第23話能力を獲得しました

 神がいるから転生者が調子乗るんじゃないの?気持ちわかるわ。俺だって好き放題やってるし、最高だもんな。

 だからお互いに好きな事をした方がいい!

 異世界に来てまで我慢する必要なんてないんだ。

 どんどん好きなことして、どんどん俺の神に嫌われて、どんどん俺のモチベを高めてくれ。


「ううっ、ぐぅ……おっおえぇぇぇ゛」


 でゅふふの側に落ちたのは『音叉響』という二股の金属だ。ふむふむ、響く音によって影響を与える、らしい。『音叉響』を鑑定眼で見た結果がこれだ。

 俺の鑑定眼がバグったわけではない。にしてもざっくりしすぎだろ。


 こいつらの能力は大変分かり辛い。鑑定眼で見ても、メニュー画面しか表示されないからだ。青頭を見た時もこの表示方法だったので、鑑定を阻害する能力か魔法かと思っていた。


 でも、でゅふふ達を見て、これが設定であり能力である、という結論に至った。

 つまり、能力が設定で設定が能力になっているというわけだ。

 端的に言うと、この『音叉響』は能力ではないという事だ。


 俺みたいに『主人公殺しの眼』とか『反主人公の証明』といった能力は持たずに、ゲーム的世界観に産み落とされた転生者ってわけ。だからゲーム的な設定がこいつらの能力として機能している。そして、そのゲーム的設定がこの世界においてのチートになっている。


 どんな修行をして、拳銃とか剣とかこの音叉とかを手に入れたのかは知らんけど、どっかで獲得した物なんだろう。能力なら鑑定眼ででゅふふ達を見たときに『音叉響』って表示されるはずだからだ。



 俺がコイツらを殺したらどうなるんだろうか。

 普通なら、能力を手に入れる事が出来る。それプラス設定も手に入る。何故設定が割り込んでくるのか、神様に聞いてないから知らんけど、たぶん能力を発揮する為のOSみたいなものなんだろう。設定があって能力を使用できるから、この理屈であっているはず。


 こいつらの場合はどうなるんだ。

 ステータスが引き継がれるとか?それともこいつらが持つ武器の所有権が移るとか?

 要らんけどな。武器を奪って使えるなら、殺す必要なさそうじゃん。武器以外に魅力ないもん。

 青頭の拳銃、刀、本、ローブ、こいつらの武器が魅力的なだけで、設定はありきたりだしねえ。音叉はあんまり興味ない。興味ないけど……。


 物は試しだ。


「ディキ」

「――――うっケケ、はっ」

「体調悪い?」

「はい」

痛覚遮断ペインキラー

「っケケケ、痛みが消えました」

「コイツ殺したら治療に行っていいよ」

「はっ」


 影に潜ってたみたいだけど、いつにも増して顔色が悪かった。『音叉響』はじわじわ効く系なのか。

 やっぱり要らんな。


「うぅ、はあ、はあぐっ……」

我が標へイモレーション


 ディキの影が切り絵のように浮かび上がり、何本もの鋭利な刃に変貌した。上空に向かって長ーく伸びて、蹲ったまま動かないでゅふふの上でピタリと止まった。


 ヒョオッ!


 背後からサクサク貫通する。

 最期の言葉は、あっ、だった。後頭部から鼻まで、背中から胸まで、腰から腹まで、スッカスカの穴開きチーズが出来上がった。ネズ公がいれば喜んだだろうに。


「裕介っ!ゆうすけええええー!」


 振り返れば、磔のでゅふふBが叫んでいた。まだお肉を削がれてないから元気だ。お前はあと。

 さあて、能力は?設定は?


 ピコン!

