第22話凌遅刑の最中に仕様確認

「でゅふ、い、今すぐ転移するでござるよ」

「ま、待って、おいら転移は……」

「済まぬ」


 裏切りだぁぁぁぁぁぁあ!

 でゅふふ5兄弟、2人が逃亡した!


 残ったでゅふふは、青い顔ででゅふふと繰り返しているっ!狂ったか?いーやまだだ!こんなんで狂ってもらっちゃあ困ると、マティーニが拳を振り下ろした!


「でゅふっ」

「――た、助け、でゅふっ」

「ひっ……でゅふっ」


 見事に鼻が潰れたぞっ!完全に心が折れたようだ!


 カンカンカンカンカン!


 勝者、魔族ぅぅぅぅぅ!


 はあああいっ!

 ということで、斥候の転生者は3人捕獲しました。此奴らは生かしたまま肉を削ぐ凌遅刑となります。


 大挙する本隊を待ち受けるのは、磔になったでゅふふ男たち。汚いポコチンだけでなく、新鮮なお肉まで晒す。赤い肉汁を垂れ流しブルブル震えるだろう。痛みに絶叫して、殺してくれと嘆願するだろう。

 その横で、私たちは宴会を開くことを宣誓しますっ!


 小皿に醤油を溜めて、薬膳を一揃え。

 目の前で喰ってやろう。活け造りだ。


 これが魔族の計画の一部。俺にカニバリズムの癖とか習慣とか趣味はないので、食べる気はありまへん。


 ということで、サバサバ系のヤリ手魔族の姐さんが、屋外料亭を拵えている。

 角材を十字にして地面おっ建てて、村の入口からよく見えるようにした。これでよーく観察できるだろう。俺たちの座る場所は十字の横だ。日差しを遮る屋根があって、半個室ならぬ半屋外的なノリで、一面だけ壁がない。横の仕切りと背後の壁に必要性を感じなかったが、腰掛けてみると、これが中々。


 昔のヨーロッパ貴族がパラソルにテーブルとイス、そらからティーカップまで持参して、キチガイみたいなピクニック行脚をしていた意味が少し分かる。


 非日常、そして優越感だ。


 毎日毎日、長屋で飯を食うのは、ただの日常。飽きることはないが、刺激はない。もはや作業だ。

 それが外になるだけで、趣向を凝らした気になる。非日常だからだろう。

 この優越感。

 この無駄な建物で、おやつ感覚の食事を楽しむ。作業でも、本能的欲求からでもない。楽しむためのお食事だ。

 ビビる程に無駄な時間と金の使い方。今回は無料なので、魔力の無駄だな。


 善き哉。


「でゅ、でゅ、ふふ、ふ」

「お、お願いします、助けて、助け……」

「ぎゃあああぁ……い、痛い゛!」


 俺は人肉への興味がない。マジでない。興奮もしない。


 なので凌遅刑に参加することにした。


 でゅふふAは既に肉が削がれて、体重が減っているだろう。ソイツはかなりの人気者で、魔族連中が列をなしている。ちょっと笑える。姫初めを目論む風俗客の如し。

 BとCは身軽になる仲間を見て、小便を垂れ流してるだけ。寂しそうなので、俺の実験台にすることにした。いや本当は、俺が手持ち無沙汰だったから実験台にすることにした。優しさではない。


 だってさ、椅子に座ってお茶を飲んで、団長や族長が美味そうに肉を喰ってるのを眺めるのはつまらないんだもん。

 人の飯を喰う姿ってのは、見るものじゃない。


 ということでヤリますか。


感覚鋭化シャープネスセンス


 ネズ公の能力は優秀だ。さすがクソチーター。任意の相手の身体能力や魔力などを強制的に変更できる。これに対抗する術があるのか知らないが、かなり強い。感覚を鋭くさせて、切り傷をつけたら?


「痛ぁぁぁぁぁっ!うぐっ、おえぇぇぇ゛」


 吐くほど痛むらしい。手の甲を切っただけなのに。ここで疑問が湧いてくる。付与というぐらいだから、痛みを与えることは出来るのか。


疼痛付与ギブ・ザペイン

 ピコン!

