第15話俺の神様のお告げ

「さて、前回の続きじゃ」

「はっ」

「ワシは何もしとらん。言うたじゃろ、他の神は過干渉でけしからんと」

「仰っていました」

「まずは神の話からせねばな」


 神とは祈る者が創り出した偶像であり、その偶像は世界を創る力を持ち、人間を創る力を持つ。神は消えることがなく、存在し続ける。祈りがあろうとなかろうと、彼らは確かにいるのだ。

 そして祈る者達が求めたとき、神もまた子らの求めに応じるだろう。それは日頃の祈りによって叶えられるだろう。

 即ち、日々に祈りを取り入れれば神はきっと祈る者を救い給う。祈りを欠く者の求めは、神に届かないだろう。

 人間同士の意思疎通と同じである。

 初めて会う人と気の知れた友人とでは、情報量に差異がある、まさにそれなのだ。


 祈る者とは神を信仰する者である。

 そして彼らの神は同一ではない。

 魔族には魔族の、人間には人間の、種族にはその種族の、ある国では様々な神が信仰されている。そしてそれぞれが神に求めるのだ。


 ――希望を。


 それ即ち転生者であり、勇者、英雄と呼ばれる者の卵なのだ。

 彼らの行く末は彼らの意思に委ねられるのが自然である。何故なら転生した先は神の領域ではなく生物の世界だからだ。それに過干渉する神がいる。自然の法則を捻じ曲げ、転生者の意思を歪め、運命の賽子を動かすのだ。


 そうして悲運を背負ったのが魔族である。


「何故神様は魔族を助けなかったのですか?他の神がやってるなら、神様がやっても文句は言われないでしょう」

「ワシが感じた初めての祈りは、我が子の未来を想う母のものじゃった。子供が元気に楽しく過ごせる世界をお創りください。ワシが介入すれば子供の遊び場は荒廃した文明となるだろう。血を吸い腐肉が埋もれた大地となるだろう。日も月も隠れた曇天の世界となるだろう。そこで子供が元気に楽しく過ごせるのだろうか」

「なんとも言えませんね」

「あの時代は良かった、まだ考える余地があったからじゃ。今ならば介入しただろう。この惨状を前に四の五の言ってはいられんからな」

「ではなぜ?」

「今の願いは復讐じゃ。只それだけに身をやつすとそう祈っておる。だから力を、だから扇動者をと求めておる。ワシに力を振るってほしいのではない、自らの手で人間を苦しめたいのじゃ」

「回りくどいことをしますね」

「分からんお前ではないだろう?」

「ええ、よく分かります」

「だからこそワシは干渉しない。祈る者達が望んでおらんからな」

「納得しました。この機会を頂けたことに感謝いたします」

「帰るんじゃな」

「はい、何故かとても眠くて……」

「祈る者達が呼んでおる。魔族を任せたぞ、二郎じろう菊門きくかど

「はっ!」


 名前をバカにしたやつは全員ア〇ル串刺しにして痔瘻にしてやるから覚悟しとけよ!しとけよ……あーいい香りだー。


 3日間蒸れた香りだ。



 あっ、マズイちょ待っ――!


「ヤバいっ!」

「ジロー様!?」


 俺は思わず飛び上がった。そういえばアマネを虐めてからヌイていない。そして俺好みの香りだ。つまりそういうことだ。ガチガチで立ち上がれない。今は武士のように背筋を伸ばしてあぐらをかいている。死んですぐの男とは思えない胆力だと、多分思われているだろう。


「ジロー様?お休みにならなくて良いのですか?」


 なんと魅惑的な腿。お前……クソっ!その太い足でよく短パン履けるよな。最高だよお前、くそエロいわ、もうムチムチババアじゃなくて太腿にしか見えない。香ばしい太腿だお前は。


「モモ、一旦風呂に行け。俺は気を鎮めたい」

「し、しかし……」

「すぐに行くのだ!俺の気が変わらないうちに!」

「は、はいっ!」


 これで3日、時間を稼いだ。ああ、なんてこった。あの蒸れた床、飛び込みたい、顔面を擦りつけたい……。


標様しるべさまみんな表で集まっております。ご挨拶なされては如何ですかな?」

「――それは出来ない」

「何故です!?やはりお体に不調が?」

「違う、むしろ元気だ」

「ではなぜ……」


 中学生ぐらいガチガチだからなんて言えないよー。俺のチ〇コを握れば傘になるぐらいギンギンだなんて言えないよ。

 めっちゃ真剣な顔してるもん。絶対殺されるって、ふざけんな!って殺られるって。

 こういう時は、落ち着いてとにかくスローペースで動作するんだ。そうすると、何故か説得力が増す。


「あの主人公、なんと言ったか」

「主人公、ああ青髪ですかな?」

「ああそうだ。名を名乗っていたか?」

「マティーニからの情報では名前は不明だと」

「――そうか」


 クソう、いい感じで話逸らせないよ。

 全く鎮まらない、ああどうしよう。神様助けて、助けてください!蘇ったばかりなのに朝立ちしてたなんて恥ずいです!マジでお願いします!攻撃系の能力とかいらないから朝立ちを一発で鎮める能力をください!