『ステータスの引き継ぎを実行しま……』

「却下だ」

『……ヂヂヂ、却下。引き継ぎは中断されました。それではまず武器を選択してください』


 視界に広がったのは半透明のメニュー画面。村の入口から付近で行われる、転生者による殺戮ショーもバッチリ見える。上手くできたUIだ。

 メニュー一覧の武器選択というアイコンに吹き出しがついていて、ここをタップ!と書かれている。

 ひとまずタップ。

 その中にあるのは『音叉響』だけ。随分貧相だな。空欄が幾つもあるから、武器は何種類も持てそうだ。『音叉響』の上に吹き出しが出てきたのでタップしてみる。


『既に装備しています』


 いや、してないけど。

 ああ!はいはい。転がってますね。

 タップしたら武器が出てきて、システム上は装備扱いになるわけだ。つーことは、武器さえ奪えばいいんだな。殺す必要なさげじゃん。


 音叉、もとい『音叉響』を手にとってみる。すると武器一覧から円グラフみたいな表示に切り替わり、その中には3つの選択肢がある。

『純音』『楽音』『噪音』

 コイツが使ってた、内臓ぐちゃぐちゃは『噪音』。

『純音』は敵の攻撃を跳ね返す。

『楽音』は敵にデバフを与える。

 文面だけなら使えそうだけど、当の本人は死んでるからな。役立たずの能力じゃん。

 これって、技だよな。この『音叉響』を使った技だ。

 なるほど、武器を手に入れるだけでは、こいつらの技が手に入らないわけだ。

 じゃあ殺すべきだな。


 そして、吹き出しがやたら『噪音』を押せと。

 はい、押しましたよっと。


『音叉響を叩いて音を響かせましょう。アナタの敵に自動でロックされますので、武器を向ける必要はありません』


 あーはー、これってチュートリアルか。どーせ使わんし、中止だ中止!


『……ヂヂヂヂ……これ……これでアナタも立派な勇者です。さあ、魔王の手から世界を救いましょう!』


 ほーん、こういう設定ですか。

 で、俺が何故か魔王扱いになっていると。ネズ公じゃなくて俺が?なんでやねん!魔物を引き連れる転生者はネズ公だろうが!と言っても誰も聞いてくれないよなー。


 ネズ公死んだし。俺は魔族の標様だし。魔のリーダーってことなら魔王になるな。


 ――――ああ、主人公っぽいわ。


 危ねえ、危ねえ。危うく主人公ポジションを受け入れるところだった。ダークファンタジーの正道を行きそうだったぜ。魔王はやりましぇぇぇえんっ!


 ここいらで1つ、俺が主人公でない事を証明しないとな。


「ディキ帰っていいよ。おつかれー。ちゃんと治療してねー」

「はっ。お側にはチェリーフィズが居りますので、何かあればお呼びください」

「オッケー」


 気が利くな。優秀すぎるよ。大企業の秘書とかに向いてるんじゃないの?Goo○leに秘書っていうポジションがあるなら紹介したいわ。

 なんのコネもないけど


 いつまでもメニューが表示されていて鬱陶しかったので、ハエを追っ払うように手を振ったら消えた。自動で消えてくれんかね。大体分かるだろ。


 村の入口では転生者たちが殺戮を頑張っている。ポークを量産し、大量の鳥肉を転がして、犬肉は……何に使うの?食べるの?そういう風習があるなら否定しないけど、お前ら日本人だよね。

 あーあ可哀想。動物愛護法違反だろ。


 鳥がだいぶ減った。ワンころとポークはそれなりに耐え忍んでいる。転生者は強い!しかし数には勝てないようで、数名が大怪我を負ってダウンしている。死んではいない。

 それでは、もっと時間を稼いでもらおうかね、化け物諸君。


不落の城パーフェクトガード

神速の猟犬スピードスター

千載一遇の眼パーフェクトスナイプ

猪突鉄塊アイアンクラスタ


 OH めちゃんこ魔力が減ったわ。付与する対象が増えれば魔力も減るわな。しゃーないか。


「くっ、コイツら急に……」

「誰か魔王をっ!」

「それどころじゃない!」


 というように、転生者が明らかに押され出した。

 ネズ公、いい能力だね。本当にありがとう。年食って恥ずい限りだが、もしかしたら俺は、ネズ公に恋をしていたのかもしれない。だってこんなに寂しいんだぜ?あのムチモフのボディを撫で回したくてウズウズしている。

 早くペットを見つけないとな。次の恋を見つけて、忘れないとな。


「なっ!?そうだよなでゅふふC」

「でゅふ、でゅふ、ゔゔ、殺してくれ」

「断る。ああその前に……ん?どうやるんだ?」


 付与した能力はどうやって解除するんでしょうか。


『解除!』

 …………ダメ?


 ピコン。

『付与は解除できません。有効時間が切れるのを待ってください』


 にゃるほど。で有効時間とは?何分?

『……』

 何分?

『……』

 ナンプラー。

『……』


 聞いてないよぉぉ!ネズ公のUI分かりにくいよぉ!時間制限あるなら書いとけよ!ていうかなんで返事しないの?照れてるの?何なのよ。


『……』


 コイツ、使えねえ。何か特定のアクションをしないと、声を上げないタイプか。ド変態め。

 なんか、魔力がどんどん減ってるわ。やべーよ、マティーニとダイキリにも魔力を共有してるし、これって危機なんじゃないの?

