アラフォー冒険者の田舎暮らし~元魔剣使いのセカンドライフ! ~

蒼田

第一章 おっさんと精霊人形

第一話 おっさん、依頼を受ける

「私と——結婚してください」


 顔を赤らめつつ、金色の瞳がオレをく。

 その言葉に少し動揺しながらも平常心を出来るだけたもつ。


 短く少し輝く緑の髪に白い顔。そして長い耳。

 少しおさなげな顔は保護欲をそそり誘惑する。しかしおさなげではあるが顔全体は美麗びれいそのものである。


 そんな『美』を体現たいげんした女性からの告白。

 オレは軽くにこりと笑うと相手の緊張が少しほぐれ、ほほゆるませる。

 もちろんオレの答えは——


「お断りします」


 圧倒的拒否だった。


「なんでよぉぉぉぉぉ!!! 」


 ここはリリの村の冒険者ギルド。人数のわりに広いこの木製の建物にエルフ族の女性の叫び声がとどろく。

 朝一の冒険者ギルド、突発的に起こるエルフ族の彼女——ダリアから行われる告白会からオレの今日一日が始まるのであった。


 ★


「……一世一代の告白だったのに」

「一世一代という割には数十回聞いている気がするが? 」

「何で私はダメなんですか?! 」


 木製の受付台からガバっと顔をあげて金色の瞳をこちらに向ける。

 そう言われるとキツイな。

 少し頭をき目をらす。


 ダメというわけではないんだ。

 オレも歳だ。身を固めないといけない。

 オレは人族のおっさんで彼女はエルフ族の美女。オレと彼女の年齢は近いがこの種族差、つまるところ寿命差は絶対で、彼女はエルフ族の中ではかなり若い部類に入る。

 このまま結婚して彼女を悲しませることは必須ひっす

 よって更に先の事を考え少し引いてしまうのは確かで。


「……どうせ「ダリアのために身を引こう」とか考えてるんじゃないですか? 」

「ぐっ! 確かにそうだが……。何故わかる? 」

「長い付き合いですし、それに顔に出過ぎです。私でなくてもわかるでしょう」

「……そうか」


 と、言いつつこちらに手を伸ばそうとしたダリアをすり抜けて依頼ボードへ。

 換気かんきしているせいか外から少し青臭いにおいがする。

 リリの村はムギを作る村だ。その臭いだろう。


 依頼ボードへ行くとそこには大量の依頼が張ってある。

 それを見て軽くげんなりする。


 明らかに人員不足なんだよなぁ。


 依頼の数に対して冒険者が少ない。

 普通ならばこういう所に冒険者は集まるのだがこの村はそうではない。

 何故かというと村に——若者が集まるような——変化がなく、そして依頼一件一件の単価が安いからだ。

 これは適正てきせい単価よりも安いのではなく単価の安い——つまり危険性の低い依頼しかないということ。

 冒険者にとって旨味うまみが少ない村ともいえる。


 まぁそれだけ平穏へいおんなのはいいのだが冒険者ギルドが閑散かんさんとしているのはどこか寂しい。

 物思ものおもいにふけりながらも一つの依頼を見つけて手に取る。


「スタミナ草の採取、か」


 Fランクの依頼だ。これが数十件も張ってある。

 いっぺんに受けるか?

