第5話既定路線へ出発

「だれー、小さい王様?」


 後を付けて森の中を進んでいくと巨人達が私に気づいた。よく見つけられるなー、一体何を感じ取っているんだろう。

 以前よりも恐怖は少ない。今回は突然の襲来ではなく、私がこっそりストーキングしていたからだ。気付かれたのには驚いたけれど、巨人たちの目的が何なのかちゃんと分かっているから大丈夫。いい画を撮りたいんでしょう?ちゃんと制作側の意図は理解しているからこうしてきたのだ。

 少しだけある恐怖は、間違って踏み潰されないだろうかという心配から来ている。竹馬か肩車か、バランスを崩して倒れないよね。


「出てこーい。小さい王様!何か、用だな」


 小さいっていうの要る?やたら強調しているけれどどう意味なのだろう。

 最初に会ったときは王様と呼んでいたのに、前と何が違うのかな?あの男の人を呼ぶときは王様だったし。初対面の人に会うときは王様と呼ぶのかな、社長さんと呼ぶ感覚なのだろうか。

 んん?前と違うといえば、なんで私を見つけられないんだろう。この森で隠れていた私を器用につまみ上げていたのに、今はわざとらしく辺りを探している。


 魔力……か。今も見えるオーラ、その正体は魔力測定マギスケールというぐらいだから魔力なんだろう。彼らも魔力を認識しているんだ。

 今の私は探すのが難しいぐらいに魔力が小さいのだろうか、小さい、あっ!小さい王様の意味は、魔力が王様か。たぶん、あの男の人と比べて大小の区別をつけているんだろうな。

「私はここでーす」なんて声を出したら、折角のこの能力を無駄にしてしまう。番組が用意した特殊な装置によって魔力という物を作り出しているのだろうから、ここは魔力で気付かせたほうがPも喜ぶだろう。あの時どうやって魔力を出したっけ?当時は魔力の存在すら知らなかったのに。えーと、当時は……

 逃げようとしてた。危険だと思った。単純な恐怖があった。

 恐怖を覚えると血の気が引く。引いた血はどこへ行くのか。手の指が冷たくなり顔面が真っ白になり、どこへ血が送られているのか。逃げるため、肺へ太ももへふくらはぎへと送られる。これは本能が呼び醒ます肉体の力。

 本能が私の魔力を強く表したのかもしれない。残念ながら、あの時のような強い恐怖はない。

 本能か。今すぐに疼くのは飢餓感かな。とにかくお腹が空いた。繰り返し想えば魔力になるかな。

 お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた。


「あー小さい王様、いた」


 巨人達がこちらに気づいたようで近づいてくる。鈍臭い話し方、ノロノロとした動き、決して知能は高くない設定か。

 また摘まれるのかと思ったけれど、今回は私を見下ろしたまま待ってくれている。

 少しだけ裏側の話をしてもいいだろうか。編集でカットとかできるよね。いきなり連れ去られてもこうして協力しているんだから子供のことを聞くぐらい、大丈夫だよね。


「あの私、子供が待ってるので、早めに切り上げたいんです。皆さんに協力しますから、電話だけでもさせていただけないですか?」

「――何、言ってる?意味、不明」

「この番組のコンセプトはだいたい把握しました。ちゃんと王様やりますから、子供に電話をかけさせてください」

「頭おかしい?小さい王様」

「――こうして私が頼むこと自体おかしいんですよ!あなた達は誘拐犯、そしてここは日本、警察に突き出されたいんですか?倒れていた私を助けてくれたのは感謝してますけれど、やり過ぎです!」