「族長!」


 はっ!?ビックリした。何ぃ?怖いんですけど、ここ社長室とかじゃないよ?俺の家だよ?ノック忘れてました!てへ、で簡単に入れる場所なの?めっちゃ不安になってきたよ。おちおち朝立ちもできねぇじゃんよ。


「何事だ?」

「青髪の転生者が来ました!」

「なにっ!?」


 それからさ、お前族長なんだ。お前ら偉いんだ。キャラ変わりすぎじゃね?ボケてたじゃん、あれ何だったの?シリアスシーンだったからツッコまなかったけど……。ババアもな!?何だお前、背筋ピンとして凛々しい顔すんなよ。


 つーか転生者しつけー、帰れよー。見逃してやったじゃんよ。俺ギンギンなんだよ、立てないよ。絶対俺にお伺いを立てるよね?で、俺勃ってるよね?お前らに殺っとけって命令していいの?いいんだろうけどさ、蘇っていきなり部下に任すのってどうなのよ。

 あー、ヤバい、何でだ、なんでここに来て性欲が爆発してるんだ。


「標様如何いたします?」


 ほらね、どうしよう。


「一旦、御用を伺え!行けっ!」

「は、はっ!」

「あなたの命を狙いに来たのでは?ここは戦いましょう、捕らえて拷問してもいいでしょう」

「ちょっと待て!色々と準備がある……」

「――まさか怖気づいた訳ではないですな?」


 目が怖いよ、違うんだよ。

 クソっ、クソっ!仕方ない、こうなればやるしかない!


「ゴホンッ、ちょっと折り入ってご報告とご相談がありましてね……」


 恥っず。もごもごしながら息子が爆発しそうですって報告したよ。ジジイ苦笑いだったよ。ババアは凛としてたよ。

「し、鎮める必要がありますな」

 族長が言葉を絞り出すんだ。すまねえ、マウントを取りたかった訳じゃないんだ。シワシワのお前にこんな相談、酷すぎるよな。すまねえ!


 で、来ましたよアマネちゃんの前に。

 これから何をするのか、それは言えねえな。大人の時間だからさっ!



 はいっ、終わりましたー。お前らみたいな毛のない者共には見せられないプレイ内容だったわ。


 気になる?

 んもおー、ちょっとだけ教えてやるよ。


 アマネちゃんは牢屋の中で落ち込んでるだろ?その前にはミカの死体があるだろ?俺の息子超元気だろ?


 独りでシました。


 アマネの悲しそうな顔が堪らなくてさあ。

 アイツ、俺を見ても怒らなかったのよ。仲間を殺した男だってのにさ、オカシイよな。

 もしかしたらストックホルム症候群かもしれんと思ってさ、ちゃんと恨みを思い出させたわ。


 見られながらってのも良いもんで、スグに、ね。アマネちゃん、目を逸らしやがったからさ、初心だなーと思って興奮したわ。

 んで、狙いを定めたのがご遺体の――――――――だったのよ。ちょうどクリーンヒット。


 ちゃんと怒ってくれたよ。


 それをオカズにまた。もう止まんないよね。

 結局5回?イッちゃった、てへ。


 はい、もう止めます。

 吐き気を催すな!これが性欲なんだよっ!ていうか新しい発見があってさ、俺のザクロが治ってたわ。

 たぶんだけど、死んだから治ったんだと思う。

 俺の脚がくっついてただろ、つまり生き返るタイミングで怪我が治ったわけよ。たぶんその時に息子の方も治ったわけよ。今思えば、あの時も体調が良かった。そして今もすこぶる元気。息子だけじゃなくて、本当に体調がいい。

 これはきっと神の恩寵だ。サービスしてくれたんだと思うね。朝立ちは正直困ったけど、まあ優しさだからありがたく受け取ったよ。神よ感謝します。


 さて、爆発音とか烈風とかそういった類の戦闘音が全くありませんな。シコってる間は集中してたから気にしてなかったけど、賢者になってからは、嫌な胸騒ぎが……。

 まさか全滅!?

