第31話 酷い事を言ってますか!?

「ど、どういう事ですか、旦那様!?」

「驚くのも無理はない。俺も最近、考え始めた事だしな」

「最近という事は、今まではどうされるおつもりだったんですか?」

「とにかく、キックスがローラと結婚してからは、俺が突然、死んでしまった場合は、跡継ぎの件に関しては、俺の従兄弟に頼むつもりだった。従兄弟は何人かいるし、彼らにはすでに子供がいるから、その方が良いと思ったんだ」

「その事は、御本人達は知っていらっしゃるのですか?」

「伝えていない。何より、それを公にすると、ローラが従兄弟を狙う可能性がある」


 旦那様は大きく息を吐かれてから続けます。


「今までは自分の子供が跡継ぎだなんてありえないと思っていたから、そう決めていたんだが、最近はそう思えなくなってきてな」

「どういう事です?」

「魔法が解けたら、その、子供が、できるかもしれないじゃないか…。もちろん、君が嫌じゃなければだが…」

「子供が出来る…? どうしてです?」


 言っておられる意味が分からず聞き返すと、旦那様は私のお腹に顔を押し付けてきて言います。


「いつになったら君は気付くんだ! 鈍いにも程があるだろう!」

「も、申し訳ございません!」


 鈍いにも程があるって、そんな…!

 そこまで言わなくてもいいじゃないですか!

 も、もしかして…。


「旦那様の子供が出来たら、魔法がとけるという事ですか?」

「……魔法がとけてないのに無理だろう」

「ああ、そうですよね。魔法がとけない限り、そういうのは、やはり難しいですよね」


 頷いてから、ありえない事かもしれませんが、思い付いた事を口にしてみます。


「もしかして、旦那様、愛人、もしくは私との子供を作るおつもりで?」

「愛人なんていないし、いらない」

「で、では、ま、まさか、私とですか?」

「それ以外ないだろう!」


 旦那様がまた、グリグリと顔を私のお腹に押し付けてきます。

 

 もしかして、恥ずかしがられているのでしょうか?

 でも、よく考えてみると、私も恥ずかしくなってきました。

 だって、旦那様の子供をという事は…。

 こ、これは、すごい恥ずかしいです!

 夫婦の会話なら、こんな事を話すのは普通なのかもしれませんが!

 私と旦那様は少し、関係性が人とは違いますし…。


「と、とにかく、話題を元に戻しましょう!」

「どうしてだ」

「今、どうにもならない事を話す必要はないでしょう」

「…エレノアは変わっているだけじゃなくて、時には鬼だ」

「鬼!? そこまで酷い事を言ってますか!?」


 旦那様はちゃんとお話したいのかもしれませんが、その時になってから考えたら良いと思うのです。

 ですから、話を元に戻します。


「今は私が継ぐという話に戻させていただきますね! で、もし、旦那様と私の間に子供が出来ていたら、子供が大きくなるまでは私が一時的に継ぐという事で良いと思います。で、子供が大きくなれば、子供に…という事でわかるのですが、子供が出来なかった場合、いない場合はどうするおつもりです? 私が継いでも意味がなくなってしまいますが…」

「そうなった時は、君のあとには、俺の従兄弟ではなく、従兄弟の子供に継いでもらう様にお願いしたい。何人かいるから、その時はエレノアが誰が良いか見極めてくれ」

「うーん。出来れば、旦那様に長生きしていただいて、旦那様が後継者をお決めるになるのが一番だと思うので、頑張って旦那様をお守りいたしますね!」

「守らなくてもいい。長生きについては、そのつもりだが、どうなるかわからん」


 旦那様は大きく息を吐かれた後、この話についてはローラにはまだ話さないようにと念押しされました。

 なぜなら、標的が私になる可能性があるからだそうです。

 最終的に全て潰せば、キックス様が当主になれると思い込んでいる可能性があるので、しょうがありません。

 そうなる前に捕まるとは思うんですが、そんな事を考えない様な人かと思われますので、用心するに越した事はありません。


「ところで、エレノアはどういうタイプの男性が好きなんだ?」

「…唐突ですね」


 跡継ぎの話が落ち着いたところで、旦那様に聞かれたので、驚きながらも考えます。


「…そうですね。私のワガママや毒舌を理解してくれつつ、駄目な時は叱ってくださる人が良いです」

「……俺は、それに当てはまるだろうか?」

「ええっ!?」


 犬になられているせいで、旦那様の表情がわからない為、どんな顔をされているかわかりません。

 まさか、まさか、旦那様、本当に私と!?

 

「あの、とにかく、そのお話は改めて致しましょう!」


 こんな展開になるだなんて思っていなかっただけに、どうしたら良いかわかりません。


 少し考える時間が欲しくて、そう言うと、旦那様はしょぼんと頭を下げてしまったのでした。

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