『有効な呪文ではありません』


 エラーが出ましたな。じゃあこれは?


色情付与ギブ・ザラスト



 ―――――勃った!チ○コが勃った!



 疼痛付与ギブ・ザペインが使用不能な理由は……。

 これだけじゃあ分からんな。敵に対して直接的な攻撃はダメとか?それとも、仲間への補助でなければ無効とか?それとも文字通り呪文が呪文として成り立ってなかった?


 性欲爆発させることはできた。何に使うのか……。

 ダラダラ涎を垂らしているな。キッショ。

 ああ、感覚が鋭くなってるからか。ドM属性に目覚めたらごめんな?痛みと射精感が押し寄せて、大変だな。


「ケケケ。標様、来ました」

「――――やっとか」

「始めても宜しいでしょうか」

「モチのロンッ!48,000点だ」

「ケ、ケケ。よん万……それはつまり、始めても…………」

「良いってことよ。すまん分かりづらかった」

「い、いえ。我の知識不足でございます。申し訳ありません」

「許す!始めろ!」


 ディキ、麻雀って面白いゲームがあるんだ。今度やろうな。

 麻雀ではないが、目下進行中のゲームに大きな動きがあった。そう、本隊が来たのだ。ポエミーでピチピチした、未来ある青少年がやって来た。


 可哀ちょうに。カモられて嵌められてる事も、ちらないんだもんねー。よちよち、俺が現実を叩きつけて、可愛がってあげまちゅよー。


 御庭番衆は良い計画を建ててくれた。

 この磔もそうだ。

 そしてこれから始まるのは、俺の望み通りのバトルロワイヤル。だがそこに至るまでには多少の戦いが必要だ。

「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」

 と言ったところで従ってくれる訳もないから、誘導する訳だ。


 な~に、超簡単よ。純粋無垢な彼らの精神を墨汁に浸すぐらい容易なことよ。


 小さめの台に乗って、壁画職人みたいにでゅふふの皮を削いでいく。団長のナイフは切れ味が良くて使いやすい。

 皮膚を削ぐときは深めにね。


「いっ、がああ゛あ゛、ひっ、や、や゛め゛て゛」


 パレットみたいに左手に持ってる平皿に盛り付けてあげる。この時、親指とナイフの腹で肉を挟みながら載せると、料理人の気分になれるからオススメだ。


 削いだ所から血が溢れてくる。地下水を掘り当てた先人の感動を体験したいなら試した方がいいな。

 この下は……?

 脂肪っぽい。もっと奥は……。


「う゛うっ、があ゛あ゛あ゛あ゛」


 骨だ。カッチカチの骨。こいつの息子ぐらいカッチカチ。


 あーら、ヨダレが……。糸引いてらあ。

 気持ちいいんだねー。

 ドM覚醒しちゃったねー。


「ひっ、ひいぃぃぃ、ふぅぅ、ふう、お願いじます、止めて、ください」

「へい!そっちの子、気を失ってないか!?」

「はっ、そのようでございます標様」

「起こしなさい!タマタマをモミモミしてあげるといい」

「はっ」


 でゅふふAが気を失っていたから、金玉マッサージで起こしてやる。もちろん、ハードなマッサージ。

 おお、起きた。

 つーか、玉握るのに躊躇いがないな。魔族すげえよ。


「お、お願…………だ助゛げでぐれ゛ぇぇぇぇ!」


 C……泣かなくてもいいのに。

 仲間が来て嬉しくなったんだねえ。

 ギンギンに拍車がかかるぐらい、嬉しいのね。


「――何をしているんだっ!」


 腹から出るような、威圧感のあるでっけえ声だ。まさに主人公。


 実は疑問があった。

 青頭が主人公だとしたら、ここに来たこいつらは何なのか。

 主人公の取り巻き?いいやそれはない。主人公はこいつらを恨んでるような口ぶりだった。

 ライバル?まああり得る。でも数が多いな。ライバルってこんなに必要ですか。

 俺が思うにこいつらはモブだ。この世界を眺めてるこの世界の創出者アンタらが楽しめるように、主人公の生贄になる、価値のない命。


 モブは強いのか、弱いのか。

 同じ転生者である俺との実力差はどんなもんなのか。でゅふふどもは魔族に負けた、モブ中のモブ。じゃあ、目の前にいるこいつらは?


