第二十八話 おっさん、隣村に行く 二 ミスラ村

「久しぶり、という程でもないか」


 一日歩き、隣村にオレはついた。

 軽く周りを見渡しながら歩き、目的の場所へと向かう。


 ミスラ村。

 ここはオレ達が住むリリの村よりも活気かっきにあふれている。

 しかしそれも仕方ない。

 なにせリリの村よりも王都に近いのだから。


 ここを経由けいゆし町を行けば、すぐに王都に辿たどり着く。

 故にリリの村方面だけでなく様々な村の中継ちゅうけい地点だったりもする。

 リリの村よりも多様な種族が行きかうこの村なのだが、今日はどこか暗い雰囲気な気がする。


 そう考えている間に目的の場所——市場に着いた。

 色々と品物をした後に肉屋へ向かう。


「今日は。リリの村の冒険者ギルドのゼクトです」


 肉屋の中へ入り、そう言うと奥の方から「へい」と答える声がしてきた。

 少しすると人族の男性が前掛まえかけで手をきながらやってきた。


「おう。ゼクト。ありがとさんよ」

「いえいえ、これも仕事ですから」

「いや。このタイミングはありがてぇ」

「何かあったのですか? 」


 そう言うと少し困った顔をしてこちらを見る店主。

 少し考える風な表情をするとすぐにそのいかつい顔をこちらに寄せてきた。


「お前さん噂聞いてないのか? 」

「噂、ですか? 」


 そう聞き返すと軽く首を縦に振る店主。


「何でも賊が各村を襲っているらしいんだ」

「賊?! 」

「ちょ、声がでけぇ」

「すいません」


 ペコリと謝罪し続きを頼む。


「どうも国から口止めが入ってるらしいんだが、そんな話が出回っているってことだ。この村の様子を見たか? 」

「ええ」

「知らねぇ奴がいなかったか? 」


 そう言えばいたな。

 ミスラ村は自分が住む村とは違うが交流のある村だ。

 それなりに顔は覚えている。

 だが、言われてみれば確かに知らない人がいたな。

 頷き返すと「だろ? 」と言う店主。


「あいつらはその襲われた村から逃げてこれた奴ららしい」

「でもなんで口止めなんて」

「どうも襲っているのが騎士らしいんだ、これが」

「!!! 」


 それを聞き、心底驚くオレ。

 騎士と言えば、この国ではエリート職で貴族に仕える名誉めいよな職でもあったりする。

 そんな人らが何故……。


「なにやら政争せいそうで負けた貴族様の騎士が暴れまわっているらしい」


 それを聞いてある意味納得した。

 貴族はプライドをおもんじる。

 恐らくは貴族、そして王家のイメージをそこねたくないのだろう。


「国は動いているのか? 」

「流石にそこまでは分からねぇよ。だが国も貴族も平民を馬鹿にし過ぎだ。これだけ村が被害にあってるんだ。噂が出ないはずがねぇ」

「そりゃそうだ」

「このミスラ村は運がいいのか悪いのか王都に近い。だからここに来た連中は襲われないとふんだんだろうよ。オレ達からすれば良い迷惑だがな」

「それで……」

「あぁ……。食料だ。奴らを無碍むげには出来ねぇし、かといってこの村の備蓄びちく無尽蔵むじんぞうじゃねぇ。さてはてどうしたものやら」


 肩をすぼめながらそう言う店主。

 同時にひどい危機感に襲われた。


 リリの村は大丈夫だろうか。


 あそこには一騎当千いっきとうせんのホムラにギルムさんもいる。

 大丈夫だとは思うが。


「その盗賊騎士とやらはどのくらいの数なんだ? 」

「流れてきたやつらの話によるとかなり多いらしい」

「だが一つの家に所属している騎士の数なんて知れてるぞ? 」

「それを俺に言われてもわからねぇよ。だが途中で他の賊を引き込んだりしたんじゃねぇか? 後は、実は潰れた貴族様の家が一つじゃなく、かなりの数が倒れたとか」


 出ている肉を奥に仕舞いながらそう言う店主。


 有り得る話である。

 しかし、人数が多いとなるとこれはまずい。

 早く帰らないと。


「店主。悪いがオレはすぐに帰る」

「おう。また発注するぜ」

「お手をやわらかに」


 そう言いオレはミスラ村を出た。


 ★


 走る。


 年甲斐としがいもなく走る。

 だが魔法は使わない。

 ここで魔力を使ってしまうと、もし戦闘があったら逆に負けてしまうかもしれないからだ。

 まだ襲われるという確証はない。

 しかし王都とのギリギリの距離、というのを考えるとリリの村は最適さいてきだ。


 嫌な予感がする。


 没落ぼつらくさせられた腹いせに敵対派閥の領地を荒らす。

 貴族なら十分にあり得る話だ。


 反吐へどが出るな。


 息が切れてくる。

 くそっ! こんな時に。


 少しペースを落として道脇みちわきに避け、腰を落とす。

 アイテムバックを開いて水筒すいとうを出しのどをうるおす。


「外れて欲しいかんだが……」


 もしかしたらオレがいなくてもどうにかなるかもしれない。

 だが数で押されたら流石のギルムさんやホムラでも厳しいかもしれない。

 考えすぎであってくれれば嬉しいのだが。


 そいう思いつつも装備を確認。

 今あるのは短剣ダガーのみだ。

 このまま戦闘は流石に厳しい。

 一旦家に戻って武器を取りに行かないと戦えないな。


 前の道を見る。

 しかしそこには誰も通っていない。

 逆にそれが不安をき立てる。

 いつもと同じくらいに人がいないだけなのに、どうしてこういう時気になるんだ。


 はぁ、と息を吐き息が整っていることを確認し、再度走った。

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