第13話 絶対正義の無い現実
放課後、美化部でまったりとしていると、何か胸騒ぎを感じる。不意に輝夜さんに話しかけると、輝夜さんが透けていきます。輝夜さんは急いで『シャドーカード』を取り出します。すると元の姿に戻ります。
「見られてしまいましたね。そう、私は既に死んでいます」
え?私は耳を疑います。しかし、輝夜さんが既に死んでいるとすると、感じた違和感に納得します。
「この『シャドーカード』の力でこの世に残る事ができています。そして、私は探しています『シャドーカード』で昔に死んだ妹の蘇生をする事です」
詳しく話を聞くと妹の蘇生の為に禁忌である神々の召喚を試した事により、輝夜さんは死んでしまい『シャドーカード』だけが残ったと。
生と死を司る神々の召喚は術者に死をもたらして『シャドーカード』の魔力でこの世に残れたらしいです。
私は動揺して白花を呼ぶか迷っていると『北斗』の会長の陣さんが入ってきます。
「俺は『シャドーカード』を手に入れて、輝夜に静かな眠りを与えたい」
「嫌です。妹の蘇生を実現するまでは永遠の眠りなどにはつきません」
この二人の感触は愛し合う者同士の会話です。そう、これが現実です。
『絶対正義』などで測れない複雑な現実を突きつけられました。
私は勇者気取りで輝夜さんを守っているつもりでした。でも、違う現実に私の『絶対正義』が揺るぎます。
「炎華さん、陣と決闘してどちらが正しいか決めましょう」
私は……。
「少し時間を下さい……」
逃げる様に自販機に向かいます。途中で白花の携帯に電話しますが出てくれません。『シャドーカード』を使っても輝夜さんの妹さんの蘇生などできるはずがありません。この世に彷徨う輝夜さんを永遠の眠りにつかせたい気持ちも分かります。私は愛すべき人の死を受け入れた陣さんと戦うのでしょうか?
美化部に戻ると明日の夕刻に決闘する事が決まっていました。私は動揺してどの道を通って帰ったのすら覚えていませんでした。白花を部屋に呼び会議を開くのでした。
夜遅くになったので、私は白花を隣の家まで送っていきます。軍師である、白花は輝夜さんには関わるなと言われました。白花もいずれこうなる事を感じていた様子です。
夜が明けて普通に登校して、放課後に図書室棟の隣で『剛力の剣』を召喚して剣術の稽古をおこないます。
「剣に迷いがあるな」
氷河さんと海戸さんが声をかけてきます。私は剣を降ろして二人と話を始めます。
「今となっては滑稽だが、俺は『シャドーカード』を手に入れて五芒星の一角になりたかっただけだ。炎華くん、君は何の為に戦う?」
海戸さんの問いに顔を下に向けて沈黙します。
「相変わらず、嫌味な奴だ。炎華を応援しに来たのであろう」
「そうだったな、ここは一つ部室で一休みしないか?」
「え、ぇ」
私達は誰もいない『北斗』の部室に入り皆で麦茶を飲みます。
「そうだ、ババ抜きをしないか?」
氷河さんが部室の中に置いてあるトランプを見つけて提案します。
「普通のルールではなく、最後にババが残った人が勝ちにしよう」
氷河さんはカードを分けながら言います。
「ババを『シャドーカード』に見立ててか……」
海戸さんの呟きに氷河さんが頷きます。そして、ババ抜きが始まると自然と心が落ち着きます。
「炎華くん、こんど召喚術を基礎から教えてくれないか?」
「海戸、告白とは大胆だな」
「ふ、何とでも言え」
「私も、父親に連絡を入れてみようかな」
「何だ、そのプライベーな発言は?」
「炎華に負けてからな……」
ババ抜きを進めながら会話が続くのであった。
「あ、ぁ……上がってしまった」
海戸さんのカードが無くなり、肩をガックリと落とします。そう、ババが最後まで残った人が勝ちです。
そして、私がババとクロバーの4を持っています。氷河さんのカードは一枚、大詰めです。私はババを右にするか、左にするか迷っています。
「このババ抜きには『絶対正義』は関係ない。それでも、純粋に『絶対正義』を求めるなら、炎華に勝利の女神が微笑むだろう」
と……言いながら氷河さんがカードを引くと上がってしまます。
「負けだ。たかがババ抜きだが勝利は君に微笑んだ。自信を持って
『絶対正義』を貫け」
「ありがとう、結果はどうであれ、私の『絶対正義』を貫くよ」
私は『北斗』の部室を出て拳を握り決闘に向かうのであった。
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