其ノ二十一 女乗物

 安子様と常磐井ときわい様は、上様(PTA会長)の御一行が一通り過行くのを低頭したまま遠目に見送ると、今度は、上様のそれとは異なる優美さの女駕籠おんなかご(ポルシェ)が行列に続いてゆくのを目にされました。


 こちらは最上位の高級女官がお使いになる青漆塗あおうるしぬり天鵞絨びろうどが施された御駕籠おかごで、女乗物らしく蒔絵まきえで源氏物語の葵の巻を意匠にした優美な外観で有りながら、物見ものみの窓の青海波せいがいはすだれから柔らかな光が差し込み、乗り心地は如何ばかりかと羨まれる見事な御乗物に御座います。


大奥総取締おおおくそうとりしまり 鷹司信子たかつかさのぶこ様のおとおりい」


 先触さきぶれの声が響きますと、安子様は常磐井ときわい様にお尋ねになります。

「恐れながら、こちらの女駕籠おんなかごにお乗りの大奥総取締おおおくそうとりしまりとは、一体どの様なお方に御座いましょう?」


大奥総取締おおおくそうとりしまりと申しますのは」


 常磐井ときわい様がお答えしようとしたその時、御行列は山門をくぐり、安子様と常盤井ときわい様がかしこまっている参道を通り過ぎようとしておりました。お二人はますます頭を低く、お声を小さくしてお話を続けられました。

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