第17話 再戦に向けて(4)
「ここがファーレン周辺のフィールドで1番テイマー向けの場所なんだっけ?」
「そうだよ。他のフィールドと違って、複数の魔物が見かけられるから従魔を探しているテイマーにぴったりな場所らしいよ。それ以外の職業の人もいろんな素材が取れるし、レベルアップにも最適らしいから、周りにも結構人がいるね」
妻の従魔を探すために俺たちが訪れたのはファス平原というフィールドだ。穏やかな草原より地面の起伏が少なく動きやすい。それに足元で風に揺られる草々も、あちらのものと比べると背が低い。
最弱のフィールドである穏やかな草原より戦いやすい条件が揃っているが、その分出てくる魔物が一角兎より強いものばかりなので注意が必要だ。もちろん怨嗟の大将兎みたいな化け物はいない……はず。
「おっ、早速魔物が気配察知に引っかかったよ」
スキルが知らせた位置を見るとそこには真っ赤な猪がいた。背丈は俺の腰より少し低いので、そこまで大きい魔物ではない。
レッドボア
小柄な猪の魔物。同族の中では最弱。体毛が赤いのは、それで敵対生物を威嚇するためだという。
鑑定結果によると、その見るからに危険な体色に反して最弱の猪らしい。それでも一角兎より強いのは明白ではあるが。
「リーナ、とりあえず1度、倒してみよう」
「わかった! 水魔法、ウォーターボール」
魔法陣が展開されている間に、攻撃を仕掛けられないかと警戒するも相手は俺たちに気づいてすらいないらしい。
完成した魔法陣から、水の弾が生成されてレッドボアへと放たれた。
「命中! でも、まだ死んでない」
妻の高火力魔法を受けても一撃では倒れないか。レッサーコングと同じくらいは耐久力があるということだろう。
「距離を詰めて仕留めてくる」
新調した皮装備一式の重みを感じながら、標的に向かって走る。それに対してレッドボアは真正面から突進で迎え撃つつもりらしい。
「負けないよ!」
一旦、停止して盾でガードすることも頭に過ったが、その選択はしない。俺の今の武器は耐久値の高い頑丈な石の剣だ。多少の無理は通るはず。
眼前に迫る猪頭へ剣術(初級)のアシストを受けながら頑丈な石の剣を振り下ろす。
「えっ」
衝突した瞬間、俺の方が後方へと吹き飛ばされた。
まさかの結果に妻も大慌てで駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「あぁ。死んではいないみたいだから」
すぐにステータスを見るが、HPは9割残っている。
「もう! いきなりふっ飛んだから、びっくりしちゃったよ」
「俺もだよ。ノックバック効果、みたいなのがあるのかな。あの攻撃には」
「みたいだね。あっ、そうだ! レッドボアの方はどうなったんだろう」
ノックバック効果のすごさに驚いて、敵の存在を忘れていた。気配察知に引っかかっているということは死んではいないはずだが、相手は全く動かない。
「これは失神してる……のかな?」
レッドボアへ近づくと、なんと白目を剥いて倒れていたのである。
「当たり所が悪かったのかな」
いや、それだけじゃないか。きっと自身の突進と俺の頭部への攻撃が合わさった結果、こんな可哀想なことになってしまったと思われる。
「ちょっと悪いことした気になるなぁ」
「ハイトもふっ飛ばされたんだからお互い様じゃない?」
「それもそうか。じゃあ、今度こそ終わらせるよ」
無防備な頭部へ、再び頑丈な石の剣を振り下ろして初のレッドボア狩りは終わりを迎えた。
「レベルアップはこなかったね。私、ちょっとだけ期待してたんだけど」
「メイン職は2人ともLv.6だから。そう簡単にはいかないんじゃないかな」
今日は妻の従魔探しがてらこうして魔物を狩っていくつもりだし、そのうちレベルも上がるだろう。
「忘れないうちに解体するね」
レッドボアの皮
レア度:1 品質:低
アイテム説明:レッドボアから取れる皮。脱色してから皮の鎧などに加工される素材。
「俺たちの鎧の素材が手に入ったね」
「皮かぁ~。ボア肉期待してたのに……」
「序盤で手に入るお肉のド定番だもんね。ちなみに料理の掲示板で見たんだけど、ボア肉は普通に焼くだけじゃ臭みが酷いから注意しろって書いてあったよ」
「えっ、切って焼く以外にもしなきゃいけないの……スキルありでもできる気がしないよぉ」
妻は頭を抱えて困り顔を見せる。どこぞの野郎がやっていたら滑稽な仕草も、うちの妻がすると絵になる。
その姿を見て、さっきまで戦っていたとは思えないほど気持ちが緩んでいるのが自分でもわかる。
「ちょっとハイト。今、バカにした?」
口をムッとした、拗ねた表情。これもまたかわいい。
「いや、全然」
「前も言ったけど、私にはハイトの考えてることはぜぇ~んぶわかるんだからね!」
「本当にバカにはしてないよ。ただかわいいなって」
彼女には考えが全て見透かされているらしいので噓偽りなく思っていたことを伝える。
「えっ……ちょっと、急にズルいよ」
少しばかり妻の顔が赤くなった気がする。
「はぁ。ズルいのはどっちなんだか」
「へ? どういうこと??」
「べーつに。そろそろ次の魔物を探そっか。リーナの従魔を今日中に見つけるんだろ?」
「……そうだね。じゃあ、気を取り直して、私の相棒探しへ出発!」
おー!
あまり大きな声を出して周りにいるプレイヤーに見られるのも恥ずかしい。小声で気合を入れて、再び妻の従魔探しを再開するのだった。
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