第八話 イリスという女

 イリス。彼女がそう名乗りアラタへとお願いをしてきた。ギルドまでわざわざ連れて来ての頼みという事はクエスト絡みである可能性が高いだろう。アラタとしては勿論、OKの一言以外に返事はないのだが……


「イリスって、あのイリスさんですか!」


 言葉を出す前にリコは彼女の名前に反応した。


「えぇ……そうですけど……」


 食い気味のリコに少し引き気味になり、困り顔を浮かべる女。リコの言葉を聞いたアラタは「何かあるのか?」と問うていた。


「うん。彼女、伝説の冒険者って言われている人よ。確か、ランクは最高の十。世界でったったの二人しか持ってないゴールドカードの保持者だったはず」


(あれ? 確かあのクズがゴールドカード保持者は自分以外にいないって言ってたような……)


 あの時にニッチが口にしていた言葉を思い出して不思議に思う。しかし、あの男は想像以上にヘタレだったので、彼が嘘をついていたのだという結論に至る。もしくはゴールドというのも嘘かもしれない。


「で、協力してくれるの! してくれないの!」


 別の事に頭を使い、話を聞いていなかったアラタに圧がかけられる。さすがは伝説の冒険者と言われているだけあって、ちょっとだけビビってしまったが、元々了承する予定だったので首を縦に振っていく。


「ホント! ありがとう。じゃあ、早速クエスト受けてくるね」


 鼻歌を口ずさみながら嬉しそうにクエスト版まで歩いて行く。その後ろ姿があまりにも普通の女の子で、先程の圧が嘘のように感じられた。


 彼女が帰ってくるのを受付の前で待っていると、受付嬢のお姉さんに声をかけられる。


「よかったら彼女のデータでも見ます?」


「ありがとうございます。拝見させていただきます」


 いつでも自由に見れる冒険者情報の冊子を受付嬢から受け取って、中身を拝見していく。情報としては、出身、身体能力、これまでこなしてきたクエストなどが書かれていた。どれも凡人を超越するような内容で、彼女が伝説と呼ばれている所以がこの情報からでもわかった。その中でも気になった項目が……


「ほとんどのクエストをソロでこなしてるのか。その影響でついた異名が孤高の女戦士……」


 そんな彼女がパーティーを組む提案をしてきたという事は相当な理由があるのだろう。


 載ってはいないだろうが、その理由を冊子で探すために詳しい情報を見ていると、受注用の用紙を持ってきたイリスが戻って来たので、受付嬢に冊子を返した。


「これです。『パーピッグ討伐』。これを一緒に行ってほしいです。この子の真珠がどうしても欲しくて……」


「君なら苦戦しなさそうだけど……」


「討伐自体はそうですけど……真珠の入手方法がわからないんです。もう色々な手は尽くしたし……やってないのは協力して手に入れる方法だけなんです」


「なるほど。だから誰か探してたってわけね」


「そう! 君なら大丈夫かなーって思って」


 声から迷いはない。何を根拠に言っているのかはわからないが、初対面なのに相当アラタを信頼しているようだった。しかし、


「生憎ですけど、私達はこのクエスト受けられませんよ。だって、これ星五のクエストですよね?」


「そうだよ。何か問題でも?」


「大ありです! 私達まだランク一ですから」


「嘘だー、君はともかく、そっちの男の子はイリスと同格じゃん!」


 サラッとリコをディスっていく。彼女の言葉にリコは怒りが表に出そうになったが、アラタが宥めてなんとか事なきを得る。


「悪いけど、リコの言ってる事は本当だよ」


 口頭だけでは信用してもらえないと思い、ステータスカードを提示して彼女が言ってる事が嘘ではないと証明していく。それを見て、


「嘘!」


 と、驚きを見せた後、「イリスの『千里眼』がミスったのかなー」と呟いた。


「千里眼?」


「そう。イリスの魔法だよ。マナを感知して相手の居場所を察知する力なんだけど、それを応用して見た人物の潜在能力を見る事もできるんだ。見た感じかなり入り組んでいて可能性を感じたんだけどなー」


(多分それは俺が召喚された存在だからです!)


 とは口では言えず、苦笑いで対応しておく。


 せっかくの誘いで申し訳ないが、ルールで決められているので断っていく。


「じゃあ、昇格クエスト一緒にいきましょ! パーティーに入れてよ」


『へっ?』


 急な提案で二人は腑抜けた言葉出した。それに追い討ちをかけるように、「ダメなんですか?」と、上目遣いに見つめてくる。あまりの可愛らしさにアラタは男の本能をくすぐられ、リコは彼女の可愛さにノックアウトされて、イリスの要求を了承したのだった。

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