「ニホン?ケイサツ、何言ってる?お前王様やる?」


 設定に忠実なのはいいけれど、今だけ普通に話してくれてもいいじゃない。どうせ編集できるんでしょ、ヤラセになるとか気にしてるのかな。


「SNSとかで絶対に拡散しません。裏情報は一切書きません、なんなら誓約書も書きますから普通に話してくれませんか?」

「話している。でもお前意味がわからない」

「いい加減にしてよっ!日本語通じないわけ?お願いします、誰か上の人と話させて」

「ニホンゴ?上は俺、族長」

「そういうのはもういいんですって。これは日本語でしょ?」

「オークの言葉。お前話してる、やはり小さい王様」


 オーク!?この人たちはオークという設定なのか。にしても頑固すぎて融通が利かなすぎてムカつく。


「どうしてもダメなんですか?警察に行きますよ?」

「ケイサツなに?それがニホンゴ?」

「――当然でしょ白々しい」


 ここでも道化を演じろというのか。言葉が上手く伝わらないオークと私が問答を繰り返し、最後に何かに気付く、そんなストーリーを思い描いているのだろう。

 ここまで頑強な態度に出られると話すらまともにできない。憤懣やるかたないけれど、Pの思惑通りに動いてやる。

 ここまでするってどこの制作よ、絶対海外、アメリカね。Am○z○nあたりかな。


「私は根津等不子ねづとうこです!」


 日本語でハッキリと自己紹介をした。言い慣れた名前だ。完全に日本語だし、日本語以外に変換するなど不可能。オークたちは日本語が分からない設定みたいだから糸口になるだろうと考えた。これで制作側からヒントが与えられるだろう。


「小さい王様、意味分からない」

「知らない、知らない」


 はいはい。で?

 なんで黙るの?知らないのは分かったから何かイベントを起こしなさいよ。


「――日本語が分からないのね?」

「うん」

「何で今の質問は分かったの?」

「それオーク語」

「私は根津等不子ねづとうこです」

「分からない。オーク語話せ」


 小劇団のベテラン役者さんだろうか、本当に分かっていないかのような態度だ。


「どこが制作してるんですか?私が直接問い合わせます。あなたじゃお話にならない」

「お前、さっきから何を言っている。用がないなら俺達帰る」

「はあ?いい加減にしてよ!あんた達、人を誘拐してただで済むと思ってるの?私は協力するって言ってるのにバカなの?」

「――――怒るな、俺達悪者じゃない。戦いたくない」


 な、何よ、何で急に怯えるのよ。

 もしかして魔力?怒ったから魔力が、オーラが大きくなったとか?

 当然怒るでしょ、いい加減に帰らせてよ!


『あなたの家は別の世界にあります。これは現実で、全く別の世界なのですよ。さあ、すべき事をするのです王の器よ』


 声だ。声、だ。

 私は何をしていたっけ、確かドッキリがどうのとか。いや違う、日本語が分からないって話だったっけ。その前は何の話をしていたっけ、ああ、自己紹介をしたんだ。王様になるためにまずは交流しよう思って、名前を教えたんだ。そしたら日本語が分からないって……


「日本語が分からないんですか?この言葉は?」

「分かる、オーク語。お前そればかり聞く」

「ご、ごめんなさい」


 自己紹介が分からないのかな。日本語固有の名詞が分からないってことかな。


「私は、根津等不子ねづとうこです」


 ハッキリと伝えた。頭の中で言葉を思い浮かべて、それを読み上げるように口に出した。これはどうかな。


「それがニホンゴ?何言ってるか分からない」

「意識すると逆に伝わらないんだ」

「それは分かる、でも何の話?」


 不意に口をつく無意識の言葉は正確に伝わっている。でも意識した言葉は、自己紹介は伝わっていない。日本で言い慣れた、もはや定型句みたいなものだから、日本語で話せていたのだろう。

 つまり勝手に翻訳されていたのだと思う。正確には勝手に翻訳して話していた。

 ああ、私はこれをドッキリだと思っていたんだ。

 でもこんなに高度なドッキリ見たことない。意識をネズミへ移し替えて、リアルな感覚とオープンワールドな世界を楽しめる技術なんて知らない。SO○Yが開発した?なわけない。もっと宣伝するはずだし話題に登るはず。


 つまりこの体は、本当に私の体ってこと?夢、それはない。だってこんなに空腹で、こんなに体調の悪い夢見たことがないから。それにあの声、これは現実で別の世界だって……

 魂だけが別世界に飛ばされたとして、元の体はどうなったの?


「小さい王様、俺達帰りたい」

「えっ、ああうん」


 そうだ、用があるんだ。王様になるんだ。その為にここまで来たんだ。


「王様、私を王様にしたいんでしょ?」

「――――あ、でも、うーん」


 え……

 アテが外れた?言ってたよね?王様になれって。何をコソコソしてるの?全部聞こえてるけど?


