第1話 迷惑です
旦那様との戦いに行く前に、空腹ではいけないと感じ、まずは、朝食を取る事にしました。
私の旦那様である、シークス・クロフォード公爵は、食事は全て自室でとられるそうですが、私は何も言われていない為、ダイニングで食事をする事にしました。
時間は好きな時に行けば良いらしく、いらない時だけ連絡をしたら良いそうです。
ジャスミンと一緒に、ここの屋敷のメイドに案内してもらったダイニングルームは、十人程が一度に食事できる大きなテーブルに、白いテーブルクロスがかけられ、真ん中には果物がのった籠が置かれています。
「おはようございます。お
「おはよう、エレノア」
「おはよう、エレノアさん」
旦那様のご両親であり、私の義父母となった先代の公爵夫妻が食事の途中でしたが、私が挨拶すると、食事の手を止めて、笑顔を向けてくれました。
お二人共、整った顔立ちをされていて、40歳をこえていらっしゃるのに、とても若々しく見えます。
お義父さまは、旦那様が20歳になった1年前に公爵の座を旦那様に譲られましたが、相談役として、お義母さまと一緒に、この家に暮らしていらっしゃいます。
義両親の同居を嫌がる方もいらっしゃいますが、屋敷は広いですし、こうやって顔を合わせても、お二人は優しいですし、私はこの同居に関しては嫌ではありません。
「エレノアさん。こちらにいらっしゃい。あなたとお話したかったの。うちには娘がいないから、娘との生活に憧れていたのよ」
「おい、1日目から、同居が嫌になる様な話をするのはやめなさい」
「だって!」
お義母さまに、お義父さまが注意して下さいましたが、私はあまり気になりませんので、お義母さまの隣に座ってから、その事をお伝えします。
「意地悪されるより、仲良くしていただける方が嬉しいですから、よろしくお願いいたします」
「もちろんよ! 意地悪なんかしたりしないわ! まあ、キックスのお嫁さんからは嫌われているけれど…」
お義母さまが、小さく息を吐いてから、場を和ませる様に笑顔になって、私に言います。
「嫌なことがあったら嫌と言ってちょうだいね。あなたの嫌がる事をしたいわけじゃないから」
「そんなご心配はなさらないで下さい」
「キックスの嫁から、僕達は嫌われているんだ」
お義父様が苦笑して補足されたので、お義母さまとお義父さまに問いかけます。
「嫌われているとは…?」
「仲良くしようとして、話しかけすぎちゃったみたい。最初は食事を一緒にしていたんだけど、今は時間をずらされてるの」
「かまわれるのが嫌いな方もいらっしゃいますものね」
それならそうと、キックス様が、お義母さまにそう言えばいいだけの気もしますが…。
ちなみにキックス様は旦那様の弟の名前で、年齢は私と同じです。
約一年前に5つ年上の女性と結婚しておられ、今もこの屋敷に夫婦で住んでおられます。
「そうなの。お嫁さんが来てくれたって、すっかり浮かれてしまっていたのよ。悪いことをしたとは思っているわ」
「だけど、中身は君が望むような女性ではなかったのだから、気に病まなくていいだろう」
お義父さまはそう言った後、今度は私に向かって言います。
「エレノア、キックス達の事は気にしなくていい。いないものだと思ってくれたらいいから。あの二人には近付かないのが一番だ。大体、僕はあの二人をこの屋敷に住まわせるのも嫌だったんだ。けれど、決定権はシークスにあるからな。まさか、こんな事になるとわかっていたら、シークスも同居を許可しなかっただろうが…」
お義父様が不満そうな表情で言いました。
私の前に運ばれてきたパンやサラダなどを食べながら、2人の話を聞いて、義両親と義弟夫婦が仲良くない事を理解しました。
この感じですと、義弟夫婦に問題がありそうです。
昨日の結婚式でも、参列中にお嫁さんはタバコを吸ったりされてましたし、灰を隣に立っている招待客の足元に落としていました。
旦那様が注意されておられましたが、あまり反省している様子でもありませんでしたし、後ろを向いて吸い始め、灰は同じように床に落とし、吸い終えたタバコもポイ捨てされていました。
言っても聞かない、常識のない人間には近付かないのが一番です。
「お言葉に甘えて、キックス様達には近付かない様に致します」
あまりにも鬱陶しい様でしたら、旦那様に文句を言って、二人に別邸に移ってもらう様に言いましょう。
私のお願いを旦那様がきいて下さるかはわかりませんが、言ってみないとわかりませんから。
「そうだ。その方がいい。こんな事を言う事しか、僕達には出来なくて申し訳ない」
「キックスも、昔はあんな子じゃなかったのに、彼女と知り合ってから変わってしまったのよ」
「あの、お気になさらないで下さい! 関わらなければ良いだけの事ですので…」
