第5話 なんか新しい洞窟が出来たみたいなんです
僕は今、王都にある知り合いの宝石商の所に来ています。たまには外に出て歩かないと体に毒ですからね。
「ウブドさん、最近どうです? 何かいい鉱物ありました?」
深緑色のローブを着込み、でかい鼻を啜りながらニヤリと不敵な笑みを浮かべる人物、彼と僕が出会ったのは、僕がまだ冒険者だった頃、野党に襲われていた所を偶然助けたのが始まりで、以降仲良くさせてもらっています。
「流石、レイスの嬢ちゃんだ。情報掴むのが早いねぇ」
「うん? どういう事です?」
「またまた、とぼけちゃってぇ。これだよこれ」
ウブドさんが身を屈むと、茶色い箱を出してきた。
「これは?」
「しーっ! まだ誰にも見せた事ないんだ。嬢ちゃんには日頃世話になってるからな。特別だよ?」
茶色い箱の中には砂利がこれでもかという位、敷き詰められています。ウブドさんはその中に手を突っ込み、ゆっくり手を戻すと、白く輝く鉱石が手の中にありました。
「どうだい? 凄いだろ? 新種の鉱石だ! 多分まだ俺しか見つけた者はいない! 磨き上げて宝石にすればきっと高値で売れるに違いない!」
「新種の鉱石!? 何処でこれを!?」
「知りたいかい? さっきも言ったが、あんたには世話になってるからね。耳を貸しな」
僕は髪をかき上げ、露出した耳をウブドさんに近づける。
「うひょー! たまんねぇ!」
「え? 何がです?」
「い、いや、何でも。ゴニョゴニョ」
「なるほど、なるほど。 王都を西門から出てそのまま西に進み、大森林に入ってすぐの所に出来た洞窟ですね! わかりました! ありがとうございます! それでは!」
僕はウブドさんの宝石店を後しようとドアに手を掛ける。
「嬢ちゃん! まだ話が終わってないって! あそこには新種のモンスターが――」
「大丈夫大丈夫! 何が来ようが僕に抜かりはありません!」
「まぁ、嬢ちゃんなら問題ないか。綺麗なうなじも至近距離で見れたし、情報くらい安いもんよ」
「何か言いました?」
「頑張ってな嬢ちゃん! 応援してるぜ」
「ありがとうございます!」
僕はドアを開き、早歩きで町中を歩き自分の店を目指す。
店は町通りの少ない外れに位置している為、少し歩く必要がある。
色々な店が連なる商合区を抜け、住民達が暮らしている住宅区に差し掛かる、2区ほど前の裏路地にある木造2階建ての店舗、それが僕の店レイスの武具工房だ。鍵で店のドアのロックを解除し中へと入っていく。
カウンター裏にあるピッケルを手に取り、親指と人差し指をくっつけ、親指と人差し指をくっつけ、横に広げる様に離すと四角い透明なボックスが幾つも出てくる。
僕はその中から1つのボックスをタップすると、中からバックパッカーが背負う様な大きめのリュックサックが出現した。リュックに備え付けられた穴にピッケルを引っ掛ける。
「よぅし! 準備! 行きますよ! アーカードさん! ほら、いつまでも寝てないで!」
『何言ってんだよ姉御。まだ真っ昼間じゃないかぁ。あと10時間寝かせて……』
ピッケルの横にはタキシードを着込み、黒髪紅眼で肌が病的な白さのイケメンが立っています。彼はこのピッケルに宿っている真祖のドラキュラ、アーカードさんです。起きるのが滅法苦手のお寝坊さんという特徴があり、今にも死にそうな顔をしながら目を擦っています。
「素材採取には貴方が適任なんです! さぁ行きますよ! そんな死にそうな顔したって駄目です!」
『僕はぁ元々こういう顔色なんだってばぁ。昼とかやめて夜にしようよぉ』
「素材取られちゃうかも知れないじゃないですか! 未知の素材と言うことは未知の武器が作れるかも知れないと言う事! レッツゴー!」
僕は店を出ると鍵を掛け、そのまま西門へ歩いて向かう。西門には2人の甲冑を着込んだ門番さんが立っています。
「こんにちは~」
「レイス女史! 本日はお日柄も良く! 如何お過ごしで!」
「ぼちぼちといった所ですかねー」
「大きなリュックを背負って何処かにお出かけですか?」
「ええ、ちょっとした野暮用です。では、行ってきます。お仕事ご苦労様です」
「「お気をつけて!」」
門番さんの激励を背中で受けながら門を抜け、ダート道を道なりに進み、暫くすると雑木林が見えてきました。
大森林は文字通りかなり大きな森であり、たまに遭難者が発生する事で有名だったりします。
大森林に入った僕は注意深く周りを見渡すと、人1人がやっと入れそうな
ダンジョン内は一切の暗闇が支配しています。
「ライトボール!」
僕が叫ぶと、何もない所から丸い光の玉が現れ、周りを照らしてくれました。
ライトボールの光が反射し、周りには色とりどりの鉱石があるのがわかりました!