 なーんて細かい事はどうでもいいんだよ。

 転生者は等しく、勇者や英雄になる素質があるって族長が言ってたろ。主人公はコロコロ変わるって事だ。神の意思か、この世界の生物の意思か、誰かがそう仕向けてるんだろう。


 悉く殺す。


 人生は君の物語。君が主人公なんだ。

 モブもライバルも主人公も全員が主人公!

 誰しも持っている暗い過去、神に愛されたチート能力、そしてアホ面!

 主人公になる芽を持ってる、いや全員が主人公かも。


 勇者か英雄か革命家か、何を目指しているか知らんが、刈ってやる。青田刈りじゃあ!


「君たちのクラスメイトであってる?」

「ああそうだ」

「見て見て、この子ドМだって知ってた?」

「――彼を返せ。そしたら苦しませずに殺してやる」

「見た感じ、全員参加してるな。完璧だ」

「お前、話を聞いているのか?」

「俺も日本人なんだよ、お前も?何でアメリカ人がいねえと思う?」

「聞く気なしか。なあ、転生者同士なら話し合いで解決しないか?」

「設定だよ設定。日本人だけの方がシンプルになるだろ?元の世界での国籍とか混ざりだしたら、創出者アイツらの脳みそが爆発するからな」

「――――この国はお前を殺す為に俺たちを転生させたんだ。話し合いで解決する気はあるか?ないか?答えろ」

「でさ、創出者アイツらはこうも考えてる。お前らみたいなテンプレは飽きたってな」

「テン……はっ!オークだっ!」


 これを見ている創出者諸君、そう、お前らだ。お前らの考えは知らん!今言ったのは嘘八百のでっち上げだ!

 そしてコイツらが糞だってことも分かった。この丸坊主サル顔筋肉質男の後ろにいるガキ共も、チン〇スだってことがよーく分かった。

 顔を顰めて、クスクス笑って、どうでも良さげにそっぽ向いて、イチャイチャして、クソボケ共ばっかりだ。


 日本の学校教育に感謝したい。ありがとう文部科学省。

 よくこんな人間を育ててくれた。最高だな日本。自分が大切で、とことん人を見下すような人間は、とても我が強い。

 我が強いという事は、強烈に本能的で利己的な人間なんだよこれが。それってばつまり、本能に語り掛け、利益を提供できれば、御しやすく愉しやすく、余興にもってこいの有能人材になる、というわけだ。

 要するにだな、ゴミカスの癖に強欲だって事。


 オークが森からやって来た。事前に話はしてあったから、魔物が大集合だ。航空支援のワイバーン、嗅覚と隠密のブラックドッグ、肉弾戦車のオークたちが波のように押し寄せて来た。


 どうなる、どうなる。


 モブ対決、転生者対化け物。十中八九転生者が勝つだろうな。だがしかし、転生者がどの程度の損害を負うのか確認しておきたい。

 神に愛される者が、一般人相手にどれほど耐えられるのか知っておきたい。

 だって俺も、いずれは人間に恨まれる日が来るだろうからなー。英雄殺し、勇者殺し、神殺し、恨まれる筋合いオンリーだもの。


「皆っ!作戦通りに行くぞ!」

「おうっ!」


 コイツらの作戦は全部知っている。村に行って、魔王を殺す。誰よりも何よりも先に、魔王を殺すという計画だ。これを計画と呼べるアホさ加減に頭が痛くなるわ。

 計画の立案では意見がまとまらず、力でねじ伏せるという枠に収まったらしい。で、魔王をとにかく殺そうと考えるに至ったと。

 そもそも俺は魔王じゃないんですけどねえ。


 ディキは優秀で、それ以上のお知らせも持ってきた。コイツらは団結しきれていないので、個々に思惑があるらしいのだ。いじめっ子を後ろから刺したり、嫉妬からイケメンを殺したり、自分一人で戦功を挙げてのし上がろうとしていたり。