 もー、ほんとヤダッ。


「C、ごめんな。解除しようと思ったんだけどできないわ」

「い、いい゛、いいから、ころ゛じてくれ゛!」

「そんなに怒るなよ。良い思いさせてあげるからさ」

「………………………………お願いじま゛ず。ころじで」


 そんなに辛かったか。

 そんなギンギンで言われても、説得力ないっての。


「好きな子、いる?嘘ついたら削ぐからね」

「い、いな、い」

「はい嘘です」

「う゛う、ぎゃああああ゛あ゛あ゛」

「好きな子は誰?かわいい子でもいい。答えて」

「マ゛、マ゛ジガル゛ディガヂャン」

「ん?マジカル・ディカ?」

「で、でぃ、ディガ」

「ディガ?」

「でゅふ、ディ、ゔぅ、ディガ、らでぃどぅれど」

「あっはははあ、リカね?リカ。それはクラスメイト、じゃねーな?」

「ア゛ニメ」

「もーーー。3次元の女の子に興味持ちなよー」

「――――があ゛あ゛あ゛あ゛、ひっ、ひっゔっっぉ、おぇ゛」

「クラスメイトの女の子。君がかわいいと思う子、誰かいない?そのマジカル・リカちゃんに似てる子でもいいよ」

「ゔぅぅ、ひぃうう。ゆ゛、ゆ゛じが」

「ゆー、ゆりか!ゆりかだな!?」

「じょうでず。お゛ねがいじま゛じゅ。もうや゛めで……」

「分かったもう止める。チェリー」

「はっ」

「コイツ治せる?」

「あまり得意ではありませんが、ある程度なら」

「プリーズ」

「はっ」


 チェリーボーイが……。画が卑猥だ。

 ちょうどチェリーの顔面が、濡れそぼった、男根の前に……。


治癒せよヒール


 ほわ~んとでゅふふCが輝き、治りました。得意じゃないってのは傷痕が残るって意味か。まあそれぐらいはいいっしょ、漢!って感じで。


「チェリー、あ……」


 怖っ。めっちゃ怖い顔してる!キショかったんだね。ごめんね。でもさ、わざわざ正面に立つ君が悪いよ?斜めからでも治癒出来たでしょうに。


「あ、ありがとうね」

「――――はっ。標様、コイツを殺すときは、私にお命じ下さい」

「う、うん。分かったーじゃあ、もういいよー」

「はっ。ぺっ」


 唾……。あんなショタが、あんなに恐ろしいなんて。カワユイのお。俺ってばもしかして、男もイケる口では?腐女子のみなさ~ん!これからBLが……。


「ありがとうございます。何でも言うことを聞きますから、アレは、アレだけは勘弁してください!」

「――はあ。今、創出者の中でも奇特な、貴腐人の方々に呼びかけをしていたところなのに」

「創出、貴腐……申し訳ありませんでしたっ!もうしませんから、赦してくださいっ!」

「はいはい。別に怒っちゃあいませんよっと」


 台に登って手の縄を外してあげた。足の方も外して、でゅふふCを自由にする。磔は本来釘を使うべきだが、それだとわくわくがない。既に痛みに耐えてる人間を更に甚振る?ノンノンノン気でしょーが。


 全く痛くない、縛られて怖い、そんな人が最初に味わう苦痛を見るのがいいんじゃないの。処女厨やら初鰹厨やら初夢厨やら、初物に拘るところが、俺にも出てるんだね。生粋の日本人だわ。


「あ、ありがとうございます」


 さっと土下座に移る君も、生粋の日本人。よろしい。俺たちきっと気が合うね。


「B君だけ傷がないってズルくなーい?」

「――――そ、そうですね。でゅふ」

「A君だってほら、傷があるんだよ?君よりは少ないけどさ」

「――――はい」

「これよく切れるし、よく削げる。やってみるか?」

「――――――――――――――――――――――――――――――――はい」


「待って、リョウ!止めてくれ!頼むから!」


 悲鳴がCに降り注ぐ。イッちゃうんじゃないの?ドMとドSの両属性持ちってやべえーよ。女と男両方食えるみたいなもんじゃん。やべーよ。幸福だねー。


「おわ、終わりました」

「良くやった。震えてるな」

「す、すみません。初めて、人を……」

「よしよし、大丈夫だ。血が出てるだろ?止血してあげようか」

「僕、治癒の魔法ができなくて……」

「血を止めるだけだ。火を使えばいい」

「火、ですか?」

「ラン○ー見たことない?世代が違うもんなー。それなら、ああ!ハガ○ンは?大佐が腹の傷焼いてたじゃん、あれよあれ」

「そ、それだと痛いんじゃ……」

「はぁ~」

「やります!やりますやりますやります!」


「ゔぅ、待って、まっ、ぎゃあああぁ!」


 そろそろ、バトロワ開始しようかね。

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