08-03 戦端を開いたのは
本題に入ろうとCMさんが話しをしようとした時、アノンさんが話し始めた。
「私は医師です。兵士ではありません」
武装していた女性から、自分は兵士ではないと言われ、私たちは驚いた。
そして、アノンさんの話しは続いた。
「専門は免疫学です。年齢は……まあ……未婚とだけお伝えします。あのような武装をしていましたので兵士と思われた事でしょう。しかし、私は戦闘訓練など受けていませんので、このような警戒は必要ありません」
……このような警戒とは、両手を後ろで縛った事だろう。
CMさんが言った。
「その事を、我々が信じる為の証明、出来ますか」
その時、詩織が割り込んだ。
「あ、それなら信じられると思います。アノンさんが仲間に撃たれた時、どう見ても戦闘訓練を受けてきた人が取るポジションではありませんでした」
みんなで顔を見合わせた。
同意のようだ。
「では」
私はそう言って、両腕の縛りをほどいた。
アノンさんが言った。
「あの状況で、私が生きているのは、どなたかが私を助けてくれたと理解しています。この場を借りて、深くお礼申し上げます」
そう言って、アノンさんは深く頭を下げた。
そして、CMさんから、本題の話しが始まった。
「まず、貴女にも現状を説明しておきます。ここは、核シェルターです。どうやら地上で、核が投下されたようです。我々は、何が起きているのか、まったく解っていません。そこで、まずは3つの質問を用意しました。
① ここへ襲撃したあなたがたの目的は何ですか。
② 外の世界では、何が起きているのですか。
③ 何故、核が投下されたのですか」
その質問に対して、アノンさんは答えた。
「最初の①『ここへ襲撃した目的』ですが、……ここでのコードネーム、A子さんを連れ去る為です」
A子(詩織)は、驚いたようすを見せた。
私は怒りを抑えて訊いた。
「A子を連れ去って、何をするつもりです」
「連れ去る目的は、A子さんから、電磁パルス砲の技術を手に入れる為です」
みんな、意味不明の表情を浮かべている。
なんという事だ、ここの皆にA子の正体がバレてしまう。
しかし、もう、それどころではないかもしれない。
アノンさんの話しは続いた。
「次に②『外で何が起きているのか』ですが、世界の中で、西側陣営と東側陣営は、核の抑止力によって軍事上のパワーバランスが保たれていました。それが、西側陣営の開発した電磁パルス砲によって、東側の持つ核が無力化され、世界のパワーバランスが崩れたのです」
……そう、私はその状況を恐れていた。
「西側は核武装したまま、東側に対して戦端を開きました」
「えっ!」
私は思わず声を上げてしまった。
「西側に対抗するには、東側も西側の核を無力化させなければなりません。そこで電磁パルス砲の技術を入手する為、A子(詩織)さんを連れ去る計画が実行されました」
「……」
「しかし東側にとって、時間の余裕はありませんでした。そこで、新たな兵器が使われました」
……新たな兵器?
「ウイルス弾頭ミサイルです」
私は思わず口を挟んだ。
「いや、生物兵器はジュネーブ条約で禁止されている!」
「最終戦争で、それが何かの役に立つとお思いですか」
「……最終戦争?」
「私は、危険なウイルスのワクチンを開発するグループの1人です。そして私たちは、そのワクチンの開発に成功しました。しかし、ワクチンの完成によって、この恐ろしいウイルスが兵器として使われる事になりました」
「……」
「このウイルスは、強力な毒素をもっています。このウイルスを搭載したミサイルを3発、西側陣営に発射します。相手はウイルスですので、電磁パルス砲で撃ち落とすことは出来ません」
……撃ち落とせば、ウイルスが空中で拡散してしまう。
「最後に③『何故、核が投下されたか』の件になりますが、ウイルスミサイルが地面に到達し、そこからウイルスが拡散していきます。1発のウイルスミサイルで約100万人が死亡するとの予測です」
……100万人?
アノンさんの話しは続いた。
「東側が投下したウイルスの拡散を防ぐ為、西側はウイルス投下地点に核を投下する事でウイルスを死滅させる」
……そのような目的で核が使われた。
「核爆発による死傷者は、規模からして約10万人と推定しています。どちらが少ない犠牲で済むかの判断となります。しかし、西側が西側に核を落とした。その事実は世論の反発を呼び、数年間は休戦状態となる事を見込んでいます」
私は、震えながら言った。
「このバカ騒ぎで何人死んだ」
そしてアノンを睨み付けて言った。
「何人殺したんだ!」
アノンも私を睨み付けて言った。
「戦端を開いたのは西側です!」
アノンの目から、大粒の涙がこぼれた。
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次回:(第8章 最終話)世界中から恨まれても
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