夫婦で営むモンスターファーム~目指せ、まったりスローライフ~

三田白兎

第1話 アバター作成

「隼人~、例のアレが届いたよ!!」


 玄関で宅配を受け取った妻の嬉しそうな声が聞こえる。どうやら半年前から予約していたアレが届いたようだ。


 小走りでリビングへと戻ってきた彼女は一つの段ボール箱を抱えている。


「早速、開けるよね? ね!」


 早く遊びたいオーラ全開。


「もちろん!」


 俺が返事をするとほぼ同時に開封される段ボール箱。中には二つのヘルメットのようなものが入っていた。


 これは最近、テレビなどでも話題になっている<フリーフロンティアオンライン>というゲームをするための機械だ。このヘルメットを装着して起動させると、意識は現実からゲームの世界へ。そしてアバターを作成することになる。アバターは己の意思とリンクして動き、その操作感は現実の肉体とほとんど変わらないらしい。

 ライトノベルなどでよくあるVRMMOというものがついに現実となったということだ。 


「えっと……これを被ればいいんだっけ?」

「そうだよ。被るとすぐにゲームが始まるらしい。一応、寝た状態での使用が推奨されているらしいから寝室に行こうか」


 寝室へと移動した俺たちはそれぞれヘルメットを被った。


「それじゃあ、ゲームの中でね」


 そう口にした後、すぐに俺の意識は途絶えた。 



<ようこそ、フリーフロンティアオンラインへ>


 真っ白な空間に機械的な音声が響く。


<これからあなた方が降り立つのは剣と魔法と開拓のファンタジー世界。危険な魔物との闘争に明け暮れるもよし、まったりとしたスローライフを楽しむもよし、世界各地を転々として旅を楽しむもよしです。広大で自由なこの世界をお楽しみください>


<ただし、この世界の住民や魔物にはそれぞれの意思と思惑があるということだけはお忘れなきよう>


 ……最後の文言はなんか意味深な感じだな。たしか全ての住民や魔物には個別にAIが積まれているという話だから、そのことを指しているんだとは思うけど。


<これよりアバター作成へと移らせていただきます>


<最初にプレイヤーネームをお決めください>


「ハイト・アイザックで」


 プレイヤーネームはあらかじめ決めていた。さっき機械音声が説明したようにフリーフロンティアオンラインはファンタジーものらしいので、本名の逢沢隼人をそれっぽく弄った名前だ。妻も逢沢里奈という名前からリーナ・アイザックというプレイヤーネームにすると言っていた。


<ハイト・アイザック様ですね……承認いたしました>


<続いて、種族とメイン職業、サブ職業の選択をお願いいたします>


 目の前に二つのウィンドウが開かれた。それぞれ種族と職業の選択用に用意されたものらしい。

 これについても事前情報からどうビルドするかはある程度決めている。


 種族はヒューム、ドワーフ、獣人、エルフ、ダークエルフの中からヒュームを選択。

 ヒュームは全ての種族の中で最もバランスのとれた初期ステータスとなっている。なので最も扱いやすい種族だ。妻は性格からしてバランスなんて考えないで選びたいものを選びそうなので、際物ビルドになる予感がする。フォローしやすいように俺は安パイをとった。


 続いて職業の選択。最初にメイン職1つにサブ職2つを決めることができる。

 メイン職は見習いテイマー、一択。妻もきっとそうする。このテイマーという職業こそが俺たちがフリーフロンティアオンラインを買った最大の理由だからだ。うちは夫婦揃って動物が大好きなわけだが、家でペットを飼っていない。いや、正確には飼えない。妻の里奈が動物アレルギーだから。しかし、ゲームの中ならアレルギーなんて関係ない。可愛いモフモフ生物を好きなだけ愛でることができる。こんなまたとないチャンスを逃すわけにはいかない、ということで半年前から初回限定盤を予約していたわけだ。


 おっと、いつの間にか思考が別の方向へと逸れてしまった。俺はすぐに目の前のウィンドウに意識を戻す。


 残りのサブ職2つに関してはぶっちゃけ考えてきてないんだよな。まぁ、ひとつは無難に見習い戦士にしておくか。ファンタジーものはとりあえず戦士か魔法使いのどちらかを選んでおけば失敗しないみたいなところがあるし。もう一つは戦闘職じゃなくてもいいかもな。テイマーも魔物が主力とはいえ自分が全く戦えないというわけではないだろうし。

 ウィンドウをスクロールしながら生産職を流し見していると目についた職が一つ。

 ……見習い錬金術師か。おもしろそうだ。やっぱりゲームなんだし、現実ではできない体験がしてみたい。そうなると錬金術師という職業はとても魅力的だ。

 

<メイン職に見習いテイマー、サブ職に見習い戦士と見習い錬金術師が選択されました。以降、ランクアップや特殊イベント以外での職業の変更はできませんがよろしいですか?>


「うん、構わないよ」


<承知いたしました>


<次に外見の設定をお願いいたします。アバターの使用感の都合上、大きく体形を変更することは推奨しかねます。ご理解の上、慎重に設定してください>


 体形の変更はあまりしない方が良いのか。だったら、現実と同じでいいや。身長などは一切変更加えず、髪と瞳の色だけをいじる。

 瞳は黄金色。そして髪は水色でほどよくパーマをかけた感じに。

 せっかくだしアニメとかゲームのキャラっぽい外見にしてみた。


「よしっ、設定完了で」


<これにてアバターの作成を終了とさせていただきます>


<最後に時間感覚とプレイ時間の制限についてお話しさせていただきます。フリーフロンティアオンラインでは、現実の4倍速で時間が経過します。そのため現実では1時間しか経っていなかったとしても、こちらでは4時間が経過していることになります。そしてプレイヤーの健康に悪影響が及ばないように連続プレイ時間は現実で6時間までとされています。超過した場合、いかなる状況でも強制ログアウトさせていただきますのでご注意ください。そして一度ログアウトすると、直前にしていた連続ログイン時間と同じだけの時間が経過しなければ再度ログインすることはできないので、ログイン、ログアウトは計画的にお願いいたします>


<以上でチュートリアルを終了いたします。ハイト・アイザック様の人生に幸あれ。それではフリーフロンティアオンラインの世界を存分に堪能してください>


 機械音声が〆の言葉を終えると真っ白な空間に謎の青い光が発生。俺はその眩しさのあまり、強く目をつぶった。



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