「大きい王様いる。コイツ、小さい」

「小さい、弱い。でも俺達、より、強い」

「食べる?」

「食べない。また争うのは嫌だ」


 さらりと危機が去った。オーク族長らしき人が英断をしてくれた。村であの男にお願いしていたあのオークだ。ありがとう族長!


「大きい王様は、俺達を帰した。そして強くて危険。コイツは小さいけど、ちょっと優しい」

「優しい、助ける」

「コイツ、嫌なら、大きい王様、頼む」


 たぶん、村にいた男に暴言を吐かれて追い返されたから私に鞍替えしたいんだろう。彼は魔力が多かったから本当は王様にしたい。でも、しつこくして怒らせたら危険だから、私にか。確かにあの男よりは優しいけど……

 ごめんなさい、私も純粋なオーク助けの気持ちから動いているわけじゃないんだ。


「おい小さい王様。王様やる?」


 軽いな!次のプロジェクト任せてもいいか?的なノリで王様やっていいの?こっちはいいけど、オーク族長としてそれはいいの?今度は愚断じゃないの?


「や、やります!私が王様になります!」

「おおー」

「王様!小さい王様!」


 ohなんかめっちゃ喜んでる。いいんだね私で。こんなに喜ばれたら、不安になってきた。無茶振りされないよね。


「具体的に何をすればいいの?」

「王様はまとめる。森の魔物を纏めて平和にする」

「仲裁役ってことだよね?それだけ?」

「子供できない、食べ物ない、これも解決する」

「ほお……」


 魔力の多い人を探していたのは仲裁役をさせたいからか。鳥と犬との仲を取り持って欲しいのだろう。まあそれは双方の話を聞いて解決するとして、子供と食べ物か。


「子供は、交尾……」


 オークって人間だっけ!?ていうかオークってなんだっけ。ファンタジーにあまり興味がないからうろ覚えの知識だけど、豚の顔をした人間だったような。マズイ、人間相手に交尾すれば?なんて言ったら差別されたと怒ってしまう。ここはちゃんとS○Xと言うべきなのだろうか。堂々と言うべきなのだろうか。ていうか、子供ができないと言われても、私医者じゃないしな。


「交尾してる。でも出来ない。俺達小さい」

「ナニが?あっ、いやいやえーと、あ!!魔力が小さいんですね?」

「うん。魔力小さいから出来ない」


 魔力が小さいから出来ない。一旦、シンプルに考えよう。受精がどうのとかオークの排卵期とかそういうのは全て忘れよう。どうせ医者じゃないし、オークの体の構造なんて知らないし。

 まず普通ならば、交尾すれば子供ができる。でも魔力が少ないから出来ない。俺達小さい、俺たちの魔力が少ないから出来ない。つまり魔力があれば子供はできる。

 俺達というのはオーク全体なのか、男達だけなのか。


「俺達とは具体的に誰のこと?オーク全員?」

「俺、これ、これ、これ出来ない。コイツたまにできる」


 違いが分からない。そもそもオスかメスかも分からない。

 聞いていいだろうか。お爺さんみたいなお婆さんパターンで怒られないだろうか。王様だから許してください!


「――ちなみに、皆様はその、男性ですよね?」

「オス、そう。男性。メスは村出ない」


 オッケーイ、セーフ。ノットアングリーねー。男オークの中で分かれるわけか。何が魔力量を規定しているのだろう。

 見た目から察するに出来る派の御仁は傷が多い、戦士って感じの人。

 族長を含む出来ない派はあまり傷がない。そして体も細い。

 年齢か?族長達は単純に年?


「族長、あなたは何歳ですか?」

「ぞくちょう?俺ぞくちょう?」

「あっ、えーとはい。今から族長で」

「おお!」

「ぞくちょう!ぞくちょう!」


 いちいちはしゃぐなよ。こっちは真剣なのに。


「何歳は知らない。俺達若い。コイツもう死ぬ」


 言い方!もっとオブラートに包まんかい!

 族長達出来ない派は若く、出来る派はお年寄り。

 意外だ。お年寄のほうががっしりしているし、如何にも脳筋て感じだ。これは何が問題なんだろう。


「若い少ない。もう死ぬ多い」


 あー確かに。お年寄りのほうが魔力が多い。んーこれって単純にご飯じゃないのかな?