何か事情がありそうですが、勝手ながら、同居してまだ2日目の朝ですのに、あまり重い話を聞きたくはありません。
ただ、話しづらい何かがある事だけはわかりました。
1番のネックはキックス様のお嫁さんのようですし、後で、ジャスミンにお願いして、キックス様のお嫁さんの事を調べてもらいましょう。
義弟達の話はそれで終わり、旦那様の話になったので、旦那様の都合の良さそうな時間を聞いてみると、来客中以外であれば、気にせずに執務室に行けば良いと、お義父さまから言われたので、朝食後に早速行ってみる事にしました。
ですが、タイミング悪く、旦那様の執務室に着く前に、関わらない様にしなければいけない人物と出会ってしまったのです。
ジャスミンも私と同じく、この屋敷に来たばかりですから、旦那様の執務室の場所がわかりませんので、屋敷のメイドに案内をしてもらっていた時でした。
メイドに付いて歩いていると、右斜め前の扉が開き、中から、金色の長い髪を一つにまとめた女性が、黒のネグリジェ姿で廊下に出てこられました。
昨日、結婚式に参列して下さっていたので、誰だか、なんとなくわかりました。
キックス様のお嫁さんである、ローラ様です。
細身であられるのに、胸とお尻は大きいので羨ましいです。
目が細く、キツそうな顔立ちをしておられ、昨日の結婚式とは、やっぱり違う顔をしておられます。
結婚式の時は化粧の濃い令嬢でしたが、今は大人のお猿さんの様な顔をしておられます。
眉毛もないですし、何よりネグリジェですから、今はノーメイクなのでしょう。
見た目や行動だけ見てみますと、私としては、お友達にはなりたくないタイプのように見えます。
ローラ様はメイドを見て、表情を明るくして言います。
「あら、ちょうどいい所に。ねぇ、タバコを持ってきてくれない? いつものヤツ」
「ローラ様、現在、若奥様を若旦那様の所へご案内中ですので、若奥様をご案内した後、すぐに持ってまいりますので、お待ちいただけますか?」
「はあ!? 何を言っているの!? 私が持ってきなさいと言ってるんだから、今すぐ持ってくるのよ! ねぇ、エレノアお
にっこり微笑むローラ様に、私は素直に聞き返す事にしました。
「可愛い義妹と申されましても、あなたの第一印象は最悪なのですが? どこをどうしたら、あなたの事を可愛い義妹と思える要素があるのでしょうか?」
私の言葉を聞いたジャスミンは頭を抱え、案内してくれていたメイドは驚愕の表情で私を見ましたが、そんな事は気になりません。
「な、なんですって?」
ローラ様が目を大きく見開いて聞き返してきました。
なので、答えます。
「今だって、はしたない格好をされているじゃないですか。他人に見せるような姿ではありませんよ。少なくとも、ジャスミンは私のメイドですから、あなたとは他人です。もちろん、こちらのメイドだって、あなたとは他人でしょう? そんな姿を見せても良いのは、キックス様か、あなた専属のメイドか侍女くらいですよ。私も含め、他の人間は、そんな格好を見せられたら迷惑です」
「なんて女なの!?」
ローラ様が唾をたくさん飛ばしながら、私に向かって叫んだ時でした。
かなり前方にある左側の扉が開き、中から旦那様が出てこられました。
「何を騒いでいるんだ!?」
「シークス様、あなたは、出てこない方がいいんじゃないですか? せっかくのお嫁さんに逃げられたくないでしょう?」
旦那様に向かってローラ様が言うと、旦那様が眉間にシワを寄せて言います。
「うるさい。君はなんて格好をしてるんだ、とっとと部屋の中に入れ。俺の目が汚れる」
「あら、あなたの弟さんは素敵だと言ってくれるんですけど、残念ですわ。あ、ねぇ、タバコ、早く持ってきてね?」
「かしこまりました」
旦那様が出てきて下さったので、案内してもらう必要がなくなった為か、メイドはローラ様に頷いた後、私とジャスミンに頭を下げて、逃げるように元来た廊下を走っていってしまいました。
「じゃあ、部屋の中に大人しく戻りますけど、お義姉さま、私、許したわけじゃないですから。覚えておいてくださいよ」
「あなたのその顔と姿は不快ですので、綺麗さっぱり忘れる事にしますが、発言だけは覚えておきます」
ローラ様に答えると、彼女は鼻を大きく鳴らして、部屋の中に入り、扉を乱暴に閉められました。
「変な人ですねぇ」
「それはそうだが、君はどうしてこんな所にいるんだ?」
「あの、旦那様にお会いしたくて」
「俺に?」
旦那様は驚いた表情をされた後、私を手招きされます。
「用事があるのなら、中に入ってくれ」
「ありがとうございます!」
さて、まずは何のお話からしましょうか。
ローラ様の事から?
それとも、やはり本題からにしましょうか。
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