「ホワアアア! 見たことない鉱石がこんなに! まさにユートピア!」
リュックサックに付いているピッケルを外し、キラキラと輝きながら存在感を主張している鉱石に向って思いっきりピッケルを振り、火花を散らすと鉱石は砕け散りました。
砕けた鉱石をリュックに詰め、他の獲物にターゲットを変えてはただひたすらピッケルを振り下ろし、暗い洞窟内を進んで行きます。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「クッソ! このぉ! 何だこの野ねずみ共は!? 何処から湧いて出てきたんだよこいつ等! 俺の剣が通らねぇ!?」
「ちょっとムルウス!? どうなってんのよ!? あんたのせいよ! 何とかしなさいよ!」
「アルリンんな事言われったってなぁ!? 俺だって必死なんだよぉ!」
身の丈1メートルはあろうかという巨大なねずみの大群に、パーティ【闘いの狼煙】のメンバーである、俺とアルリンは襲われていた。
硬質化された毛と皮膚が剣による裂傷を防ぎ、魔法による属性攻撃にも耐えたのだ。抵抗手段を失った俺達の命はもはや風前の灯火だった。
「こんな事ならリーダーの言う通り、王都で大人しくしとけば良かったー!」
「ねずみの餌になるなんて最悪ー! ムルウスと2人っきりで死ぬなんてもっと最悪ー!」
「もう駄目だー!」
「嫌ー!」
俺が諦めたその時、突如背の壁が大きな音を立てて崩れると、ピッケルを持った水色のドレスを着た女性が現れた。眩い光が洞窟内を照らし出されると、ねずみ達が叫び声を上げながら俺達から離れていく。
「ちょっと調子に乗って掘りすぎましたかね? 壁貫いちゃいました。ナハハハ。おや? あなた方も採取ですか?」
「た、助がっだ~。へ~ん!!」
いつもは気丈なアルリンが泣きべそをかきながら女性に抱きつく様を呆然と見守る。
「何があったのか知りませんが、助かって良かったですね。一体、どうしたんです?」
「あっ、ねずみのモンスターに襲われて、危うく死ぬところだったんだ」
「なるほど。どうやら光に弱いみたいですね。今もそこら中にいるみたいです」
「わ、わがるんでずが~? ぐずッ」
「ええ、くっきり見る事ができますので。小さな穴がそこかしこにありますね。恐らく巣穴でしょう」
女性はピッケルをクルクル回しながら、俺達の前へ躍り出た。
「待ってくれ! あいつらはめちゃくちゃ硬い毛と皮膚で覆われててとてもじゃないけどピッケルなんかじゃ歯が立たないぞ!」
「へぇ~、そうなんですか! そりゃあ凄い! じゃ、この洞窟にいる新種モンスターってねずみの事なんですね!」
「なんで喜んでるんだよ! 死ぬかも知れないんだぞ!!」
「大丈夫です。何とかなりますよ。それ!」
そう言うと女性はピッケルをねずみ達の中心に放り投げた。
「何やってるんだ! ピッケルをねずみの集まってる方にぶん投げてどうするんだよ!」
「良いから良いから。さぁ、そろそろ起きてください! アーカードさん、仕事の時間ですよ!」
彼女がそう言うと、ピッケルが宙に浮かび、黒い瘴気の様なものが辺りに発生したかと思うと、その瘴気がピッケルにどんどん集まっていき、巨大なコウモリが顕現した。血のように紅く光る4つの目がギョロギョロと動いている。
「耳を塞いでください」
「え?」
「鼓膜破けちゃいますよ?」
『キシャアアアアアアアアア!!』
俺とアルリンが大急ぎで耳を塞いだ瞬間、躰に振動の様なものを感じたかと思うと、一斉にねずみ共が木っ端微塵に砕け散った。
「アーカードさんご苦労様でした。よーし! 採取採取!」
コウモリが女性の元へ降り立つと巨大コウモリから瘴気が抜けていき、代わりとばかりにピッケルが地面に突き刺さっていた。
女性はピッケルを地面から引き抜くと、粉々になったねずみの欠片をせっせとリュックに詰めていく。
暫くしてリュックをパンパンにした女性が俺達の前で立ち止まる。
「ふぅ~、大漁大漁! さてと、私は帰りますね! じゃ!」
「待ってくれ! いや、待ってください!」
「何でしょう? あ、すいません。これはうっかり」
女性はリュックを下ろし、白く輝く鉱石を俺に手渡してきた。
「どうぞ! お近づきの印に1つ差し上げます! いっぱいありますからご遠慮なく!」
「はぁ、これはどうも……。そうじゃなくて! 何故いきなりねずみが一斉に砕けたんだ!?」
「助けて貰ったのに何て横暴なの!? これだから剣士って奴は! 助けて頂きありがとうございました! 是非、お名前を! それと握手して下さい!」
「あぁ、何故砕けたか、ですか? それはですね! どうやらここの鉱石を摂取した事で、あのねずみのモンスターは突然変異を起こしたんじゃないかなと!」
アルリンが猛烈なスピードで女性の手を取り、上下に揺らしている。
「僕の名前はレイスって言います。王都ので武具店をやっておりますので、何か欲しいものができたらお譲りしますよ! では!」
金の長い髪を靡かせながら、レイスと名乗る女性は去っていった。
「武器屋さんだって? あれが? 冗談だろ……。うちのリーダーより強いんじゃ……」
「レイスお姉様……! 素敵……」
「アルリンとりあえず帰ろうぜ」
「ムルウスこれ……見て!」
レイスと名乗った女性が突き破ったという壁の厚みは尋常ではなく、ピッケル1つで到底開けれるレベルではなかった。それこそ、魔道士30人集めて水魔法で延々と削らなければいけない程の厚みがあったのだ。
「へ、へへへ……。これをピッケル1つでくり抜いたっての? あの人が?」
「あぁ、凄い、凄すぎるわ! レイスお姉様~!」
「お、おい待てよアルリン! どうすんだよ!」
「勧誘するに決まってるじゃない! レイスお姉様ー!」
アルリンを追って俺は駆け出しのだった。
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