 仲間割れってやつ。


 さっきのサル顔の野球部員がいい例だろう。

 話し合いとか何とか言っていた。真っ先に俺を殺すのではなく、お喋りしましょうと。

 誰も文句を言わなかったのは、アイツがリーダー格だからだろうな。


武器選択セレクトウェポン魔導書グリモワール

武器選択セレクトウェポン妖精のフェアリー銀衣ロースキン

武器選択セレクトウェポン、にっかり青江』


 化け物の呻吟と気炎が、次々と瞑目していく。

 本を片手に無詠唱の魔法でオークを殺戮していく女の子。

 銀のローブを纏い、あらゆる攻撃を跳ね返す女の子。

 刀一本で魔物たちをぶつ切りにしていく野球部員。


 一騎当千の武者はこの三人だけだ。

 他は、まぁまぁって感じか。能力が雑魚かったのか、やる気がないのか、あまりぱっとしない。


 オッケー、大体分かりました。

 次のステップへ進もうじゃないの!


「ディキ」

「はっ」

「次……」


 次のステップへ進めと言おうとしたんだ。そしたら、磔になっている、でゅふふ三兄弟を見捨てて逃げた、でゅふふが、俺の前にイキナリ現れた。瞬間移動、ああこの世界風に言うと転移して来たわけだ。


 バカなの?背後を取ったら?


 負けてたまるか!

 俺はもっとバカな事しよーっと。


「でゅふふ。目を瞑るとは、ナメすぎでござるよっ!」

『音叉響』


「ゔっっ」


 今、呻いたのはディキね。手を出すなという命令を守ってるのは偉い。

 でも、逃げたら?今の言い方完全に必殺技じゃん。


 どんな状況か、目瞑ってるから良く分からんけど。たぶんキツイんだろ。だったら休めよ。俺のところは、そこまでブラックじゃないからな。

 俺は『反駁リフュート』を使ったから一ミリも効かんけど。


 俺が何故目を閉じてるのか、そりゃあ能力を使いたいからよ。ミカちゃんが持ってた『暗視的中』を、試したいのよ。どんな攻撃ができるのかなってさ。

 鑑定眼で弓術のチートだと判明している。しかぁし!チートなんだから応用が利くはずでしょ。チートがチート足り得るのはそういうとこでしょうが!


 能力同士を組み合わせたり、弓以外を使ったり、ゴミ能力が汎用性の高い、高機能の能力に早変わりするんでしょ?

 じゃあ実験しようか。


ファイアーボールイモレーション


 何の変哲もない『ファイアーボール』を地面に向けて放つ。テンプレ魔法で、これまた汎用性の高い主人公に愛される魔法だ。


「でゅふふ?何をしているでござるか……」


『影渡り』を発動。火の玉を地面に隠して、次に現れるのは?俺の予測が正しければ、でゅふふの股下の地面から飛び出してくるはずだ。股間にクリーンヒットしますように。今だ!


「何故効かないのでござるか?おかしい、音で体内をぐちゃぐちゃにする……ひぐっ」


 爽やな呻き声だ。叫ぶ間もなく女の子になったようだ。

 目を開けると、膝を内向きに曲げて、がくがく震えるでゅふふと視線が交差する。股間が真っ黒だ。貴様、ヤリチンか?


『暗視的中』の効果と『影渡り』の可能性が見えてきましたな。『暗視的中』は弓だけでなく魔法でも能力に使用できる。たぶん拳銃とかもイケると思う。投擲も対象内なのだろうか。

 眼を瞑って、ナイフをポイッと。


「い゛ぃ、いぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛」


 対象内でした。そして、地上にいなくても自動追尾の仕様は変わらないって事も分かった。やっぱりチート能力だ。


『影渡り』は、生物でなくとも受け入れてくれて、任意のタイミングで脱出口を開くことが出来る。

 とどのつまり、石をぶん投げても当たるし、ターゲットの背後から石を出現させて暗殺することもできると。


 これは調子乗るわー。だって気分良くなるもんな。能力の隠れた才を引き出して調教してる気になるもん。こうして花開くと、達成感があるもん。能力を磨きたいという意欲も湧いてくる。

 ぜーんぶ、神の仕業だろ。設定だろ。


 主人公が調子に乗ってるのって神のせいじゃね?

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