「ご飯いつ食べた?」

「俺、昔」

「俺も」

「俺も」

「うん」

「さっき、食べた」


 うん、て。俺もってことだよね?御老体だけがさっき食べたと。細めの若者とマッチョなご老人、少ない魔力と多い魔力。要するに食べ物だよね。私もつい最近知ったけど魔力回復できる物とそうでない物があるみたいだし。


「もっとご飯を食べたら出来ますよ。子供」

「……」


 何だこいつら、不服かよ。医食同源、体の不調を正すには食生活を見直さないと。今回は不調じゃないけど……あっ、医食同源か。何となく分かった気がする。


「お爺さん、さっき何食べたんですか?」

「カエル」

「カエル……」


 まさかあの毒ガエル?アイツ魔力持ちだったのか。今度食べてみようかな、空腹が止まらないし。嫌どうだろう、あの毒を避けながらというのは難しいかもしれない。

 そうして私が行き着いたのが草食くさしょくと昆虫食。では、若手オークの皆さんは何を食べているのだろう。まさか草を食んでますなんて言わないでしょ。


「皆さんはカエル食べます?というかいつも何食べてます?」

「カエル、死ぬやつが食う。俺は草と虫」

「俺も」

「俺も」

「うん」


 やる気出せい!私は王ぞ?俺もぐらい言ってよ。

 そりゃそうだ、痩せるよ。私と同じ食事だもん。便通はいいよね。

 食事から体を作る、食事は腹を満たすだけ。大きな違いだ。これを理解してないからあのリアクションだったわけだ。こればかりは体感しないとだね。結局行き着くのは食事か。この辺に住んでいた私は知っている。動物は私ぐらいで、いるのは虫だけ。改善のしようもないんじゃないの?


「皆さん、どこで食料を採ってます?」

「家の近く。もっと奥」

「案内してください」

「ついてこい」


 犬と鳥はどこに住んでいるのだろう。どこもこんな有様なら喧嘩するのも頷ける。この森はどれほど広いのだろう。もしも私の想像通りの森で、皆が食料危機なら、もう保たないんじゃないかな。原因は分からないけれど、餌がないのなら住処を変えなければ……


「あれ」


 族長が示した先には禿げ上がった広漠な土地があった。木も草もない、森に砂漠が乗っかっているような寂しい場所にはオーク達がいた。ここにいる、オーク達よりも細いオークばかり。


「ここの草食べる。もう虫がいない」

「移動はしますか?」

「する。でも犬たちが煩い」

「――なるほど。今、子供は何人います?」

「2人」

「大人は?」

「300」

「……」


 SHIT 非常事態だよ。子供ほしいねーなんて生っちょろいものじゃない。種族が絶える瀬戸際の話だ。数匹だけ魔力の多いオークがいる。傷の多いオーク、あれはお年寄りの男性だろう。女性オークは、分かりやすい。人間と同じく丸みのある体つきをしている。ざっと数える限り交配に耐えうる魔力を持っているのは男女合わせて15人ほど。食事さえ変われば容易く改善するのに、ここじゃどうしょうもない。


「もっと人里に近いところなら、虫も草もいますよ?移動しましょう」

「ダメだ。王様強い、王様多い。みんな恐い」


 村に住むあの男の魔力が萎縮させるのか。だから近づけないと。あれ、今思うと幾分か体が楽になった気がする。相変わらずお腹は空くけど。でも頭のクラクラが消えた。それに嗅覚も聴覚も鋭くなっている。大翼の羽ばたきが遠くからやってきている。喘息のような呼吸音も同じくこちらへと向かっている。大自然を前にして体調が治ったみたいだ。ラッキー、そう思っていると数匹の鳥がオークの住処へと降り立った。ふらふらと立ち上がるオーク達に負けず劣らずの細さだ。骨と皮だけのミイラに見える。

 ヒューヒューと息を切らす犬もやってきた。座って俯いていたはずのオーク達は鳥と犬に視線を送っているが、敵意はない。少しの警戒を滲ませつつも、仕方なくといった様子だ。


「王、か?」

「――王?」


 鳥と犬は私を見て首を傾げた。たぶん貧弱な魔力に疑いを持ったのだろう。確かにここへ来てからというものまともなご飯は食べていない。魔力を齎す食事を知ったのは最近だから、彼らと会った時よりも、魔力は少ないだろう。でも、ここにいる誰よりもはっきりとした魔力を持っているのは私だ。

