其ノ十三 祈り

 行灯あんどんの薄暗い灯りに、安子様の青白磁せいはくじ色の頬が映し出され、眠っていらっしゃるお体に被せられた布団は、ここのつきの腹部が大きく迫り出しておられました。


 このようなおいたわしい安子様のお姿をご覧になると、おりんさんはご自分が身重みおもでいらっしゃった時のことなども諸々もろもろ思い返し、どうかどうかご無事でと、居ても立っても居られないお気持ちで、魔除けのご利益りやくがあると言う麻疹絵ましんえと親子のすすきみみずくに、ただただ無心でお手を合わせて祈られました。


 その様子をご覧になった太郎君たろうぎみは、ご自分のせいでお母様に無理を掛けさせてしまったからと言う強い自責の念と、愛して止まないお母様、そしてそのお腹に宿っているご自分の妹か弟の御無事をその小さいりょうてのひらに託し、つむったまぶたきわから涙を滲ませながら、祈るより他有りませんでした。


 常磐井ときわい様も、おりんさんや太郎君たろうぎみと同じ気持ちで御座いましたが、ご自身は看病中間かんびょうちゅうげん(看護師)でいらっしゃいましたから努めて冷静に、脈をお測りになろうと、爪からも色の抜けたかぼそく青白い安子様の左手を取られました。


 その時に御座います。赤鬼あかおに先生が何か患者のご容体ようだいの変化にお気付きになり、こめかみをぴくりと動かされたので御座います。


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