第2話 いざ、ゲームの世界へ
「ここは……たしかPVで映っていた街か」
意識が覚醒すると俺はさっきまでいた真っ白な空間とは全く別の場所に立っていた。
レンガ造りの家や店が並んでいて、道行く人はゲームなどで良く見る町人っぽい地味な服装をしている。周囲を見回してみると、笑顔で会話する親子や井戸端会議をしているぽっちゃり体型のおば様たちの姿が目につく。
「すごいな」
ファンタジー世界なのに、なぜか現実感があってとても不思議な感覚だ。
あと不思議といえば、このアバターだ。違和感が全くない。試しに手を握ったり開いたりしてみるが、現実と同じような感覚で動かすことができる。それを売りにしているので違和感があっては大問題なわけだが、ここまで自然にアバターが動くと少し感動する。
「おい、兄ちゃん。あんた来訪者かい?」
突然、赤いバンダナを頭に巻いたNPCのおじさんから声をかけられた。普通のゲームではこちらからアクションを起こさない限り、声をかけられたりすることはほとんどないはずだ。
そういえば、この世界の住人や魔物は全て個別でAIを積んでいるんだったか。こうやってNPC側から話しかけられるという体験をすると、いかにそれがすごいことかがわかる。
「えぇ、そうですよ」
ちなみに来訪者というのはNPCたちがプレイヤーを表すときに使う言葉だ。一応、来訪者は別世界から紛れ込んでしまった存在という設定もあるらしいが、そんなに気にしなくて良いだろう。
「だったら、さっさと冒険者ギルドに行ってきな」
「お店とか見て回ってからじゃ、ダメなんですか?」
「別にそれでも構わないが、あそこでギルドカードを発行してもらえば身分証代わりに使えるからな。身分証なしだと街の出入りが面倒になるから、忘れないうちに冒険者ギルドへ行くことをお勧めするよ」
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます!」
「おう! このくらいどうってことないさ。俺はそろそろ仕事だからもういくぞ。じゃあな」
笑顔で手を振りながら、赤いバンダナを巻いたおじさんは去っていった。
「身分証なしだと出入りが面倒か……」
思いつくのは出入りするたびに書類を書かされたり、通行料金を取られるくらいか。ここがゲームの中だということを考えるとおそらく通行料金を取られる方だろうな。
所持金の少ない序盤に金を取られるのはつらい。良いことを教えてもらった。
しかし、妻とアバター作成後に落ち合う約束をしている以上ここから離れない方が良いだろう。
彼女がくるまでの間、ステータスでもチェックして時間を潰すとしよう。
「ステータスオープン」
ハイト・アイザック(ヒューム)
メイン:見習いテイマー Lv.1
サブ1:見習い錬金術師 Lv.1
サブ2:見習い戦士 Lv.1
HP:50/50 MP:50/50
力:12
耐:12(+3)
魔:12
速:12
運:12
スキル:―
称号:―
SP:10
<装備>
頭:なし
胴:来訪者の服
脚:来訪者のズボン
靴:来訪者の靴
装飾品:―
武器:―
さっきまで何もなかったはずの目の前にステータスが記載されたウィンドウが開かれた。
ヒュームの初期ステータスは事前情報通りバランス型だな。一切偏りがない。
各種ステータス、ほとんどが名前からどんなものかは想像できるな。()で記載されている数値は装備などで上昇する分ということだろう。
ん? SPってなんだ?
※ヘルプ※
SPとはスキルの新規取得およびステータスを上昇させる際に使用するポイントになります。
うわっ、なんか新しいウィンドウが開いた。疑問に思ったことは親切にヘルプを出して教えてくれるのか。
スキルの取得ができるなら早速してみたいが、ステータス上昇にもSPが使えるとなるとあまり無駄遣いできないな。必要そうなスキルだけ取ることにしよう。
俺がスキルを取ろうと考えていることに反応して、目の前にスキルリストウィンドウが開かれた。
え~と……なるほど。スキルによって取得に必要なSPが変わるのか。詳細を見てからどれを取るか決めたいんだけど……。
※ヘルプ※
スキルの詳細は取得後、明かされます。ステータスウィンドウを開き、スキルの欄を見つめると見ることができます。
なるほど。スキル名から予想して選ぶしかないか。
ぱっと見たところ剣術、槍術、斧術などの武器系初級スキルは一番安い2SPで取得できるようだ。とりあえず戦うために一つは取っておくべきか。サブ職に見習い戦士があるから扱えないということはないはずだ。
<SPを2消費して剣術(初級)を取得しました>
スキルを取得すると、アバター作成時の説明をしてくれた機械音でアナウンスが入った。分かりやすくていいな。
<剣術(初級)を取得したことで剣装備時の力が+5されます>
剣装備時のみだがSP5分、力が上昇したようだ。元の力が12の俺からするとありがたい。
<初めて武器系統のスキルを取得したことで初期装備武器を手に入れました。現在、武器を装備していないため自動的に装備されます>
「うおっ!?」
いきなり俺の背中に木製の剣が鞘に入った状態で装備された。急に大きな声を出したので周囲のNPCから不思議そうな目で見られる。
……恥ずかしい。
<SPを4消費してテイムを取得しました>
気を取り直して俺は再びスキルを取得する。
剣術(初級)と比べれば消費SPが多いが仕方ない。俺たちはこれのためにゲームを始めたのだから。
<SPを2消費して錬金術を取得しました>
これも必要経費だ。せっかく職業で選択したのに、必要なスキルを取っていないのは話にならないだろう。
残りのSPは何かあったときのために置いておこう。
スキルリストウィンドウを閉じた俺は、詳細確認のために再度ステータスウィンドウに目を移す。
ハイト・アイザック(ヒューム)
メイン:見習いテイマー Lv.1
サブ1:見習い錬金術師 Lv.1
サブ2:見習い戦士 Lv.1
HP:50/50 MP:50/50
力:12(+6)
耐:12(+3)
魔:12
速:12
運:12
スキル:テイム←new、錬金術←new、剣術(初級)←new
称号:―
SP:2
<装備>
頭:なし
胴:来訪者の服
脚:来訪者のズボン
靴:来訪者の靴
装飾品:―
武器:木の剣
ちゃんと変わってるな。
さて、スキルの詳細を確認させてもらいますか。
テイム……このスキルを所持していると魔物から信頼を得ることで仲間にできるようになる。熟練度が上がることでテイム可能数が増加する。テイマー限定スキル。
テイム可能数:2
錬金術……錬金の釜に素材を入れて発動することで新たなアイテムや装備を作成できる。なお、熟練度によって作成した物の品質や錬金術の成功確率も変動する。錬金術師限定スキル。
剣術(初級)……剣の扱いに補正。一定の熟練度になると剣装備時の力が上がる効果や武技を習得できる。
スキルには熟練度があるのか。単純に使いまくれば上がるのか、それともプレイヤー自身がしっかり学習して本当に上達しなければシステムとしての熟練度も上がらないのか。今のところどちらか分からないが気になるところだな。
「お~い。はやっじゃなかった。ハイト~!!」
聞き慣れた妻の声がした方へ振り返ると、いつもと全く違う姿の彼女がこちらへかけてきた。
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