 皆貧弱すぎる。


「今日から王になります。あなた達は族長?えと、リーダー?かしら?ボス?」

「族長だな」

「首長だ」

「今日から族長で統一しましょう。あなた達の名前は?」

「ワイバーン」

「ブラックドッグ」


 まずは争いの解決からだよね。


「争いは終わりです。ルールを決めました。小さな揉め事は族長で解決してください。ただし、大きな争いが起きた場合、問答無用で追放します。手を出した方を。いいですか?」

「その前に飯がほしいところだな」

「こちらもだ」


 ワイバーン族長はキザっぽい口調でそう答えた。だよね、やっぱり食料だよね。犬の方は随分と落ち着き払っているが、消えかかる魔力には目も当てられない。この三者で一番苦しいだろう。引き連れる仲間が2匹だけ、言葉にしなくても種族の悲壮が伝わってくる。


「分かっています。それは協力して解決しましょう。追放に応じますか?」

「王が裁定をするのか?ならいいぜ」

「追放を拒んだ場合はどうする」

「いいでしょう、裁定は私がします。もしも追放を拒んで一族で庇い立てしたら、私と他の種族で強制的に排除します」

「応じる」

「――我々は耐えた。これ以上保たない」


 ブラックドッグ族長は悲痛に顔を歪め、私を見下ろす。


「食料問題が解決しないなら、戦争をしてお前達を食う」


 団結して一方向へ進む必要がある。列を乱すなら力という枠に押し込めてでも整える。自然に対抗するには大きな力がいるからだ。私にはここの知識がない。だから、とにかく協力が不可欠なのに、彼に折れる気配はない。


「40、動けるのは20。死にかけている仲間がいる。今すぐに魔力がいる。食っても食っても治らない。お前達と仲良くしている時間はない」


 もう十分に苦しんだ。ただ耐えろというのは残酷だ。仮に大義のためだと説明しても無意味だろう。彼らは風前の灯火、未来よりも今すぐに必要なものがあるのだ。今日死のうが明日死のうが変わらない彼らにとって、三者間の関係などどうでもいいのだろう。


「魔力、か。魔力が多い場所はどこ?この辺りで魔力が濃い場所は?皆が知っている所を教えてください」

「大きい王様の所」

「人が住む村かな」

「森の先だ」


 みんな同じ意見だ。やはり人間達の魔力がこの辺りで一番多い。そして餌にもなり得る。どうしよう……


「だがあり得ない。アイツらには手を出すな。掟だ王よ」

「掟?」

「ここにいる誰もが手を出さないのは言い伝えがあるからだ。悪魔喰いは一族を滅ぼす。誰もが知っている」


 オークもワイバーンも頷いた。悪魔?人間は悪魔なの?まあ、そういう一面があることは否定しないけれど、一族を滅ぼすとは。迷信の類だとは思うけれど、それを信じて手を出していなかったのか。

 ちょっとだけ肩の荷が下りた気がする。でもどうしたら……


「ちなみにこの辺に食い物はないぜ。飛んで飛んで飛び回ってこの目で確かめた。動物は食い尽くしたし、魔物は俺たちだけ、あるのは草木と虫だけさ」

「――それを」


 かき集めて?あり得ない。3つの種族がそれぞれの縄張りで取り尽くしてるから、微々たる物だと思う。今からこの森の調査をする?これもない。目の前の問題を解決しないと誰も協力しないはず。そして私がさせたくない。ブラックドッグには、同情しきりだから。

 今から、人里近くに行って一時凌ぎはできても持続しない。でも行くしかないよね。


「先ずは人里へ向けて移動します。全種族です」

「縄張りはどう分ける?」

「分けません。纏まって行動します。ブラックドッグから優先して魔力の多い食料を与えます。良いですか?」

「それはどうかなー?」

「俺達は?魔力小さい」

「死にそうな者へ優先的に、これならどうです?まだ余力がある者は耐えてもらいます」

「俺達はそれでいい、小さな王様」

「そういうことならいいぜ。ちなみにアテはあるのか?」


 当てはない。ただ飢えているだけならまだ猶予があった。でもみんなの飢えは魔力の飢え。魔力を見つけないと……


「とにかく行きましょう」

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