落とし物達の願い

仲仁へび(旧:離久)

落とし物達の願い



 歩いている人のポケットからぽろり。


 何かがこぼれ落ちた。


 それは手編みの手袋。


 持ち主のお母さんが精一杯編んでくれたもの。





 向こうで行きかう人の一人。そのバッグからぽとり。


 それは傷んだキーホルダー。


 寿命を迎えてチェーンが壊れてしまったみたい。


 地面に落ちたキーホルダーは、人に踏まれないかハラハラしっぱなし。





 ちょっとよそ見をしているうちに。


 手の中に持っていたものがぽとっ。


 定期券ケースの中から定期券が飛び出した。


 それは何でもない道の上に静かに着地する。





 今日も、昨日も、明日も。


 世界のどこかで落し物は発生していく。


 落とされたものたちは、持ち主とわかれて心細い思いをしている。


 誰かによって交番に届けられるものもいれば、誰かによって安全なところに寄せられるものもいる。


 中には誰にも見つけてもらえないものもいる。


 でも、みんなに共通しているのは、ずっと落とし主を待っているということ。


 世界中の落し物たちは、みんな「はやくみつけて」と今日も願っている。


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落とし物達の願い 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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