第14話 なんか代理を頼まれたみたいなんです
「いやーだいぶ涼しくなりましたねー」
『そうだな』
「お客さんがまた遠のいてしまいました。短い天下でした」
『遠い目をしながら虚空を見つめるな。心配になるだろ。また作ればいいじゃねぇか』
「全く同じ素材を使い、姿形は同じものができたとして、その後が問題なんですよ。特定の宿主を必要としないのはあのケースが初だったんですよね〜」
「上! 上! 下! 下! 左! 右! 左! 右!」
『嬢ちゃんは朝から何のコマンドを入力してるんだよ……。ここん所ずっとやってんな』
「うんうん。気持ちは大変良くわかりますよ。新規だった頃はどんなゲームができるのかと、僕も大した目的もないのに鍛冶をやったもんです」
『思い出話に花咲かせてるところ悪いんだが、この店に近づく奴がいるぞ』
「お客さん!? 久々にきたー!」
姿勢を正し工房のドアを閉め、ドレスの埃を払った所でベルの小気味よい音と共にドアが開き、深緑のローブをきた女性が入店しました。
彼女は向かいで道具屋【ゴーシールシャの泉】を営んでいるリュムスさんと言い、僕を同志と呼び慕ってくれています。
三白眼の黒目がチャームポイントらしいです。
閑話休題。
「やぁ、同志ゲホゲホッ。ご機嫌麗しゅう」
「リュムスさん、おはようございます。今日は何用で?」
「いやー実は聡明な同志に頼みがあって、君は錬金術にも確か長けているよね?」
「えぇ、勿論。大体の事はできます」
「流石はゲホゲホッ……同志だ。あー喉が痛い。僕は副業で勇者養成学校の非常勤講師をやっているんだが、この通り酷い風邪を引いてしまってこのままでは授業をする事が困難なんだ。今回だけで良いから頼めないだろうか?」
「僕が勇者養成学校で教師を!? でも、教員免許なんて持っていません!」
「その事なら大丈夫だ。ゲホゲホッ! ここに来る前に校長宛に鳩を飛ばして確認をとったら、是非来てくれとラブコールを貰っておいた。あの人はチャランポランだが、あれでも元魔光派超巨大勢力マジック・オブ・ザ・ガーデンの頭だった人だ。あの学校で彼女に意見する人間は極少数だからね。それに君は美人だし、宣伝にもなるぞ! ゲホゲホ! あーともかく頼むよ。閑古鳥ボクっ娘同盟の同志じゃないか。どうせこの辺は客なんてめったに来ないし、非常勤講師だから束縛も薄いし、何より子供と触れ合うのもいい刺激になってくれるよ」
確かに一理ある。
もしかしたら、新しいレシピを思いつくきっかけになるやも。
「そうですね……、わかりました! その話お受けしましょう!」
「おぉ、流石我が同志! 君ならそう言ってくれると思っていた! ゲホゲホッ! とりあえず校長に面通ししてくれれば、彼女が教えてくれる筈だ。じゃ、私は戻るよ。あーもう無理。帰って咳止めのポーションがぶ飲みして寝るよ」
そう言い残し、彼女は店から出ていきました。
「あのニーニャさーんちょっといいですか!」
かなり大声をあげたつもりだが、反応がない。
工房のドアを開けると、ニーニャさんはトランスめいた曲にのせてナイフを振りかぶっていました。
「ニーニャさん。ちょっとよろしいですか?」
「え? アッーーー!?」
画面上に表示されたライブバーが一気になくなり、ゲームが強制終了してしまいました。
赤々と点滅するゲームオーバーの文字が表示され、宇宙を模した空間が消え去り、元の工房ヘ戻りました。
「あともうちょっとでフルコンボ達成できたのにーッ! 悔しいー!」
『惜しかったねー! ニーニャおねーちゃん!』
『残念無念……』
相当悔しかったのか、天を仰ぎ髪をかき乱す彼女を、阿吽のお二人が大鼓舞しています。
だいぶハマってくれたようだ。ウエブレの鍛冶は中毒性高いからなぁ。うーん、流石ウエブレ。しかしすごい悔しがってるな。ちょっと入りづらい。大丈夫かな?
「あの〜すいません。ニーニャさん大丈夫ですか?」
「あぁ……レイス。うん、何?」
うわ、すっごいテンション下がってる。
「あのー実は急用ができまして、お店の番をおまかせしたいのですが……」
「えっ? 今なんて?」
「急用ができまして――」
「その後!」
「――お店の番を頼みたい」
ニーニャさんがツカツカと歩きながら、僕の前に来ると両手を掴んだ。
「任せて! 死ぬほど頑張る!」
先程のグロッキーな彼女は何処へ。目からビームでも放つのではないかと言っても過言ではないレベルで、ニーニャさんの目は輝いているように見えます。
「そんな力入れなくても大丈夫ですよ?」
「何いってんのよ! 私に託してくれるんでしょ!? これが気合い入れなくてもどうすんのよ!」
「そ、そういうものでしょうか」
「そういうものよ! ところで急用って何?」
「はい、勇者養成学校で錬金術の授業をしてくれと頼まれました」
「は? レイスが? 勇者養成学校で錬金術? えっレイスって錬金術までできるの?」
「はい、できますね。あれ結構簡単なんですよ」
「えー見たいー! でも、お店の番したいー! あああああああ!!」
「ところでちょっと相談があるんですが、ちょっと良いですか? 実は今周りに転がっている武具を少し頂きたいんです」
「転がっているのは失敗作よ? それでも良いの?」
「ええ、勿論」
僕は無造作に散らばった武具数点を1か所に集め、人右手の差し指を立て空中で左に向かって手首をスナップさせる。空間に亀裂が走り赤い巾着袋が1つ落ちてきた。それを手で掴むとひとりでに紐が解かれ、集めた武具を飲み込みました。紐を縛り胸の谷間に挟んで準備は完了。
「便利ね〜。でも流石に慣れたわ。それって容量はあるの?」
「僕の空間拡張の容量ですか? そうですね〜、今現在は平たく言えば無限ってところでしょうか」
「ごめん、やっぱり無理。私程度が理解できる世界じゃなかった……」
「じゃあ、そろそろ行こうと思います!」
「私も行きたいけどお店は任せて! いってらっしゃい!」
僕は工房を後にし、店をニーニャさんに任せ、勇者養成学校へと向かって歩み出すのでした。
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