 俺は走った。ちっさい村なのですぐに状況が理解できた。


「お、お前ら何してんの?」

「おおジロー!見てみろ、族長が孫にしたいって離さないんだ」

「はっ?」


 フレデリカという魔族はえらく人気だった。ジジイ族長がおんぶして顔をほころばせてる。緊張感の欠片もない。何かみんな喜んでるし、何がそんなに面白いんだよ。


「魔族はあんまり子供を産めないんだよ。濃い魔力が原因らしくてさ、だから子供を見るのは久しぶりなんだ」

「そういや、この村のガキも少ないな」

「みんな嬉しいんだよ。家族が増えたんだから」

「はぁ、お前ら今から何すんのか分かってる?」

「えっ?」


 バカの集まりかよ。放置プレイされてるあの転生者を殺さなきゃいけないってのに、こんなにキャッキャしてていいのかね。

 あーあ、何か興ざめだわ。どーしよっかなアイツ。

 長屋の壁に凭れ掛かる転生者の元へ近づくと、腕組みをして俺に焦点を絞った。


「フレデリカがここへ来たいと言ったんだ」

「あそ。お前さ、死ぬ気ある?」

「ない」

「あそ。転生者狩りが俺の使命なんだよねー。でもお前、哀れすぎてつまらんから悩んでんだよ」

「はあ、敵にも同情されるのか」

「奴隷にならない?丁度いい女もいるし、お前童貞だろ?」

「どこを見て童貞だと思ったんだよ」

「雰囲気かな。どうよ、何してもいい綺麗な女あげるから、奴隷になろうぜ」

「ふざけんな、奴隷なんか……」

「えー、じゃあ殺すよ?俺マジで強いよ?3回目の人生だから半端ねえよ?」

「死ぬ気もない。交渉の余地はあるか?」

「全然あります。魔族は転生者が嫌いだから、転生者狩りに協力するか俺の奴隷になるかしてくれるなら助けてやるよ」

「転生者狩り、か。それなら喜んで協力しよう」

「ほう、その心は」

「高校のクラス全員で転生した、そのうちの一人が俺だ」


 はーい、回想ね。高校生の物語だからきっと爽やかだろうな。


 ※※※


「春日井 優紀 といいます。よろしくお願いします」

 俺は転向した初日に洗礼を受けた。ど田舎の高校で、都会から来た俺が邪魔だったのかもしれない。

 ヤンキーの集団に金をせびられたり、靴を隠されたり、時にはカバンに残飯が入ってたこともあった。とても幼稚なイジメだったが、その興味が別の人間に移ったことで、ぱたりと止んだ。


 見てみぬふり、我関せずを貫いていたクラスメイトは、当然のように話しかけてきた。


 イジメなんて幻覚じゃないのか?とでも言われているような気分だった。

 幼稚だと考えていたのは、その程度のことしか出来ないバカなんだと、自分を納得させるためだった。でないと自分がチンケな蛆虫にでもなった気がして辛すぎたからだ。口も聞けない、逃げることもできない、ただやられるだけの虫けらだと思い込んでしまわないように、彼らを心の中で貶めるのが精一杯だった。

 助けもしない、イジメもしない。何もしない奴らも俺の中ではバカだった。


 それなのに、彼らは笑って話しかけてきた。

 東京のどこに住んでたのか、ディズニーランドに行ったことがあるか、有名人と会えるのか。

 会話の取っ掛かりを探していただけだと分かっている。でもとにかくムカついた。そんなのどうでもいいだろ、あの時笑って見てただろ、まずは謝れよ、無かったことにできるかよ。


 結局俺は一人だった。イジメは無くなったけど、友達もできず、クラスで1人浮いていた。

 俺の代わりになったのは、ある女の子だった。そばかすだらけの、純朴で気弱そうな子で、きっかけはある男に色目を使ったとかそんなことだった。

 イジメグループのリーダーの女、その子が先頭に立ってクラスの雰囲気を作り上げていた。まずは無視、それからハブる。この辺りでターゲットになったんだと気付く。田舎臭い彼女が、辺りを見回して悲しげな目をしていた、その表情が忘れられない。自分と重なって、俺まで惨めな気分になった。

 俺が好きなマンガの主人公なら、きっと助ける。無邪気な笑顔で堂々と手を差し伸べる。でも俺はただの虫けらだ。心を痛めて、同情して、憐れに思って家に帰るだけ。


 次の日、学校に行くと彼女はいなかった。その方がいい、辛い思いをしてまで来るようなところじゃない。彼女の思いをすべて汲んでいるように俺は納得して、頷いてあげた。間違ってない、いつか必ず終わるから、それまでは耐えるしかないのだと、心の中で応援していた。


 ピコン、スマホの通知に気づいて内容を確認した。

 俺は後悔した。だからすぐにその画像を削除した。本当に幼稚だ、後先考えない糞バカで、他人の心なんて存在しないとでもいう所業だった。イジメ、そのレベルはとっくに超えている。ただの犯罪だ。強制わいせつ罪とかそんな罪になる、ならないとおかしい。


 だからといって俺は何もしない。ただ悲しくて、やるせない気持ちだけで、勇気なんかどこにも持ち合わせていなかったから。

 スマホを見ながらクスクス笑うクラスメイト。彼らの声を聞きたくなくて、俺は机に突っ伏した。

 そして音も光もない、一人の世界で彼女が死んでいないことを願った。

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