第三十九話 村を見回り、一仕事 二 木を切りに行こう

 各家を周った後、オレは作る物と材料を確認。


「壊れたものも多いが、盗まれたままでどこに行ったかわからないものもあるな」

「倒した賊から回収したものも多いはずなのですが」

「案外これを機に新しいものに変えようと考えている人もいるかもな」

「ゼクトさんにばっかり負担が行って、少し不快です」

「ま、それだけ頼りにされているというわけだ。前向きに行こう」


 材料の中には山で採らないといけない木材も多かった。

 だから山で木を切る許可を取りに村長宅へとオレ達は足を進めている。


 冒険者ギルドの仕事以外に修復に家具作成……。

 ダリアの言う通り今回オレの負担は大きい。

 だが家具を作れる人間は少ないのも事実で、訪問した家の中にはすでに他の人に頼んでいる人もいた。

 村の家具屋は今フル稼働かどうだろう。

 よって文句もんくを言っても始まらない。

 オレだけが忙しいわけでもないのだから。


「そう言えばホムラは大丈夫だろうか? 」

「心配し過ぎですよ」


 クスクスと笑いながらオレの方を見上げるダリア。

 ホムラ自身の申し出もあって、彼女は今一人で力仕事をしている。

 男も吃驚びっくりするような腕力を誇る彼女だが常識にうとい部分が傷である。

 力仕事という面では確かに適任てきにんなのだが、何かやらかさないか不安がぬぐえない。


「さ、着きました」


 ダリアの言葉にオレは足を止めた。

 大きな建物を見上げて、扉を叩いた。


 ★


「ほほぅ、木をな、と」

「ええ」


 応接室でオレとダリアは村長と面会していた。

 応接室と言っても単なる村の村長宅。

 少し広く、まれに来る貴人きじんをもてなすくらいの部屋だ。

 貴族部屋のように豪華ではない。


「それは構わぬが、今人手ひとではおらんぞ? 」

「ええ。それは十分にわかっています。なのでオレが木を切り、ホムラに運ばせます」

「ホムラさんは見かけによらず力持ちなのです」


 オレの言葉にダリアが付け加えた。

 村長はそれに「信じがたい」といった表情をし、軽く瞳を閉じた。

 そして結論が出たのか瞳を開けて、オレ達の方を向く。


「あいわかった。構わぬよ」

「ありがとうございます」


 オレがそう言うと村長が席を立つ。

 一旦部屋から出て戻ってきた時には手に紙を持っていた。


「一応、許可書じゃ」


 そう言いながらオレ達の方へ紙を差し出す。

 それを受け取り、軽く見る。

 目を通し終わるとふところ仕舞しまって村長に礼を言う。


おのはもっとるかの? 」


 そう言われ、思い返す。


「……無かったですね」

「ほほ、そんなところじゃと思ったわい。備品びひんとしてし出そう」


 お礼を言うと、ほほっと笑いながら斧がある倉庫へ連れて行ってくれた。

 戦斧せんぷとは違う、木こり用の斧を借り受けオレ達は村長たくを後にした。


 ★


 翌日。

 オレは大きな荷台にだいを引いて、ホムラは斧を持って山へ向かっていた。

 今日、ダリアは仕事だ。

 昨日彼女は来れない事を激しくやんでいたが、仕事じゃしかたない。


「今日はいつもと違う道だな」

「ああ。薬草を採る場所とはまた違うからな」


 歩きながら山を見上げる。

 基本的にこの山の木の種類は少ない。

 山の向こう側に行き山脈に出ればまた違うのかもしれないが、行ったことがないので分からない。


「そう言えばこの村の木材は山から採っているのか? 」


 横からホムラが聞いて来た。

 ホムラの方を向かずに荷台を引きながら答える。


「いや他の町とか村から買っている」

「これだけ木にめぐまれているのにか? 」

「リリの村には木こりがすくない。昔から農業で成り立っている村だから一から木こりを育てるほうが大変なんだろう」

「そんなものか」

「そんなもんだ」


 そう言いながらオレはカラカラカラと荷台を引く音を鳴らす。

 少し止まり、軽く休憩を入れながら、先に進む。

 木を伐採ばっさいするための山道さんどうを見つけ、強化魔法をかけて、山を登る。


「ここら辺は木が低いな」

「大分前だが、切ったらしいからな」

「らしい? 」

「オレじゃないからわからない」


 なるほど、と高い声が聞こえ、そして目的地に着いた。


「ここの木か」


 ホムラがオレよりも前に出てぽつりとつぶやいた。

 彼女の周りには伐採ばっさいされていない木が並んでいる。


「若すぎず、ってところだ」


 荷台から離れてそう言った。

 ホムラから斧を受け取り、自身に筋力増強パワー・ライズを掛ける。


「オレが切っていくから倒れたのを運んでくれ」

「了解だ」

「……くれぐれも倒れる方向に出るなよ? 」

「わ、分かっている」


 本当にわかっているのだろうか、と怪しげに思いながらも当たりをつけた。

 ホムラが離れていることを確認し木に手をやる。


「まずは、これだな」


 ぽつりと呟き、斧を構える。

 軽く踏ん張り「ガン! 」と横振りで一撃。


「? そのまま一撃で切り落とさないのか? 」

ねんには念を、だ」


 入った傷を確認しながら再度一撃与える。

 深く入った傷を見つつ、倒れそうな方向を確認した。

 大丈夫そうだ。

 確認後、あと何回も少しずつけずると「メキメキメキ」という音を立てながら木が倒れた。

 倒れた木を見てそばる。

 えだを切り落として完成だ。


「ホムラ。これを任せた」


 そう言うと彼女は快諾かいだくし、枝と一緒に木を運んでいる。

 相変わらずすごい力だ。

 ホムラが作業を終えるまで腰を休め、その様子を見、何本もの木を切り落としてオレ達は山をくだった。


 ★


「……転ばなくてよかった」


 オレの家の訓練場。そこには今日切った木を置いてある。

 それを間近で見るホムラを見つつ、訓練場に腰を下ろした。


「毎回だが下りざかは危ないな。何か対策を考えないと」


 ぽつりと言うとホムラがオレの方を向く。


「慎重に降りていたのにな」

「本当だ。転げるかのように急に加速するとは……。いや予想していなかったわけではないんだが」

「途中で摩擦力上昇フリクション・ゲインを使ったのが正解だったな」

「おかげで今日は魔法が使えないがな」


 息を吐き空をあおぐ。

 一気に多くの木を持ち運んだせいか、異常なまでの加速を見せた荷台。

 今日行った木の採取地点はそこまで勾配がきついわけではないが、多すぎたようだ。

 あの加速はわりと本気で死ぬかと思った。


 だがしかし、今回の一回で全ての家具を作れるだけの量を確保できたわけではない。

 だから今度からは少し量を減らそう。


「一先ず切り分けるか」


 そう言い、オレは立ち上がる。

 ホムラがいる場所まで行き、木を運んでもらうように指示を出し、そして家具を作るために木を切り分けた。

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