第2章

02-01 婚約者

 私と詩織は知ってしまった。

 それは、世界を揺るがすほどの力。


 この力、外に漏れてはいけない。

 2人だけの秘密にしなければならない。

 もう、2人は他人ではいられない。


 その事を理由に、私は詩織に求婚した。

 詩織は快く受け入れてくれた。


 私と詩織は、結婚する事にした。

 しかし、詩織は今年度、中学2年生になったばかり。

 年齢は、まだ14歳。


 婚姻届けを出せる18歳になるまでは、私のアパートへの通い妻。

 中学生の女子が、いそいそと私のアパートへ通い、甲斐甲斐しくも私の身の回りの世話をしてくれる。

 それを受け入れている私は、犯罪者と見なされるであろう。


 詩織は今まで、父の世話をしてきたようで、食事の支度など、手慣れたものである。

 私が最初、得意になって作ってあげたオムライスが恥しい。

 にも関わらず、とても美味しかったと喜んでくれた。

 誰かに食事を作ってもらう事など無かったのかもしれない。


 そして、詩織が行ってくれるのは、身の回りの世話だけではない。

 私の助手として、研究論文の手伝い。

 これは有り難い。

 私は、とてつもない力を、先生から授かった。


 しかし、私が詩織にしてあげられる事を探すと……情けない事に何もないではないか。

「詩織さん、私に何かして欲しい事ない?……私に望む事」

 詩織は、恥ずかしそうに言った。

「レイさんに、愛されたいです」

「……」


 私と詩織は婚約したのだが、私にとっては『愛の無い婚約』……と詩織は捉えているようだ。


 28歳の男性が、14歳の小娘を、本気で愛している訳がない。

 冷静な詩織なら、当然そのように思うだろう。

 しかし、詩織自身は私に対して本気のようだ。


 私は詩織に訊いた。

「詩織にしてみれば、私なんか『おじさん』でしょう」


 それに対して、詩織は下を向いて、恥ずかしそうに答えた。

「わたし、『おじさん』が好きみたいです」


 ……なんでだろう。

 現代の社会通念として、

 少女がおじさんを好きになるのは微笑ましいのに、おじさんが少女を好きになったら変態である。


 これは、差別だ!

 等と言っても始まらない。

 まあ、少女がおじさんに抱く『好き』とは、たいていの場合、『憧れ』であって、『愛』では無いからだろう。


 私が最初に詩織と会った時、詩織に対して特別な感情は無かった。

 しかしその後、私は詩織を大変気に入ってしまった。


 しかし、ここで注意しなければいけない。

 『私も詩織を愛している』等と言ったらどうなるか?

 私は年相応の女性に興味を持てず、少女に目を向けた変質者、ロリコン、特殊性癖者と認定されてしまう。


 これはまずい。

 ……私には見える。

 憧れの眼差しを向けていた詩織が、痛々しい眼差しに変わるのを……。

 間違いなく嫌われる。


 よって私は詩織に対して、興味無いよう、振る舞わなければいけない。

 詩織を、いやらしい目で見てはいけない。

 そのような目で見てしまう自分を隠さなければいけない。


 私は自分に言い聞かせた。

 私は、少女に……興味ない!


 私は、冷めた表情で詩織に言った。

「うん、まぁ……詩織も後4年もすれば、私好みの女性になるかもしれない」

「本当ですか?」

 ……詩織は、眩しい笑顔を見せる。


 私が今、詩織の想いに応えたら、詩織は私から離れていく。

 この先4年間、詩織の心を繋ぎ止めておかなければならない。

 なぜならば、私は詩織と結婚したいのだ! 〔← おーい〕


 その為には、詩織が尊敬する『おじさん』でなければならない。


 それからの私は、詩織が憧れる『おじさん』を演じる日常が始まったのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 も~……バカじゃん!


 次回:学校での詩織

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