 スタミナ草は山ならばどこにでもある薬草だ。

 近くの山で採れるし、あそこなら危険性はほとんどないだろう。

 山脈の向こうまで行くとわからないが、そこまで行ってとるほどのものでもない。


 よし。受けよう。

 そう意気込み数十件の依頼を「ピリピリ」っと軽く音を立てながらひっぺがす。

 茶色いそれを手に取り受付へ。


「じゃ、これを」

「かしこまりました」


 ダリアとは違う受付嬢が依頼を手に取り手慣れた様子で処理をする。

 そんな中軽く聞いてみた。


「……ダリアはまたお説教か? 」

「いつもの事ですが朝から騒いだので」

「少し心苦しいな」

「ならば結婚してあげたらいいじゃないですか。お似合いだと思いますよ」

「そうはいかんだろ。ダリアにはまだ先があるしな」

「それを本人の前で言わないでくださいね。本気で怒りそうなので」

「わきまえている。むしろわきまえてないから……まぁここまで引っ張ってしまった感じはあるのだが」

「ふふ。では終わりました。受付は完了です。行ってらっしゃいませ。Dランク冒険者『ゼクト』さん」


 軽くお辞儀をする受付嬢に手を振り反転して冒険者ギルドを出た。


 ★


 冒険者ギルドを出て山へ向かおうと思ったが一旦足を止めた。


「……一応入念にゅうねんに準備をしていくか」


 軽く呟き足を自分の家に向ける。

 まぁ家も山の方角だし行く方向は同じなのだが。


 途中知り合いに挨拶をしつつ家に着く。


 普通の家だ。他の村人と何ら変わらない普通の木造住宅じゅうたく一階建て。

 特徴があるとすれば冒険者ギルドからかなり距離があることだろうか。

 どちらかというと山に近いほどに。

 これには一応理由があってあまり大勢でいる所が得意ではないということと、安かったからだ。

 その安直あんちょくな考えに軽く自嘲じちょうしながら家の隣にある倉庫へ足を向ける。


 朝日が昇っているが中は暗い。

 魔力を使うわけにはいかないので扉近くにある石をはめこみ中に光を入れながら、光球ライトの魔法を使わずに窓の方へ。


 すると一気に光が差し込み倉庫を照らす。


「お、あった」


 軽く目を細めながら倉庫のはしに置いてある小さなかまを見つけて、手に取る。

 それを昔買った小さなアイテムバックの中に入れて準備を。


「……量が量だからな」


 一気に受けたことを少し後悔。

 しかしよくもまぁあれだけの依頼を出したものだと少し思う。

 中には隣村のものもあった。


 隣村には冒険者ギルドがない。それに山がなくスタミナ草が採れない珍しい場所でもある。よって向こうの依頼もこっちに流れてくるのだが、それでなくても少ない人手ひとで。心の中で「自分で採りに来い」と思いつつも冒険者なので口をつむぐ。

 良い依頼を出してきてくれた時に困るし、何よりも村と村の関係を悪くするのはよろしくない。


 ギルドの事を更に言うならば隣村の人材、というよりも冒険者候補はほとんど王都へ行ってしまう。

 隣村を過ぎると——それなりに距離はあるが——王都。

 王都へ人材が行き、若い人がこっちに来ないわけで。

 なら何故隣村に無くてこの村に冒険者ギルドがあるのかというと隣村よりもモンスター出現数が高いのと規模の問題だった。

 隣村はリリの村よりもかなり小規模。気付いたら過ぎ去るレベルで。

 よって山、ひいてはその向こうにある山脈を見据みすえてここに冒険者ギルドを設置しているらしい。


「はぁ」

 

 軽く溜息ためいきを吐き、目をらして網籠あみかごを探す。

 すると大きな網籠あみかごが目に映る。その隣には小さな——自分で作った網籠あみかごがいくつかあった。

 大きい方を背負い不足分がないかアイテムバックを確認。


 いつもはそのまま依頼を受けに行くのだが今日は採取用のかまを持っていなかった。

 オレが持っているアイテムバックは小さい。

 アイテムバック自体高価だから持っているだけでもうらやましがられるのだが中に必要なものがなければ無いことと同義どうぎで。


 今日に限ってはその中にかまは入れてなかった。

 いや、かまは無くても採取可能だがあるにしたことは無い。

 何が起こるかわからないのが山であり、冒険者業。

 それは痛いほどに分かっている。

 だからオレはこの村にいる訳なのだが……。


「無さそうだな。行くか」


 ひとりごちて扉へ向かう。

 石を除け、鍵を閉め、家から山へ足を向けた。

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