能が働いているのだろう。

 相手を刺激しないように中腰でゆっくりと近づく。目線もずっと互いに合わせたまま距離を詰める。手の届く近さまで到着したので、そっと料理を差し出した。


 烏の魔物はフライドラビットを俺から奪い取るのではなく、直接手に持っている状態で啄み始めた。

 最初こそ手ごと食べられたりしないよなと恐怖も感じたが、徐々にそれも薄れていった。それにしてもこの魔物やっぱりリアルの烏とは違うんだなぁ。足が1本しかないし、目の下に赤色のラインみたいなのが入っている。それに頭頂部にも少し赤毛が生えている。


 しばらく観察していると魔物は食事を終えたようだ。突然、バサッと軽く飛んだかと思うと、俺の肩に乗った。


<一足烏をテイムしました>


<テイムの熟練度が規定値に達しました。テイム上限数が4になります>

現在:2/4


「テイムできちゃった」




名称未定(一足烏いっそくう

Lv.1

HP:105/105 MP:55/55

力:10

耐:22

魔:12

速:9

運:11

スキル:飛行、挑発、硬化

称号:―




 鳥だからてっきり速さが高いのかと思っていたけど逆だったようだ。HPと耐久力が優れていて魔力はそこそこ。力と速さが低めに設定されている。飛行ってスキルもあるし、空飛ぶタンクってことか?


 ステータスの考察は一旦済ませて、名前を考えるか。空飛ぶタンクでフラタンクか防御型の鳥でバガード。あとは大きな烏でビックロ。バガードが1番かっこいいな。


「決めた。今日からお前の名前はバガードだ。よろしくね」


 カァー。


 お気に召したらしく、バガードは一鳴きして答えた。

 名づけまで終えた、新しい仲間を肩に乗せたまま妻の方へ寄る。


「いいな~。ご飯に食いついて近づいてきた時点で、テイムできたりしてって思ったけど、まさか本当に成功するなんて。私もすらっちの後輩従魔が欲しいから、次に新種の魔物を見かけたら譲ってね」

「もちろん、いいよ。バガードみたいにその魔物が自らテイムされにくるかはわからないけどね」


 これまでバガードみたいに自分からテイムされにくる子はいなかったから、きっと今回はかなり運が良かったんだと思う。


「そんな都合に良いことが2回も連続であるわけないし、色々試してみるしかないね。っていうか、その子の名前もう決めたんだ」

「ステータスを見たら防御型の鳥っぽいから、バードとガードを組み合わせてバガードって名前にしたよ」

「なるほど。それじゃあ、これからよろしくね。バガード」


 バガードは妻が頭を撫でるのを黙って受け入れた。


「そろそろ休憩も終わりにして先へ進もう! って言いたいところなんだけど、実は選択スキルスクロールを1つ使いたいからもうちょっとだけ時間もらっていい?」

「大丈夫だよ。何か欲しいスキルでもできたの?」

「うん、俺にではないけど。バガードに何かしら魔法を覚えさせてあげたくて」


 ステータスを見た感じだと、若干ではあるが物理攻撃よりは魔法攻撃の方が得意そうだったからね。


「それなら、私たちがまだ覚えていない魔法の方がいいよね」

「俺もそう思ってた。とりあえずアイテム使ってみて、スキルリストを一緒に見ながら決めよう」


 アイテムボックスから選択スキルスクロールを1つ取り出し、使用する。大量の取得可能スキルの中から魔法を探す。

 バガードが現状で覚えられる魔法は4つ。火魔法、水魔法、風魔法、土魔法。見習い魔法使いが最初から取得可能なスキルで魔法の基礎とされているものだ。これらのスキル取得時に覚える最初の魔法は全て掲示板で明かされていた。

 あわよくば妻が覚えているような闇や植物といった特殊な魔法を狙っていたが、そんなに都合良くはいかないようだ。


「風魔法が1番それっぽくない?」

「う~ん、それはそうなんだけど……普通にレベルアップしたときに覚えそうじゃない?」

「あるかも。それだとスキルスクロールを使用して覚えるのはもったいないね」


 というわけで、風魔法は選択肢から外す。


「残りで俺たちが覚えていない魔法ってなると、もう土だけだね」


 土魔法を取得したときに覚えるのは、アースウォールだ。耐久値の設定された土の壁を指定した地点に出現させる魔法。これは妻のよく使う植物魔法、ソーンバインドと同じく魔法陣が展開されてから発動までに少し時間がかかるタイプなので扱いが難しいとの噂だ。


「でも、それってな~んかイメージ的に合わない気が……」


 妻の言うイメージうんぬんはわからなくもない。それに扱いの難しい魔法を従魔に任せて良いのかもわからない。だが、もし空から戦場を俯瞰して見られる魔物が、先読みしてトラップのように土魔法を用いたらどうだろう。地を行く人や魔物にはきっと脅威となるに違いない。

 それに烏ってリアルだと結構かしこいって言われてるから、バガードもそう育ってくれると信じてみるのもいいか。


「まぁ、微妙な結果になったらそのときはもう1つバガードにスキルスクロールを使ってあげればいいよ。何事も挑戦だからさ」


 カーッ。


「バガード自身も賛成してるっぽいし、いいんじゃない? 本人と主人であるハイトがおっけーなら、私は文句なんてないよ」

「決まりだね」


 俺はスキルリストから土魔法を選択し、バガードに新たなスキルを与えたのだった。


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