不可抗力の愛
@S716
第1話 失踪事件
『―続いてのニュースです』
朝起きてくると、女性のアナウンサーが深刻そうな表情でニュースを伝えていた。
『これで、7日間で合わせて10人目になります』
ここ連日世間を騒がせている、失踪事件である。
全国中の男女の高校生が、自室で突然失踪したという事件だ。
決まってスマホの画面には、同じタイトルのスマホアプリが開かれていたらしい。
原因未だ不明、運営会社もアプリを無期限の利用停止せざるを得ない状況に追い込まれていた。
「あんたはこんなゲームしてないでしょうね」
起きてきて早々、母親は挨拶もせずに、俺が座るテーブルの前に朝食を置きながら聞いてくる。
「あ?あぁ」
寝ぼけている風に、適当に相槌を打ちながら朝食を黙々と食べ終えた。
家を出て学校へ向けて歩きながら、俺はスマホを開く。失踪事件で起きているアプリで起動するためだ。
母にはやってないことにしているが、あれは嘘だ。むしろ配信が始まった頃からのヘビーユーザーである。
いや、無課金勢だからヘビーユーザーというには弱いか。バイト代を注ぎ込もうかと思ったけれど、何だかそこまでの勇気はなく、
俺も、こうやってアプリで遊んでいたら失踪してしまうのだろうか。
なにかの漫画とラノベみたいに、ゲームの世界に転生できたりするんじゃないか?それも悪くない。
とおよそ現実離れした妄想を繰り広げながら、アプリを起動するのを待つ。
利用停止しているため、当然普通に遊ぶことは出来ない。ただ、オフライン状態でも、起動時に開く画面までは進むことが出来る。
その画面には、1人の女性キャラがいて、無表情でこちらをみていた。
これは自分がアプリ内で手に入れたキャラを選んで表示出来るシステムだった。画面をタッチすると様々なリアクションを見せてくれる。
そのキャラの名前は、イオラ、という。
金髪の長い髪で美人なキャラだ。アプリ内のストーリーで登場する王国のお姫様であり、バトルにおいても回復や味方の能力を高めてくれる優秀なスキルを持っていて、多くのユーザーから人気を集めている。
そもそも配信開始時はストーリーに登場するのみで、手に入れることは出来なかったが、あまりの人気ぶりに実装された、という経緯を持つ。
変態と思わないで欲しいが、俺はその画面をタッチして色々リアクションを見るのが、日課みたいなものだった。
リアクションの数には限りがあり、何回かタッチしているともう全部終わって最初のものに戻ってしまうが、それでも日々の癒しで、疲れがとれるきがしていた。
もし仮に転生でも出来れば、彼女と会って、一緒に戦って…なんて、色々と妄想をするが、あくまでも妄想だ。実際にありえない。万が一出来たとして、真っ先にやられて迷惑をかける、それ以前に存在を認知してもらえるかも定かではない。
はぁ、また勝手に妄想して、勝手に落ち込んでる。だがしかし、いつもの事だ。
と、何だか急に目の前のピントが合った気がした。
いつも見ている景色だ。何の変哲もない。
と思っていると、明らかに見慣れない風貌の女性が歩いてきていた。
なんだか、周りをキョロキョロしていて、明らかに挙動不審だ。何より格好が、思い切り周りから浮いていた。
そしてその格好には、少なくともこの辺りにいる人間より誰よりも馴染みがあるという自負があった。
「い、イオラ嬢」
思わず呟いていた。目の前に憧れの人がいたら、口に出てしまっても仕方がない。
って、俺は夢を見てるのか。
目を閉じて、首を横に振って、目をこすって、頬を叩く。
「ねぇ」
かなり近くで声がした。最近では母よりも聞いている―かもしれない声だ。
瞑っていた目をそっと開くと、"その顔"があった。
「今私の名前を呼んだよね」
今の一瞬、時が止まった。この世界には、僕らしかいない、そんな錯覚を覚えた気がしていた。
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